魔力の師
レテ君とリアーさんが離れて、朝ごはんを食べ終わったあと。私とネイビアはスイロウ先生に許可を取りに来ていた。
「すまんなぁ、今日は訓練場の予約が全て埋まっているのだぁ……」
「そうでしたか……うーん、どうしよう……」
私は考える。ネイビアの為に出来ること。
……そういえば、こんな時レテ君ならどうしていたのだろう。
(いけないいけない、何でもかんでもレテ君頼りにしちゃダメだよね……)
何故だろう、最近レテ君に思考を寄せることが多くなった気がする。
原因は分かっている、分かっているのだけれど。今は見ないふりをする。
「うーん……そうですね。座学はどうでしょう」
思考していると、ネイビアから提案があった。
慌てて現実へと戻ると、彼へと問いかける。
「ざ、座学?何で?というか私……教えることなんて出来ないよ?」
「そうですか……」
どこか残念そうなネイビア。そんなに何かを学びたかったのだろうか。私ではなく、レテ君なら教えられたのだろうけれど。
出来ることと言えば魔力の鍛錬ぐらい?そう思っていると、過去のレテ君の言葉を思い出す。
『この中で、魔力という存在を意識した人はどれぐらいいる?』
「……ネイビア、魔力ってどういうものだと思う?」
「はい?魔力は魔力……そこにあるものではないのですか?」
やはりそうか、となる。それなら教室で十分だ。
「スイロウ先生、Sクラスの教室を借りていいですか?」
「おぉ!いいぞ!ただ監督役も必要だから先生も行くが、良いかね?」
「はい、大丈夫です」
そうと決まれば鍛錬の時間だ。
私はこれを意識してから強くなった。
彼を護るために。
上がりかけの太陽の日光が教室の中に差す。カーテンを軽く閉めると、黒板の前に立つ。
「ネイビア、魔力って自然にあるものじゃないの。意識して、お腹の辺りに魔力と思っているものを集中させてみて」
そう言うと、彼が実践し始める。数分後、あっと声を出して呟く。
「何かが……お腹の中に、ポカポカしたものを感じます」
「そう、それが魔力。これを鍛えることで、自分の使える魔力の総量を増やすことが出来るの」
「そうなのかぁ……!シア君は物知りだなぁ!」
スイロウ先生も感心している。やはり、彼の言った通り魔力を当たり前だと思っている人が私を含め、多かったということだ。
「……全部、レテ君の受け売りなんですけどね!私も聞かされた時はびっくりしましたよ。
話を続けます。この魔力は今自分が使える限界値……えぇと、最大量です。筋肉と同じです。
では、これを意識して使うとどうなると思いますか?」
スイロウ先生は直ぐに納得いった様子で頷く。ネイビアは少し考えている。
(……レテ君、何も異常が無いといいのだけれど)
一抹の不安が拭いきれない。隅っこの最後のゴミが取れないような、そんな感覚。
「……えーっと、筋肉と同じだから……。自分がどこにどれだけ力を入れれば良いか分かるようになる……?」
「!そ、そう。魔力も同じ。魔法のどこにどれだけ魔力を使えばいいか分かるから、今まで無駄にしていた分のロスが減るの」
ついボーッとしてしまう。それは授業を教える側として良くないことだ。
自分の心に喝を入れると、ネイビアに改めて向き合う。
「今まで魔力を意識してないから、どこかに無駄な魔力を吐き出したりとか、魔法を使える数に制限があったりとか……したと思う。
でも、このお腹の中にある魔力を意識しながら魔法を使うと、徐々に分かってくる。自分の総量、魔法のロス、効率化。それを試して見て欲しいの」
「そんな方法が……ありがとうございます。ですが教室の中では魔法は……」
そう、普通の魔法は教室では出せない。被害が出てしまう。
普通の『攻撃用の』魔法なら。
「今からネイビアに試してもらうのは、小さな小さな人形を土で作ってもらうこと。……それぐらいなら許されますよね、スイロウ先生?」
「あぁ!ただ教室の掃除はきちんとするんだぞぉ!」
スイロウ先生の許可も貰ったところで、ネイビアに指示を出す。
「まずはお腹の魔力に意識を向けながら、人形を作ってみること」
「はい。……ん、んん……?」
作ろうとするが、上手く作れていない。途中で魔力が霧散してしまっている。
そうなるのだ、最初のうちは魔力を意識しすぎると魔法は発動出来なくなる。
それでも根気よく作り続けていくしかない。精密な作業というのは、案外集中力も魔力も持っていかれるものだ。
「諦めずに作って!大丈夫!ネイビアなら作れる!」
「……!はいっ!」
元気な返事をしてネイビアは今まで以上に集中した顔つきで土人形を作る。
そうして何十分後。遂に一個作れた。
「やった……!作れた!」
「ネイビア、魔力を意識して作ってみてどう?」
「なんと言うか……自分の魔力が減るのを実感しました。力が抜けていく感覚に似ています」
「そう。その感覚が大事。それじゃあ土人形を今度は3個作ってみて」
それにまた元気な返事をして、ネイビアは作り始める。
いつの間にか、カーテンも窓も開いて風が入ってきていた。スイロウ先生が気を利かせてくれたのだろう。