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異界の師、弟子の世界に転生する  作者: 猫狐
四章 黄昏のステラ
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魔力の融合

朝食後、シアと別れてリアーに着いていく。

リアーの部屋まで着くと、リアーが声のトーンを変えた。


「……門を開くわ。そこで話しましょう」

「分かりました」


直感が告げた。これはリアーではなく、『イシュリア』なのだと。

告げなくても門を開く、と言われればそうなるのかもしれないが。


開かれた門をくぐると、そこにはアグラタムと数人の白衣を着た人達が待っていた。


「……レテ君。簡単に告げるわ。


貴方は今、魔法を使えない状態にある」


「……っ!」


分かってはいた、分かってはいたのだ。

だけれど、それを自分で認めたくなかった。他人から聞かされたくなかった。


「今からイシュリアの治療陣に貴方の魔力を検査させてもらうわ。どんな異常があるのか、どこに不都合が生じているのか……それを確かめないといけないもの」


そう言うと、こちらへ。と白衣の一人がベッドに案内をする。

寝転がると、白衣の人達が準備をしている間にアグラタムが説明をしてくれた。


「魔力を練れなくなり、魔法が使えなくなるという前例はイシュリア皇国にも多数あります。ですが、それらは全て決まって魔力の扱いに長けていない者……言わば、魔力を引き出そうと努力している段階だったのです。


今回の師は魔力を引き出す事は出来ても、それを魔法にすることは出来ない。その前例は無かったため、こうしてイシュリアの治療陣が検査をし、原因の特定と同じような例の時の参考にさせて頂きたいのです」


なるほど。自分に事前許可が無いのはイシュリアとしても前例が無かったからか、と思いつつイシュリア様に対して愚痴を零す。


「……いくらリアーで話せないからとはいっても、せめて事前許可ぐらい取ってからにしません?」

「ごめんなさいね。でも貴方の損失はイシュリアの大きな損失に繋がる……。なりふり構っていられない状態なの」


そう言っているうちに検査の準備が出来たようだ。

まずは身体の検査をされる。ペタペタと触られたり、痛くないか、辛くないか、正常に動くかを聞かれる。


「……身体面に関しては問題ありませんね。魔力の検査に入ります」


そう言うと不思議な機械のようなものを起動し、その先端の平たい部分が自分の心臓に当たる。

ぺたりとくっつくと、魔力が吸収されていくような心地を感じる。


「……魔力が吸われている?」

「ええ。魔力自体に異常がないかを検査するために少しだけ魔力を貰うわね」


そう言っている間に必要な魔力が集まったようで、白衣の人達が機械を操作しながら相談している。


「……魔力値に異常なし」

「吸われている時の挙動も問題ありません」

「となると魔力そのものに異常が発生したことになりますね」


ブツブツと呟いている内容が聞こえてくる。

不安を抱きながら、いつの間にか寝てしまっていたらしい。

寝ている間に結論が出たようで、白衣のリーダーらしき人が前に出てくる。


「おはようございます。よく眠れたようで何よりです。

……まず、過程の話をします。

魔力値……人が持つ魔力の値、これに関しては問題なく、むしろ多すぎる程でした。

次に質……血液の質とでも考えてもらって構いません。これもサラサラであり、問題なく魔法を通すことが出来ます。

そして魔力そのもの……これも異常が見当たりませんでした。当然、身体的異常も見受けられません」


……何も、問題がない。それが問題ですとでも言うように悔しさが滲み出る回答が出てくる。


「それでは何が原因で魔法を使えなくなったのか?ここからは仮定でお話しますが……。

……身体と魔力の質が、合わなくなったのだと思われます」


「身体と魔力の質……?」


はて、どういうことだろうか。そう思っていると、リーダーの人は頷く。


「分からなくても無理はありません。我々も理解が追いつかないのですから。


……例え話にしましょう。通常、水に塩を溶かせば塩水になり、砂糖を溶かせば砂糖水となります。この時の水が身体の質、溶かしたものが魔力の質です。

通常、この水に食塩を溶かして魔法を使うことになります。

貴方の場合、食塩水に塩を溶けきっている状態にあります。それも、さっきまで真水だったものが突然食塩水に変化したもの。

当然、上限まで溶けた食塩水に塩は溶けません。そのまま底に沈みます。

貴方の体は今、完全に魔力が溶け込んだ食塩水なのです。そして、その身体に魔力を行使しようとしても魔力となる塩は溶けないため、魔法が使えない。

辛うじて魔法が保ったのは、貴方という水の入れ物が大きすぎるために塩が少しだけ溶ける状態にあったから、とでもいうべきでしょうか……」


理解が追いつかない。つまり、自分は魔法が使えないのか?

一生?それとも少し?長い間?


その当然の疑問にも答えてくれた。


「……今のままでは、二度と魔法を行使することは出来ません。そこで、一旦魔力と身体を分離します」


「分離……?」


「はい。今使っている魔力を一度身体の中からある程度出し、中に別の魔力……ワクチンのようなものを入れ込みます。

今まで使えていた魔法はこれまで通りとはいかないでしょうし、魔力に適した新しい魔法を開発する必要があります。それに対して、我らが王と守護者は協力を惜しみません」


恐らく寝ている間に決まった事なのだろう。二人とも頷いている。


「……系統は変わりませんが、扱う魔法は大きく変わります。それでも貴方を失う訳にはいかない。……お願いします、魔力の分離の許可を」

「……少しだけ、考えさせてください。ほんの数分でいいです」


そう言うと、考え始める。

今まで使っていた魔法は、人並みか人並み以下の威力まで下がる。

別の魔法体系の開発をしなければいけないのかもしれないが、それに関しては前世で一定のヒントを得ている。

……後は、自分が『自らの魔力』を手放せるか、否か。


(……あぁ、そうか)


全てが無くなる訳では無いとしても、前世から付き合ってきた魔力。

それと分かれる寂しさを感じながらも、受け入れなければ二度と魔法は使えないという現実。


「……お願いします。魔力の分離を」

「……ありがとうございます。貴方の分離された貴重な魔力は、決して無駄にはしないとお約束します。……例の人工魔力はあるな?」

「はい。……でも、本当に良いのですか?これはアグラタム様用の……」


その言葉にアグラタム本人が首を振る。


「……私の師が、苦痛なく暮らせるのであれば私の予備などいくら使っても良いのです」

「……分かりました。それでは、魔力の分離を開始します。……ここからは負担がかかるので、薬で眠って頂きます」


それに対して頷くと、カプセル薬を渡される。

それを水で飲むと、直ぐに眠気が襲ってきた。


「……それでは魔力の分離と人工魔力の融合、開始します」


それが眠る前、最後に聞こえた言葉だった。

今年も1年ありがとうございました!また来年も筆が乗った時に投稿するのでよろしくお願いします。

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