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異界の師、弟子の世界に転生する  作者: 猫狐
四章 黄昏のステラ
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本の虫の二人組

魔術学院図書室。普段そこはあまり混雑していない場所。

だが、今は大混雑している。学習用の机もほぼ満席で埋まっているような大盛況の状態だ。


そんな中、俺は皆が群がる本……魔物のコーナーから離れた古い本のコーナーに居た。


「さて、あるか……?」


探しているのは古代魔法を取り扱った本だ。

古代魔法とは今俺たちが扱っている基礎の魔法の過去の応用編……簡単に言ってしまえば昔の魔法である。


しかし侮るなかれ。今ほど魔法が練られていなかった時代の出来事。当然そこには『武術』も組み込まれた魔法が掲載されている。

担任であるスイロウ先生も授業で言っていた。


「古代魔法と侮ってはいけないぞぉ!今君たちに教えられる魔法があるのは古代魔法を分かりやすく、扱いやすくしたからなんだぁ!

昔は武術と魔術、一緒に習得している人が多かったからなぁ!それぞれを分けて習得しやすくしたのもいいが、古代魔法そのものの方が扱いにくい分、今の魔法より優れた所がある!なんていうのは沢山あるんだぁ!」


……と。それを通ってきた先輩方がかなりの確率で古代魔法の本は借りている。今でも数冊しか並んでいない。

しかし今日の俺はラッキーだ。目当ての本を見つけられたのだから。


「あったぞ……『古代の技術から紐解く系統分類』!」


四つの主な系統……即ち広域化、収縮、付与、顕現を古代の人の技術から紐解くという本だ。

浮かれて手に取ると、後ろから声をかけられる。


「あ……先客がいましたか」

「……ミトロ?」


手に取って振り返ると、ミトロが残念そうに立っている。

同じSクラスの本の虫として分かる。ミトロはこの本を目当てにやってきたのだろう。


「……ミトロもこの本を借りに来たのか?」

「はい。……ですが、レンターさんに先を越されてしまいました」


心底残念そうな彼女の手には、返却する本が見える。その本も古い物で、彼女も俺と同じ目的だろう。

魔物という巨大な獲物に食いついているうちに、希少な本という鉱石を掘り尽くす。それが分かるからこそ譲れない。

そう思っていたのだが、ミトロが手にしている本を見て脳天に電撃が走る。


「ミトロ、それは……!」

「……?『古代魔法と武術が融合した過程と結果について』ですが……」


これも人気の本で、まだ読んだことがない。ゴクリ、と喉を鳴らすと提案する。


「……この『古代の技術から紐解く系統分類』、ミトロに渡そう。代わりに『古代魔法と武術が融合した過程と結果について』を貸してほしい」


そう言うと、彼女はびっくりした顔の後、頷く。


「なるほど。レンターさんはこの本をまだ読んだことがなかったのですね。それでは……はい」


お互いに本を交換する。目当ての本を貸すのは少し気が引けたが、ミトロの読んでいた本もずっと借りっぱなしの状態が続いており、読みたいと思っていたのだ。


「珍しいですね」

「……?何がだ?」


不意に投げかけられた言葉に対して、首を傾げて返す。


「レンターさんがそこまで目を光らせること、滅多になかったので」

「……そうか?それを言ったらミトロも目が輝いているように見えるが」


嘘でも誇張でも無く、今のミトロは目が輝いている。気持ちはとても分かるからこそ、つい言いたくなってしまったのだ。


「それはそうですよ。目当ての本がようやく読めるのですから」

「だろうな、とは思った。俺も同じだからな」


そんな会話をしていても、貸出口は待ってくれない。

魔法が用いられた貸出口は長蛇の列となっており、早めに移動しないと借りるのが困難になってしまう。


それを察したのか、ミトロが無言で歩き出す。俺もそれについて行く。


「それにしても魔物の本、人気ですね。前に読んでおいて正解でした」

「そうだな……。俺も興味があって読んでおいたから良かった」


そう言って貸出口に並ぶも、普段では有り得ないぐらい混みあっている。

これでは本当に夜ご飯に間に合いそうにない。さて、どうしたものかと考えているとミトロから提案が出された。


「レンターさん、ノートは持ってきていますか?」

「いいや、ノートは持ってきていないな。……いや、待て。ミトロ。まさかだが」

「ええ、そのまさかです。ノートに要点を書き写しましょう」


いくらなんでも無謀すぎる。大体にしてそれが不可能なのはミトロも知っているはず。


だってお互い読みたい本だから。


「……いいや、止めておこう。大人しく貸出口で待機するのがいいと思う」

「……やはり、そうですよね。……おや?列が急に進みましたね」


話していると、列が急に進んでいく。慌てて追いかけると、貸出口が臨時で一個増えているのが見えた。


「流石に看過できない、といった状況ですかね」

「だろうな。このままだと先生方も俺達も纏めてオバチャンに説教だ」


……オバチャンを、怒らせてはいけない。

それを改めて思いながらお互いに貸出手続きを行った。

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