転生
幼少期の頃を描いていきます。毎日、1000文字程度の短い文を書いていく予定です
瞼が開かない、というよりも見えていない。
ここは死後の世界か、はたまた願いが叶って転生したのか。それはまだ分からない。
その時バシーン!とお尻を叩かれた。痛い。
「おぎゃあああああ!!!」
叫ぶなんて何年ぶりだろう、というかこの声を聞く限り自分は赤子になったようだ。つまり転生、ということだ。
「見て、貴方!元気な男の子……最初は泣かないから心配したけれど、大丈夫みたいね」
母親らしき声が聞こえてくる。穏やかだがとても嬉しそうだ。こちらとしても嬉しい。
「あぁ……あぁ!本当に良かった!願わくば、アグラタム様みたいに強くなる事を……!」
「もう貴方……幾ら軍隊に組み込まれているとはいえ、一人の親として喜べないの?」
「はは、すまない。それぐらい、期待しているということだ……。お前も俺も、強くなろうな」
ここはどこだ、どこの世界だ。
悲しいかな、赤ん坊の力と声ではあー、うー、と声を出すだけで精一杯だ。
せめて右手だけ、そう。前世と同じやり方が通用するのなら右手に身体の魔力を込めて……。
……出ない。これは無理だ。成長するまで待つしかない。
「あらあら、暴れちゃって。うふふ……。おやすみなさい、レテ……」
それが眠る前に聞こえた最後の言葉だった。
「子供が出来た、か。めでたいな」
イシュリア皇国、玉座の間。白銀と光に包まれた部屋で女王イシュリアは目の前の男に慈愛を込めて語りかける。
その容姿は銀髪が長く伸びており、天使と呼ばれても差し支えない美しさだった。
そこには先程の父親とイシュリアを護るように立つ男がいた。
「はっ。有り難きお言葉」
「しかし国の護りを疎かにしてはならんぞ。お前の子は男の子だという。立派に育てば軍隊にも組み込みたいものだ。幾ら我らが長寿で強かろうと、あの男のような者が再び現れて侵略されるなどあってはならぬ。だろう?アグラタムよ」
その言葉で、横にいた男……アグラタムはポツリと呟く。
「……師……」
元々イシュリア皇国の方針として、守護者であるアグラタムを先鋒として送るため特殊な門を開き、問題があれば異界の者を倒す役割であった。
しかし何の変哲もない部屋にいた男だけは、その門を力ずくで閉じ、国内最強の戦士であるアグラタムが掌で弄ばれる強さであったことをイシュリアは知っている。
そのような者が現れた時、どうすればいいのか。その答えは誰も分からない。
「私の子供もアグラタム様のように、強者となるよう願っております」
「あ、あぁ。そうだな。焦らず、可愛がりながら育ててやるといい」
そう言うと、胸に手を当てて礼をしながら下がっていく。
それが見えなくなった後。アグラタムは一人ポツリと呟く。
「……一年、か」
師が亡くなって一年。強くなったとはいえ、師に及ぶ気は全くしない。
その為にも、子どもは大切だ。子供はあらゆる可能性がある。前線に立つ者、後ろで支える者。その他にも沢山の適性がある。
部下の子供はどんな適性があるのだろう。期待してしまうアグラタムに対し、ただイシュリアは微笑んでいた。