皆を守りたいが故に
「それじゃあ、私はリアーに戻るからレテ君後はよろしくね!」
フランクに言い放って、イシュリア様がリアーに戻る。それと同時に結界も解除される。
(どうしてこう、秘密が増えていくかな……はぁ)
ナイダの件もイシュリア様の件も皆に言えるわけがない。少しため息をつくと、ナイダに手を振る。
「それじゃあナイダ、また」
「うん。レテもまた」
お互いに言葉を交わして、魔術学院へと帰ることにした。
「しかし、魔物が侵攻してくる前に対処できないかな……」
ぽつりと呟いたその言葉にリアーが反応する。
「できると思うよ?ただ、今じゃないってだけで」
「今じゃないって……」
時期を見ているということだろうか、イシュリア様も王として大変だな、と思いながら歩く。
「そういえばリアーって風が得意だったんだね」
「うん?……ああ~、さっきの?そうだよ!前にも説明したはずだけどな~?」
「あれ?そうだっけ……ごめん」
何かぼーっとする。疲れたのだろうか。いや、疲れないはずがない。
ナイダの一撃は、見てから対処したが一瞬判断が遅れれば普通に首筋に当てられていた。動体視力を超えた、第六感が働いたとでもいうべきだろうか。よく自分でもあれが見えたものだ。
そんなことを思いながら学院の寮に入ると、シアを始めとした皆が待っていた。
「おーい!レテ君!リアーさん!お菓子が焼けてるよ!」
「シアが言いだしっぺなんだけどな、これが美味いんだわ!」
ショウが既にもぐもぐしながら言う。呆れたように他の皆が見ながらも、席を二つ分空けてくれる。
手を洗って座ると、どうぞ!とシアから差し出された菓子を見る。
「わぁ!すごくおいしそう!これ、私ももらっていいの!?」
「勿論です!リアーさんの分も別で作ったんですから!」
それじゃあいただきます!とリアーが食べ始めると、この世を愛するかのような笑顔でつぶやく。
「おいひい~……」
「それじゃあ自分も……」
クッキーを一枚手に取り、ぱくり、もぐもぐ……。
「……すごく美味しい!」
「ほんと!?よかった~」
ほっとしたようなシアを見ながら、ニアから野次が飛んでくる。
「心配だったんだもんね~?レテ君に美味しく食べてもらえるか!」
「ちょ、ちょっとニア……!」
慌てるシアと、それを揶揄うニア。それを見ながらお菓子を食べる面々。
(……この日常を壊されて、たまるものか)
イシュリアを、異世界の神に。それも直接手を出さず、魔物を強化するなんていう陰湿な手で。
(一度、ナイダにかけあって異世界に行ってみるのもいいかもしれない)
そう思いながら、あまじょっぱいクッキーを味わいながら食べていた。