接触
「あ、すみません先生!私、武術学院に寄りたいので先に行ってもらっていいですか!?」
そう言ったのはリアーだ。スイロウ先生が何かを言う前にそのまま続けて言葉が発せられる。
「大丈夫です!地図は見ましたし、レテ君も借りていくので!」
「へ?」
何故?そんな約束をした覚えはない。だけれどここで断る理由もない。
強いて言えば何故かシアがムスッとしているぐらいか。
「わかったぁ!だが遅くならないようになぁ!」
「レテ君も早く帰ってくるんだよ!」
自分は何も悪くないはずなのだが。そう思いながらリアーと共に武術学院に向かって歩き出した。
「それでリアーさん、何でいきなり武術学院に?」
歩きながら問いかける。その答えはシンプルなものだった。
「去年の首席……ナイダさんに会いたいんだ!武術で学べることがあればと思って!レテ君がいれば円滑に進みそうだし!去年の首席同士!」
「なるほど」
それなら納得だ。去年の首席同士という理由にも……。
(……確かに去年の首席同士だった。だけど交流をしたなんて話はしていないはずだ。円滑に進む、なんて言いきれるはずがない。何が目的なんだ?)
違和感を覚えながら、歩き続けた。
到着するとオバチャンや他の生徒にナイダの居場所の聞き込みをする。
その結果、彼女は一人で鍛錬場にいるらしい。ナイダの友達だという子に感謝しながら、二人で向かった。
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一振、一振、一振。その全てに精神統一の集中力を持って素振りをする。
「こんにちは!貴方がナイダさん?」
その集中を破ったのは、聞きなれない声だった。振り向くと、見慣れない女子生徒とレテ君が居た。
「ええ、私がナイダですが……。何か御用ですか?」
そう言うと、直ぐに頷かれる。
「ちょっとだけ鍛錬がてら、私と勝負しない?……あ!勿論、私は魔術しか使えないから加減はするけど!」
その言葉にムッとする。
加減。それは不要だ。
「加減は無くても大丈夫です。……こちらも全力で行かせてもらうので」
「そう?……じゃあ、行かせてもらうね。合図はレテ君、頼んだよ!」
何故彼がいるのかは全く分からないが、お互い距離を取って構える。
彼が鈴を構え、チリン、と鳴らした瞬間に。
風の剣を持った彼女が突っ込んでくる。
(風の顕現系統!)
鋭い風の剣と木刀では前者に軍杯が上がる。横にステップして避けると、後ろに回り込んで木刀を叩き込もうとする。
「ほいさっと!」
しかし彼女は突風を起こして私を吹き飛ばした。
空中で体勢を整えて着地と同時に横に回転する。
「あちゃー、当たらないか」
そこには投擲された風の剣。のんびりしている彼女に向かって地を蹴飛ばして接近する。
「ふっ!」
足を一歩前に踏み出して、上斜めからの袈裟斬り。それを彼女は避けられずにマトモに食らう。
「ありゃー、痛いね!降参!」
到底痛いと思っていない声で言われた。何かが引っかかるが、礼をする。
「ふふ、ナイダさん強いね!」
「それは、ありがとうございます。……所で貴女は?」
その言葉でポン、と手を打って彼女も礼をする。
「ごめんなさい!自己紹介してなかったね!地方から留学してきた、リアーって言うんだ!今はSクラスに所属しているよ!」
「留学……なるほど」
彼女の洗練された動きにも関わらず見たことが無かったのは、留学生だったからか。しかし、次の言葉でギョッとさせられる。
「……ね、貴女本気出てないでしょ」
「……いいえ。私はいつも全力で相手と鍛錬しています」
なんだ、何が言いたい。そう思っているとレテ君を見て彼女は言った。
「レテくーん!彼女と『本気で』勝負してくれたりする!?」
「え!?いや……今一戦やったばかりだしそれは……」
当然の反応だろう。頷いて汗をタオルで拭く。
「……それが、今回の急に発表された魔物訓練の首謀者だとしても?」
「「っ!?」」
私はタオルを落とし、彼は驚愕の顔を浮かべる。
「何を……?言いがかりにも程がありますよ。私はその魔物に対抗するために……」
「知っているよ!ナイダさん……ううん、こう呼んだ方が早いかな
……『ステラ』さん」
その瞬間木刀に魔力が宿った。それを止めたのは他でも無い、彼だった。
「待った!ステラとか、何の話なんだ……?」
「そうだね!場所は……うん、丁度いいかな」
そう言うとリアーと名乗った少女は周りを遮断するように結界を展開した。
そして、光に包まれながらその姿を表した。
「……イシュリア、様」
「イシュリア様……?」
その姿を見て、私は片膝を付き、彼は呆然としている。
「えぇ、貴女が魔物と対抗する為に鍛錬しているのは知っています。
レテ君。ステラというのは世界とは別のナイダさんの名前です。
……彼女は二つの魂を持ちます。ひとつはここにいるナイダという魂。そしてもう一つが、異界にあるステラという魂。
彼女は異界を発展させるべく、我がイシュリアに魂を分割させたのでしょう。
結果、彼女の世界はイシュリアの文化、技術を取り入れ発展した。
しかし、それを良く思わぬ神とやらが彼女を通してステラの世界とイシュリアの世界、両方の魔物を強化してステラを消し去ろうとしているのです」
「……ナイダ、正直意味はよく分からない。けれど、君が大事な役目を負っているのは分かった」
そう言って彼は風の剣を構えた。
「だから、一太刀見せて欲しい。……前から気になっていたんだ。
確かに君は強い。けれど、自分は武術も嗜んでいるから分かる。
ナイダ。君は力を抜くべきところで抜いている。怪我をさせないように、という心配もあるのかもしれない。でも本当は……その実力を隠したかったんじゃないかな」
彼に……アグラタム様の師に言われれば仕方がない。木刀を構え、深呼吸する。
「……行きます」
「うん」
その瞬間、私は彼の後ろに居た。
風の加速も使いつつ、一瞬で彼の首筋を打った。
……打ったつもりだった。
「……本当に、強いね」
彼は涼しい顔をして、真っ二つになった私の木刀を見て言った。