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異界の師、弟子の世界に転生する  作者: 猫狐
四章 黄昏のステラ
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奈落迷宮

周りを見渡す限りの闇、闇、闇。ただ分かるのはダイナが迷宮の先にいると言うだけ。

迷宮、というのも迷路ではない。一直線上にダイナはいるのだ。目の前には見えているのだ。

しかし一歩踏み出す。すると、視界が上を向いてふらつきかける。何とか視線を戻すと、ダイナは少し遠くに見えた。


「これが奈落迷宮。歩いても歩いても辿り着けない底無しの迷宮」


空間侵食。それは数多ある特異能力の中でも特に厄介な部類であると本で読んだ。

精霊召喚などは目に見えるし純粋な力も強く、それ故に対処もしやすい。

だが、空間侵食はそれを起点に世界を塗り替える。今この訓練場の中は完全にダイナの世界になっていると言っても過言ではない。


(でも、自分の目的はこれを踏破してダイナを倒す事じゃない)


そう。今回は特訓であるため、ダイナがこの奈落迷宮を使いこなすのが目的なのだ。


「そうだな、自分が好き勝手に動くから先ずは三分迷宮を維持してみてくれないか?」

「頑張る」


真剣なダイナの声を聞きながら、歩き出す。

一歩進む度に方角が分からなくなる。自分が上を向いているのか下を向いているのか分からなくなる。無論、攻撃はしない。ただ歩き回るだけだ。


「いてっ」


そう思っていたらゴツン、と何かに当たった。真っ直ぐ歩いていたつもりだが、手を当てるとザラザラした壁の感触が返ってくる。既に平衡感覚は狂いに狂ってあらぬ場所を歩いていたのだろう。


しかし厄介なものだ。これならラクザで使えなかったのも頷ける。こんなもの発動させたら敵味方大混乱だ。


さて、そろそろ三分だろうか。スイロウ先生に聞いてみる。


「先生、三分経ちました?」

「ん?……あ、あぁ、すまんなぁ。時計が見えなくてな……」

「あっ……」


完全に失念していた。暗闇の中平衡感覚を失っているのは自分だけでは無い。スイロウ先生やその他の先生も同じだろう。

時計の位置が分からなければ、魔道具の腕時計も見えない。確かにこれは三分と言った自分が完全に忘れていた。


「でもまぁ、大体三分だと思うぞぉ!」

「了解です。……ダイナ、互いに軽く攻撃を仕掛けてみても?」


いくら攻撃不可と言っても奈落迷宮が攻撃に耐えうるものでなければ意味が無い。そう思って言うと、ダイナは返事をくれた。


「勿論。スイロウ先生もいいですか?」

「許可する!ただし、本当に怪我をさせない程度で頼むぞ!

何せ把握してるであろうダイナ君はともかく、レテ君はどこにいるか全く分からないからな!こちらにいきなり攻撃が飛んできても分からなぁい!」

「なるほど。じゃあ先にダイナからこっちに風を飛ばしてくれ」


そう言うと、ダイナは無言で風を飛ばしてきた。


(……真左、か)


そこに向かって軽く風を放つ。しかし、それは軽く避けられた気配がした。

今度はダイナから風の刃が飛んでくる。刃、と言ってもかなり手加減してあり精々抜け毛が吹き飛ぶ程度だが、それを避けるのに失敗した。


「くっ……」


真左から来たのなら前進すれば避けられる。そう思ったのに感覚が狂って避けられない。


(……待て、待て。何かおかしい)


平衡感覚というのは、言わば重力を感知する力だ。それが狂ったからと言って、転んだりはしても向かう方向は間違わないはずだ。

なのに自分は当たった。ということは……。


(迷宮……つまり、そっちにカラクリが何かあるのか)


奈落が恐らく平衡感覚を指すとしたら、迷宮は暗闇の他にもなにか意味を持つはずだ。

迷宮、迷路、迷う……戸惑う……。


(……戸惑う?)


それを考えついた瞬間に、ダイナから声がかかる。


「攻撃、いくよ~」

「わかった」


それを聞くと、また同じ刃が飛んでくる。

もしこれが平衡感覚や暗闇に対しての『戸惑い』からくるものなら。

そう思って自分は『前に進んだ』という意志を持って歩いた。


「あれ、避けられた」

「なるほどな」


ぐらり、と揺れる身体をどうにか立たせながら、ダイナがいる方向に、躊躇わず同じような風の刃を流す。


「あれ、風が飛んでくる!?」

「理屈……というか、仕組みは分かったからね。後は制御できるか少し試してみよう」


凄いなぁ、と言う声と共に今度は確固たる決意を持ちながら歩きながらそよ風をお互いに飛ばす。


「仕組み……ってなんだ……?」


ショウが呟く。それにつられてミトロが言う。


「ダイナが言う通り、平衡感覚と視界は奪われてますが……恐らく、口にしていない『何か』が隠されているのでしょう。でなければ、あんな言い方はしません」


その言葉に嬉々として答えたのは、意外にもリアーだった。


「うんうん!そうかも!ダイナさん、まだ何か隠してるのかも!楽しみだなー!」

「……リアーさん、一応これ特異能力の訓練ですからね……?」


歩き出しそうな気配を感じたシアがリアーの手を握る。あ、忘れてた、というようにそっと後ろに戻ろうとして、転げる。


「あう!」

「わっ!?」


手を繋いでいたシアも、自然と転げることになった。


「あいたたた……ごめんね」

「ううん、大丈夫。……だけどレテ君、そもそもこの平衡感覚奪われた状態で本当にどうやって歩いてるんだろうね……?」


疑問を抱えながら、今は皆で見守ることにした。

……無論、暗闇なので何も見えないのだが。

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