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異界の師、弟子の世界に転生する  作者: 猫狐
四章 黄昏のステラ
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強さの違い

一方、武術学院のお昼時。ナイダの周りでも同じような話題で持ち上がっていた。


「ナイダさんの……ほら!前に影みたいなのが出てきた時に武器をポイポイ出すやつ!あれ、凄く役に立ちそうじゃない?」

「……役に立つ、とは思いますが。私自身の魔力も消費するのであんまり多用したくないですね」


苦笑しながらハンバーガーを食べる。そもそも皆自分の武器……剣や槍、拳などがあるのだからそれを出来るだけ私の能力に頼らず、大切に扱って欲しい。


「でも本当に唐突だよねー。対魔物の訓練なんて。ナイダさんはあの黒い影以外に魔物に会った事ある?」


そう問われると、私は頷く。


「はい。私はイシュリア郊外……それも東方のノボリビの方出身なので、数体は」


ノボリビは東方の首都であり、東から日が昇る。その一番早く恩恵が受けられる都市という事からノボリビと名付けられた。だからなのか、ノボリビは『朝市場』と呼ばれる朝日が昇ってすぐの市場が繁盛している。

主にそこでは野菜や肉などが仕入れられるが、肉の元は野生動物だ。そして、魔物は野生動物から成る。だから魔物は見たことがあったし、実際魔物から都市や人を守る護衛も見たことがあった。


「あ、そうなの!?ノボリビ出身なんだ!知らなかったー!」

「あ、確かに言っていないかもしれません。申し訳ありませんでした」


友達には地方都市から来た、としか自己紹介で言っていなかった。全然地方都市ではないわけだが。


「えー?でもノボリビって住み心地良さそう!そこの所どうなの?」


別の友達が聞いてくる。ノボリビの住み心地……。


「良いですよ。朝日が昇って来て、それと同時に街が活気づく。私の家も朝日と共に活動を始めて、朝市場で値引きされた商品を仕入れて欲しい冒険者や農家さんが大声を出して集客する……。騒がしくはありますが、賑やかでいい街です」


それに納得したように、友達は笑顔になる。

さて、ハンバーガーも昼ご飯も食べ終わった。どうしようかと考えていると、一学年……それも、見知った後輩が歩いてくる。


「ナイダ先輩」

「アステスさん?」


それは学年対抗戦で戦い、私が勝ったSクラスのアステスさんであった。何かあったのだろうか。


「食事、終わってますでしょうか?」

「……?はい。終わってますが」

「宜しければ少し休んだ後、昼休みに鍛錬に付き合って頂けませんか」


鍛錬。そういう事なら付き合おう。

武術学院では昼休みに腹ごなしに戦うのは日常茶飯事である。立ち上がると、友達に話す。


「私はミカゲ先生に訓練場の許可を取ってくるので、また授業で」


「分かったー!あんまり後輩をいじめないでねー!」


「いじめているつもりは全く無いのですが!?」


友人のからかいにツッコミを入れると、私はアステスさんの手を取って職員室へと向かった。






「……あい!事情は分かった。私も同行するよ」


職員室でミカゲ先生に許可を求めると、あっさりとオッケーを貰えた。それと同時に、アステスさんがミカゲ先生に質問する。


「ミカゲ先生。……先生にとって、強さとはなんだと思いますか?」


「ふむ?どういうことかな、アステスさん」


ミカゲ先生はじっとアステスさんの目を見つめると、問いかける。それに対して彼女はハッキリと答えた。


「私はタルタロスの襲撃で家族を失いました。……あの時、強さがあれば。私に、家族を守れる強さがあれば。あの光のフードみたいな強さがあればと思うのです。しかし、あのフードさんは単純な力では無かったように思えるのです。……分からないんです。強さって、なんなのだろうって」


(……光のフード)


その名前はラクザがタルタロスに襲われた直後からちょくちょく聞くようになった。

何でも、人々を助けながら影をなぎ倒し、護送が終わった時には既に居なくなっていたとか。


私は、そんな芸当を出来る人を知っている。けれど、確証はない。だから黙って強さに対してのミカゲ先生の答えを待つ。


「……そうだね。強さと言っても沢山ある。このペンを例にしよう」


そう言ってくるりと器用に手先で回転させてペンを持ったミカゲ先生は説明するように話し始める。


「ペンは剣より強し、と言う。

それは私達個々の武術よりも、多くの人の意見の方がイシュリア様に通る、という事だ。

逆に剣はペンよりも強し、とも言う。これは単純に多くの人は無力であり、武力を持った私達が強いという意味だ」


そこで一旦止めて、ペンを置く。


「つまり、だ。武力や魔術、単純な戦いの力だけが強さでは無いのだよ。無論、タルタロスの襲撃のように武力がものを言う場面もあるだろう。

だが、その場でラクザを治めるレイン様は出陣しなかった。レイン様は戦いに長けているのに、何故か?

それはレイン様がラクザの統治者であり、被害を最小限にする事が役目だったからだ。これも、苦渋の決断だったのだろうよ。レイン様自身が出れば多くの人を救える。だがレイン様が亡くなったらラクザは崩れる。

……つまり、『多くの民を守る強さ』であっても彼は指揮をとる方を選んだ訳だ。必ず誰かが自分に代わる戦力になると踏んで、敢えて出なかった。……そこには『精神的な強さ』も必要だったろうよ。

まぁ、そのなんだ。強さってのは武力だけじゃない。意見を言う力、大局を見る力。色んな力が、それぞれ違う強さなのさ」


「……そう、ですか」


アステスさんはお辞儀をする。これで何か参考になったのだろうか。


(……フード、貴方にはどのような強さが作用したのですか?)


きっとその正体である彼に向けて、想った。

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