魔物の知識
「よぉぉし!今日も全員出席だな!!」
そう言う元気なスイロウ先生に、自分は元気よく、はーい!と応える。
「さて、皆気になってると思うが……近々、都市外訓練を行うことになったぁ!全学年共通で、魔物と対峙した時の対処法を身につけようという理由だな!
ただ、これに関しては多くの危険が伴うからまずは魔物の基礎知識を教えるぞぉ!」
その言葉を聞いて、隣の席のシアがこっそり問いかけてくる。
「レテ君、魔物ってタルタロスのあの人達みたいな……?」
「いや、あれは魔物ではないよ。あの人たちは洗脳されていた人であって、魔物とは根本的な部分が違うんだ」
そう答えると、ほっとしたような顔を見せてシアはスイロウ先生の方を向く。
恐らくではあるが、タルタロスの影……人の成れの果てのような存在ではないのかと思ったのだろう。魔物はそんな存在ではないので、安心して欲しい。
「さて!魔物に関して解説するぞぉ!
魔物というのは、我々が使う魔力に関係している!
先生や君たち、他の人は魔力を身体の中から使う事で魔法を使うが、魔物は違う!
そもそも魔力は微量ではあるものの、空気中にもある!それが偶然動物の中の魔力と反応して変化してしまったり、魔力が濃い部分から生まれてしまうモノ!それが魔物だ!」
サラサラサラっとノートに書いていく。魔力が空気中にあるのは何となく知っていたが、それが魔法を使うに耐えない量であり、かつ魔物の元になるのは初耳だった。
「先生~質問いいですか~」
ダイナが手を挙げる。それに対して先生が頷く。
「うむ!どうしたのかなダイナ君!」
「魔物って殺したらどうなるんですか~?」
それに対して、スイロウ先生は大きく頷く。
「いい質問だなぁ!では解説する……前に!殺すという表現ではなく、倒すという言葉にしてくれるとありがたいなぁ!」
「はーい」
確かに殺す、というのは自分達にとってはともかく地方から来たリアーさんにはあまり聞きたくない単語だろう。
「じゃあ解説するぞぉ!
倒した魔物は、欠片すら残らず霧散する!これはいくつかの説があるが、多くの人に信じられている説としては
『魔物は魔力の塊になってしまった為、倒されると空中の魔力に還元される』
というものだぁ!
勿論、ほかの説もある!異界に送られて、それが異界からの門になるという説や、倒された魔物は別の場所で空中の魔力を辿って安全な場所まで移動して退避する、という説だなぁ!覚えておいて損は無いぞぉ!」
これも知らなかった。自分は魔物は倒されたら直ぐに魔力となって霧散されるという、最初の説しか本で読んだことが無かった。こういう所はさすが先生というべきだろう。
「さて、少し魔物について分かったところで対処法を言っちゃうぞぉ!
……簡単に言うと、魔術や武術など、学んでいるもので攻撃することに尽きる!」
「その心は?」
思わず突っ込んでしまった。ギャグでは無いと知っているのに言ってしまった。
恥ずかしい、と顔を真っ赤にしながらも先生の方を見ると笑ってくれていた。
「心!つまり理由だなぁ!
魔物は元々は動物、ないし魔力が元になっている!だから魔術や武術、対人や異界対処のために学んできた事が活きてくる!
両方とも優れたところがあるのは忘れてはいけないぞぉ!例えば動物が元となった魔物は、魔法で足を止められても倒すまでに至らない事もある!無論、強い魔術で倒してしまえばそれまでだがその前に剣で斬ったり、殴ったりする方が圧倒的に早い!
逆に魔力で産み出された魔物は武術では通りにくい!何せ肉体を持っていないからな!そういう時は直接干渉する魔術の方が強い!」
「ありがとうございます……」
メモしながら、珍しく皆が自分の方を見て微笑んでいた。
「レテ君が突っ込むなんて、珍しいね?」
「じ、自分でも知らない事とかあるから……」
シアにからかわれながら、この後も魔物について授業を受けていた。
昼ご飯、食堂に集まると珍しく上級生の席が騒がしかった。
「魔物の訓練は俺達もしたことはあるけど、実戦はした事ないからな……ごめんな」
「いえ!大丈夫です!」
魔物との対峙経験を聞こう、というところだろう。
確かに首都、及び整備されている場所はイシュリアの抱える騎士団などによって安全が保たれている。それがかえって魔物との遭遇機会を減らされているのだろう。
(いや、魔物なんて会わない方がいいんだが)
そう思いながらも、ふと考える。
(……そうだ、イシュリアの都市外訓練と書かれていたが、そこはイシュリア様の騎士団によって安全が保たれているはずだ。ましてや、首都イシュリアの近郊。父さんもそれに参加しているはず……。
何があった?ジェンス総長は何を考えている?……そもそも、先生達はこの事を先に知らされていないようだった。何故?)
モグモグとハンバーガーを食べる。それをじーっと見つめる皆がいた。
「な、何?」
「いやぁ、レテがまーたなんか考え込んでるなーと」
「またっ、て……」
ショウに言われて苦笑しながらも、自分は何か、不安を拭いきれなかった。