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異界の師、弟子の世界に転生する  作者: 猫狐
四章 黄昏のステラ
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改変された記憶

どさっ、と自分がシアを抱えて訓練場の一角に転がる。同時にリアーも転がってきた。


「いてて……リアーさん、大丈夫ですか?」


その言葉にリアーは立ち上がりながら言う。


「は、はい!……しかし、『抑えきれた』とはいえシアさんの特異能力は凄いですね……」


そう言うと、シアがゆっくりと目を開ける。


「あ、あれ……?あ、そっか……私、リアーさんに言われて暴走させちゃって……。でも、『リアーさんと私で抑えきることが出来た』んだよね」


その通りだ。しかし、自分も手伝った事を忘れないで欲しい。


「ホントだよ……。二人で抑えきれた所に自分は呼び……」


呼び出された?……誰に?まさか目の前のリアーさんがアグラタムが女装している訳でもないし、ましてやイシュリア様がここにいるわけが無い。一体誰に呼び出されたのだろう。


「……?どうかしましたか、レテさん」

「いえ……忘れ物を取りに来たついでに巻き込まれたなぁ、と思って」


はて。忘れ物なんてあっただろうか。一応教室を見て帰ろう。


「それじゃあ自分は教室に忘れ物を取りに行ってきます」


「うん。遅くならないでね」


シアからの言葉になんか重みを感じながら、自分は校舎へと向かった。




「……しかし、驚きました。一目惚れをいきなり言った私にも非はありましたが、まさか『特異能力の暴走を抑えることが出来る』なんて」


そう言われて、私は思い出す。

私は、そうだ。リアーさんからライバル宣言を受けて、それで暴走して……。


(……?暴走したにしては、痕跡が……)


頭痛の後、リアーさんに向かって攻撃したのを覚えている。けれど、その痕跡がここにはない。

何かおかしいと思いながらも、確かに抑えられたのは良かったと思った。


「はい!……これから一年間、絶対レテ君は渡しませんからね!」


宣言すると、リアーさんも自信満々に言う。


「ええ、恋のライバルとして絶対に振り向かせてみせます!」


けれど、そのリアーもどこか不自然な感覚を覚えていた。


(確か……彼女の暴走は憑依だったはず。どうやって……解いたのでしたっけ……?気絶したようですし、私が少し言葉をかけたような……ないような……?)


だが私、シアさん、そしてレテ君の『三人で』シアさんの暴走を抑える方法を教えたのは間違いない。

……間違いない、はずなのに。何故かそれを信じられない私がいた。


「と、とにかく私達も帰りましょう!きっとオバチャンが美味しいご飯を作って待ってますよ!お腹、凄く空きましたし!」


「確かに!早く行きましょ!彼……は探しものがあるんだっけ!じゃあ先帰ろっ!」


そうして、二人で寮に向かってお互い闘志を燃やしながらも、仲良く帰ることにした。




「……これ、は……?」


アグラタムが気づくと、そこは王城の一角にある特別頑丈な訓練場だった。

しかし地面は抉れ、所々戦った跡がある。


けれど、自分以外誰もいない。それにこの時間帯……もっと言えば、危険性の高い訓練以外はここで行わないはずだ。


(……思い出せない……)


確かにここに来たはずだ。来たはずなのに、その過程、結果が思い出せない。


(私が解放の特訓でもしたのでしょうか?いやしかし……)


よく見ると水魔法の痕跡が残っている。アグラタム自身も水魔法は使うとはいえ、解放という肉体超越の力で魔法の練習をしたのだろうか。


(でもそれ以外考えられませんね。この件はイシュリア様に……あぁ、イシュリア様は魔術学院に行ったのでした……)


後片付けと始末書は私か、と思いながらアグラタムはその場を後にした。





「……忘れ物なんてないよな、うん。帰ろう」


何度教室を見回っても忘れ物がない。なので大人しく寮に帰ることにした。


(それにしてもシア、リアーさんと一緒にとはいえ『自力で暴走を抑え込む』とはなぁ……。自分も出来なくはないけど、凄いことだよな)


寮に向かいながらそんな事を思う。

ふと夕焼けの方を見る。少し曇って見えにくい。まるで何かを覆い隠すように。

たまにはこういうのをのんびり見ながら帰るのも良いだろう、と感じながらゆっくりと歩いていった。



「え!?暴走したって……大丈夫なの?」


夕食の話題に出して一番早く反応したのは、暴走したら一番まずいであろうニアだった。それに対してシアが頷く。


「うん!最初は暴走してたんだけど……私とリアーさん、後レテ君巻き込んで何とか自力で抑えられたみたい!」


「レテはともかく〜リアーさんも凄いね」


ダイナが焼き魚を食べながら言う。その言葉に対して自分はツッコミを入れる。


「待て、なんだその自分は大丈夫みたいなノリは」


「えー?実際大丈夫だったんでしょ?」


のんびり言うダイナに、首を横に振る。


「いや……シアは気絶してたし、自分はそもそも帰りに巻き込まれてだな……」


「まあまあ!大丈夫なら良かったって事で!」


クロウにため息をつきながら言うと、スープを口に含む。


「そういえば、リアーさんって訓練場の許可得ていたの?」


ファレスが聞くと、あっと言いながらリアーさんは言う。


「……得て、無いかも?」


「次からは得るようにしてくださいね」


真っ先に食べ終わったミトロがそう言うと、自分も焼き魚を口に入れる。

骨が入っていないはずなのに、何故かチクチクと心が痛む。そんな感じがした。

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