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異界の師、弟子の世界に転生する  作者: 猫狐
四章 黄昏のステラ
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理の盾

自分は先に帰っている所だった。


「やっぱり~レテ君の所って男女混合だからリアーさんも気になるのかな~?」

「だと思うよ、自分も」


ダイナの言葉に相槌を打ちながら頷く。

リアーは自分ではなく、敢えて同じ同性であるシアに聞いたのだろうと思っていた。年頃の男子には聞きにくい事もあるだろう。

そんな時だった。不意に隠していたブレスレットが魔力で震える。


(……?)


何の連絡だろうか。タルタロスのように異界からの襲撃があった訳でもない。かと言って魔物討伐なら態々平穏な生活を望む自分に連絡などしないだろう。第一、魔物なら騎士団で対処出来るはずだ。

だが無視することは出来ない。楽しげな仲間たちに向かって、あっと叫ぶ。


「やべ、忘れ物した!先帰っててくれ~!」

「おー!ついでに二人の話も聞いてきてくれよな!」


クロウが野次馬根性で見送ってくれると、自分は急いで校舎まで走り、裏に回る。


「どうした?」


ブレスレットにそう話しかけると、アゲラタムから本気で焦っている声が聞こえてくる。


「詳しい話は後でします!シアさんを……止めてください!今門を開きます!」


「は?」


そう言われた途端、目の前に門が開く。

兎にも角にもシアに何かあったに違いない。そう思って飛び込んだ。


「うわっと!?……いや何これ!?」


ここは何処だろう。周りは暗く、闘技場のようであるようだが……。


「今シアさんは特異能力を暴走させてしまっています!鎮めることは出来ますか!?」


そう叫ばれたのは、イシュリア様だった。何となく考えを巡らせながらもとりあえずシアを抑えることにする。


「……事情は諸々後で聞かせてくださいね!」


そう言って自分は右手に純白の盾を展開する。

慈愛の盾。如何に暴走してようと、根底に感情があれば干渉を抑えきれない特異能力。


「……ぁ、レテ、君……」


フラフラと自分に寄る彼女に、手刀を入れて気絶させた。


その後に自分はそっとシアを横に寝せて、イシュリア様の方に振り向く。


「アグラタムがここに居て、貴方が指示を出していた……という事は、そういう事でいいんですね?」


その問いは、頷きと共に返された。


「ええ。貴方の想像通りです」


そう言われて納得する場面もあれば、分からない場面もある。だからこそ問いかける。


「……リアー。あれはイシュリア様が隠れた姿で間違いないですね?」


「ええ、その通りです」


それで一年留学の理由は大体理解した。幾らイシュリア様とて、一年以上城を放置する訳にはいかないだろう。

ということは、出身の学院も嘘っぱちな訳だ。恐らくジェンス総長に根回しして入らせてもらったのだと考える。


「……何故、シアを?」


それが今、最大の疑問だった。

シアとリアーはただ話していただけのはず。それが何故こうなったのか。


「これに関しては、私の身勝手な……けれど、必要な悪役だったのです」


「悪役?」


どうにも話が掴めない。が、シアが特異能力を暴走させるということは相当な事があったはずだ。

事の次第によっては自分は許せそうにない。一歩踏み出して、話を促す。


「……シアさんは、孤児院で育ちました。そこでは沢山の苦労もあったでしょう。けれど、彼女が帰るべき家でもあった。

ですが、シアさんは貴方に惹かれていた。それこそ、家族同然……いいえ。正確に言うならば、本当の『家族』、『恋人』になったのでしょう。

私は不安だったのです。レテさん。貴方に惹かれる人はどこからか現れます。それはシアさんも同じでしょう。

しかし、シアさんに告白されても貴方はそれをものともしない、精神の強さがある。……彼女には、それが無かったのです」


「……だから敢えて、こうして彼女の怒りを引き出したと?」


もう一歩踏み出す。怒りの表情を浮かべて。


「……彼女は貴方に依存しています。それは貴方も薄々承知しているはず。

だからこそ、先に彼女を暴走させ、無理にでも精神の強さを教えたかったのです」


「……言いたい事は、わかりました。

しかしイシュリア様ともあろう人が、理に適っていない。彼女の精神が脆くとも、それを別の方法で育てる方法はリアーとしてあったはずです」


そう言うと、俯いて言った。


「そこが、唯一の誤算でした。

……あの後、教室で私は貴方に一目惚れしたと言って彼女の精神を試そうとしました。恋のライバルが現れれば、一年の間に精神も自ずと強くなるだろうと。

けれど彼女はそれに耐えきれず、暴走してしまった。そこで慌ててアグラタムと貴方を呼んで、抑えたのです」


「そうですか……」


じっとしていた自分は、シアの顔をそっと撫でる。

そこまで、彼女が自分に依存していることに気づけなかった。それは自分の過ちでもある。

けれど、それとこれとは許さない事がある。


「……分かります。貴方は今、怒りに震えている」


「ええ。とても。……大事な大事な恋人をこんなにさせられて怒りを抑えられるほど、自分は聖人ではありませんので」


そう言ってすっと左手を出す。


「……確かに、必要な事だったのでしょう。けれど、それは正しくあり、同時に間違いでもあった。

だからこそ、自分は彼女の為に……自分の力を振るいます」


そこに現れるのは『紫の盾』。それに気づいたのはアグラタムだった。


「なんです、か、それは……!」


アグラタムが呼吸を荒くする。イシュリア様でさえ、魔力で壁を張って何とかしのいでいる。


「……『理愛の盾』。理に添いながら、同時に愛を起源として発動させる……自分の『暴走』です」


「……!」


その言葉にイシュリアは感じ取った。


(やはり……やはり、何か隠し持っていた!自力で特異能力の暴走状態をコントロール出来る人など……!)


いや、違う。彼は怒りによって暴走したのだ。ただ、理性が保たれているだけで。


「……理に沿って、記憶を改変させます。

シアはリアーの言葉を聞いた後、一度特異能力を暴走させるも自力で抑え込み、リアーを恋のライバルとして認めた。

イシュリア様……リアーは彼女に挑発を仕掛け、同時にライバルとしての役目を全うすることを決めた。

そして、この場にいる自分とシアは『リアーの正体を知らず、訓練場にて特異能力の暴走を抑えるやり方を教えた』。

アグラタム。君はリアーの正体以外、この数分で起きた出来事を全て忘れる。

……さぁ、『理愛の盾』よ。理に沿い、記憶を改変させろッ!」


そう叫ぶと、盾から紫の魔力が発せられる。

魔力で防いでいたイシュリア様も、根底に愛の気持ちがある限り盾の命令に逆らえない。それは、この場にいる全員がそうだ。

段々と記憶が薄れ、改変されていく。その最中にイシュリア様は、全てを受け入れるように両手を掲げていた。

記憶が完全に改変される前に、校舎の裏口に門を開く。

シアをそっとお姫様抱っこすると、紫の魔力が爆発すると同時にリアーと門に入った。



盾が守る事に特化していても、暴走すれば何が起こるか分からないものです。

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