暴神憑依
さて、帰ろうかと準備をしているとリアーさんがこちらに来た。
「シアさんシアさん!少しお話良いですか?」
「私?レテ君じゃなくて?」
「はい!シアさんに!」
そう両手を合わせて言われれば仕方がない。
「じゃあ先に帰りますね」
「……あんまり、遅くならないでね。二人とも」
ミトロとフォレスがそう言って教室から出ていく。レテ君を初めとした男子組も同時に出ていった。
「それで、お話というのは……?」
不思議なのだ。レテ君ならまだしも、私に何かあっただろうか。
「スイロウ先生から聞いたんだけど、レテ君とシアちゃんって同室なんでしょ!?どんな感じなの!?」
「え、ええと……?」
キラキラした目で見つめられても答え方に困る。
どんな感じ、どんな感じとは何なのだろう。
「あ、ごめん!聞き方が悪かったかも!
ウチの学院でもそうだったんだけど、基本的に同性で部屋が組まれるじゃない?異性と過ごすうちになにか起きてないかなー?って思って!」
「な、なるほど。……うーん?私とレテ君は特に何も無いよ?普通にお互い気にしてないし……」
そう白を切る。何も起きてないはずがない。特に一年前。
しかしその言葉はバッサリ切られた。
「いや!絶対なんかある!だって……シアちゃんの目、恋する乙女の目だもの!」
「え、えええぇ!?こ、ここ恋する……乙女……!?」
動揺してしまう。確かに恋をしているし、結婚を誓った仲でもある。
けれどそれをバレる訳には行かない。
「か、勘違いじゃない?」
「え?そう?……実はね?私一目惚れしちゃったんだ!」
「一目惚れ?」
何となく不安が過ぎる。そしてリアーさんは笑顔で言った。
「うん!レテ君に!鉄は熱いうちに打てって言うし、私来年には帰っちゃうから……付き合ってないなら先に告白しちゃうよ?」
「う、うん。良い……んじゃないかな……?」
嫌だ。
そんな事は絶対に嫌だ。
私を家族と言ってくれた。理解者になってくれた。温かな家庭をくれた。
そんな彼を奪われるのは、絶対に嫌だ。
そう思った時、突如頭痛がし始めた。
「ぅっ……!?」
「シアちゃん!?」
奪わせない。
絶対に。
クラスメイトだろうが、留学生だろうが。
そんな人は……!
「〜!……、……!」
何かリアーさんが言っているのが聞こえる。しかしそんなの関係ない。
「……渡さない……!」
そう言った瞬間に、教室から私とリアーさんは居なくなった。
「私の家族だけは……レテ君だけは……失いたくない……失わせない……!!
っ!ぁあ!あああああああ!」
リアーはその様子を見て、ワープさせた張本人に指示を出す。
「アグラタム、結界を。同時にレテ君に連絡してここに来てもらうようにして。それまでは私がこの子の暴走を抑える」
「承知しました」
素早く結界が貼られると同時に、シアさんから獣が出てくる。
しかし前に情報を得たものとは違う。つまり、特異能力による『暴走』だ。
(遅かれ早かれ、レテ君に恋惹かれる人は現れる。その時に彼女が精神的に耐えられるようにしないと。……私が、悪役となっても)
黄色の龍が吼える。それと同時に、シアさんは立ち上がる。
「わた、さ、ない……!」
そう言うと龍がこちらに向かって炎を吐き出してくる。
水の壁を作って蒸発させると、彼女を捕縛すべく風を纏う。
しかし、その時リアー……イシュリアにも予想外の出来事が起きた。
「渡さないっ!」
そう叫ぶと同時に龍が彼女の中に吸い込まれていく。
次の瞬間、彼女が地を抉る蹴りでこちらに突っ込んでくる。
「特異能力を……憑依させた……!?」
確かにそういう事例はある。しかし、暴走した状態で憑依させたのは過去にあまり例がなかった。
そう考えていると、大量の水の槍が飛んでくる。どれも魔力の消費を考えない、威力重視のものだ。
(……魔力を抑えている場合ではありませんね)
魔力を抑えるのを止め、槍を相殺する。
けれど、彼女は私の頭上に居た。
「消えろッ!」
シアという少女は少なくとも、こんな事を言う子ではなかった。
つまり、暴走した特異能力の憑依により、あの龍に乗っ取られている。
水を纏わせたパンチを避けるが、そのまま彼女が水をこちらに飛ばしてくる。
その水を風でかき消すと、既に彼女は目の前まで迫ってきていた。
既に息を荒くしながらも、渦巻を発生させて周囲を囲む。
そのまま掴もうとする手を逆に掴んで渦巻へと飛ばすと、渦巻が彼女の味方をするようにこちらに勢いよく弾き飛ばしてくる。
(いけない。このままじゃ、彼女の身体と魔力が持たない!)
暴走を解く方法は二つ。暴走の元となった特異能力を一時的に消すか、本人を気絶させて特異能力を消すかだ。
しかし憑依という形を取られている以上、前者は取れない。かといって後者を取るにも、彼女の身体を捕らえられない。
現に事前情報で聞いていた特異能力の鱗片は見えている。武術が得意でない彼女が肉体で戦えるのは、恐らく暴走していない時の『ビャッコ』の性質を借りているからだろう。
他の性質を借りられる……特に『ゲンブ』などは障壁を貼られるため、攻防一体となるだろう。
私が彼女に魔力を全力で当てれば気絶はさせられる。しかし、それで後遺症を残してはいけない。だからこそ、助けを求めていた。
「うわっと!?……いや何これ!?」
そんな中、アグラタムが救世主を連れてきた。状況も分からない彼に、私が頼む。
「今シアさんは特異能力を暴走させてしまっています!鎮めることは出来ますか!?」
「……事情は諸々後で聞かせてくださいね!」
そう言って彼が右手に純白の盾を展開する。
私も見るのは数回目だが、何回経験しても慣れない。
「……ぁ、レテ、君……」
フラフラと彼に寄る彼女に、優しく彼は手刀を入れて気絶させた。
その後、彼は振り向く。
「アグラタムがここに居て、貴方が指示を出していた……という事は、そういう事でいいんですね?」
その問いに、素直に答える。
「ええ。貴方の想像通りです」
どの作品もエタりたくないものです。時間が足りない……