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異界の師、弟子の世界に転生する  作者: 猫狐
四章 黄昏のステラ
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アステスとの手合わせ

「すみません、戻りました」


木刀を携えて戻ると、アステスは既に準備完了のようだった。瞑想をしていたのか、地面で座っていたところから目を開くと立ち上がる。


「大丈夫です。……それにしても、魔術学院の先輩が武術も出来るなんて意外です」


「レテが大体凄いんだよな……俺らは魔法覚えるので手一杯だけど、知識の吸収が早いっつうか……俺らが復習に回す時間を武術とか身体の鍛錬に使えるんだよ」


ショウが言うと、皆頷く。それに対して自分はこそばゆいような、嬉しいようなムズムズした感じで返す。


「ま、まぁ……ほら突き詰めれば両方できた方が有利だろ……?」

「突き詰め方が早いんだよ……」


シアに苦笑されるが、全くその通り、とばかりに頷くクラスメイトに何も言えなくなってしまった。


これ以上遅らせてもいけないのでアステスが待つ中に入ると、スイロウ先生が結界を貼ってくれる。


「よし、じゃあ一言だけ言うぞぉ。……レテ、過度な魔術禁止」

「……ハイ」


先程の最後の剣の事だろう。肝に銘じながら木刀をすっと前に向かせ、彼女が拳を構える。


「それでは、始めっ!」


その瞬間に自分から突っ込む。木刀を斜めに構えながら下から斜め上に切りかかろうとする。


「ふっ!」


しかしバレバレの予兆は流石に武術の首席は許してくれない。瞬時に屈んで横に転がると、パンチを繰り出してくる。


「おっと!」


それを木刀で防ぐと、木刀を手放してそのまま蹴りの体勢に入る。


それを見て彼女はパンチの勢いのまま前転すると、蹴りを避ける。木刀を拾うと、感嘆する彼女の声が聞こえる。


「……正直、ナイダ先輩からは光魔法が扱える、としか聞いていませんでした。なんでそれを知ってるのかと思いましたが、手合わせを?」


「魔法ありき、だけどね。さて。じゃあここからは魔法も使わせてもらうよ」


「……望むところです」


そう言ってお互いに構え直すと、今度はアステスが突っ込んできた。

愚直なまでの直線。そこに迷いはない。

だから正面から受けて立つことにした。木刀を横薙ぎに払うと、彼女が苦い顔をしながらスライディングに変えるのが見えた。

転げないように、というより彼女を踏まないように風で自重を支えてから降りると、なるほど、と評価する。


「何も無い直線、武術学院や嗜んだ事がある人なら『フェイク』だと思わせられると踏んだんだね」


「……おっしゃる通りです。本来はスライディングなどせず、避けたところを足払いする予定だったのですが」


「はは、そのフェイクのかけ方も習うよ。いつか、ね」


そう言うと、自分は手本を見せるべく横をグルグルと回り出す。


そして適当なタイミングで突っ込むと木刀だけ投げつける。


「!!」


そのまま蹴りに移行するのを見て彼女が避けてカウンターしようとする。

しかし、自分は風で木刀を操り、彼女の横から勢いよく当てた。


「っ!?」


その隙に、彼女に足払いをかける。その瞬間に彼女は光魔法で、視界を遮った。


「うおまぶしっ!」


そう言いながら自分は闇魔法で逆に暗闇で囲う。


「しまっ……!」


そう言った彼女の手には、光の玉……つまり、先程習得した魔術が見えた。


「これは一本取られかけた。光で視界を遮った所に、自分の行く方向にそれを投げつけて避け場所を少なくしてから近接戦闘に持ち込む予定だったのかな」


「くぅ……闇魔法の広域化で覆われては、見え見えですけどね」


そう言ってヤケクソ気味に投げつけてくるが、これこそフェイクだと思った。

自分はそれを避けた後、一拍置いたあと木刀で回転斬りをする。


「ぅ!?」


そこにはぶち当たった彼女がいた。


「……本当に怖い。バレたら次はそれを自分がやったようにそれを囮にして、一泊置いてそちらを見ている間に突っ込んでくる」


「なんでもお見通しですか……!」


悔しさを滲ませる彼女に、自分は木刀に風を付与しながら言う。


「一年の違い。だけど、それだけでも……経験しがたいことを味わったから」


「そう、ですかッ!」


そう言って彼女は本当に素直な、綺麗な直線で突っ込んでくる。

フェイクでも何でもない、終わりの拳だ。

だから、風を纏わせた木刀の前で、ポツリと呟いた。


「……君を救えて、良かった」


そのまま木刀を振り下ろすと、付与された風が結界内を吹き荒れた。勿論、彼女の身体もそうだった。


風で飛ばされた彼女の前に、木刀を突きつける。


「そこまでぇ!」


スイロウ先生の掛け声と共に、彼女に手を貸す。

しかし、その手を取ろうとしない。呆然とした顔でいる。


「どうかしたのか?……あ、木刀ぶつけたから痛かった!?それとも最後の風で!?ご、ごめ……」


「……先輩」


「……?」


呆然とした声で、呟かれた。


「……私、風の中でも聞こえたんです」

「っ!?」


つまりそれは、最後の……。


「……あれ、どういう事ですか。まさか、孤児院でも話題になっていた『ラクザの幼き兵士』の事、あれを率いていたのは……」


その声は自分とアステスにしか聞こえていない声だった。だから口元に手を当てて、しーっと息を吐いた。


「……ウワサは噂、だよ」


そう言って手をとると立ち上がらせる。

皆の所に戻る中、彼女が呟いた。


「光魔法を生み出す力、ネイビアに見せた風の底知れぬ魔力、そして得がたい経験……もし、もしも全部本当で、先輩が本気のほの字も出してなかったとしたら……」


流石に本気のほの字は出してると思います

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