学年対抗 選別戦
「学年対抗戦?」
「そうだともぉ!他のクラスからも一名ずつ!代表者を出してCを先頭とし、Sを最後にして、毎年二年生と勝負をするんだぁ!」
なるほど、揉まれてこいというわけだ。窓から飛んでいく小鳥を見ながら趣旨を理解した。
二年生も恐らくこの体験をしている。入学式の言葉の通り、自分達がいかに子供なのかを知ってもらうための対抗戦なのだろう。
「先生、それで代表者はどうやって決めるのですか?」
眼鏡をかけた女子、確かミトロと自己紹介していた子が尋ねる。知識豊富そうな、知的なイメージだ。
「そうだなぁ……まずは立候補からだ!自信のあるやつは手を挙げてくれぇ!」
元気に先生は言うが誰も手をあげない。そんな静寂の中、すっと自分が手をあげる。
「おぉ!?レテ君が立候補したかぁ!他に反対意見とかもあればここから聞くぞぉ!」
そう言われた瞬間、双子の女の子が同時に手をあげる。
「いくら首席って言ったって十四歳。私たちより下の子なのに」
「いきなり二つ離れた先輩と戦うのは危険だと思うんだっ!自信があるところは好きだけど!」
おお、さすが双子。息ピッタリだ。内気な妹の言葉を引き取って姉がきっちりカバーしている。
「ふむ。ではファレス君とフォレス君。君たちは立候補するかね?それとも、彼と戦って実力を示すかね?」
どうやら、新しい立候補者になるか、立候補者に勝って代役となるか。その二択があるらしい。
「私たちは二人で一つ」
「だから立候補は出来ないけど、レテ君の力は見ておきたいなって!」
そう言ってこちらを見る。それを正面から見て、ただただ微笑む。
「決まりだなぁ!よし!訓練所の許可を取ってくるから少し待ってろぉ!」
そう言って先生は出ていった。その後、ふと思い立って隣のシアに聞く。
「シア?シアなら立候補しても良かったんじゃないか?」
「えっ!?あっ……ううん。私よりレテ君の方が強いから」
(朝からずっと何かを悩んでいるな)
起きた時から部屋を出る時、何か声をかける度……というよりも声をかけられるまで何かを考えているように見える。何かあったのだろうか。
「ようし!許可が取れたから移動するぞぉ!レテ君も二人相手で異存はないかな?」
「先輩と戦うのなら恐らくファレスさんとフォレスさん、同時に相手して勝たないとどの道勝てませんからね」
皆からえっ、先輩に勝つ気なんだ。という視線を向けられて少し苦笑いする。確かに揉まれてくるのが本来の役割だが、自分は伊達にこの世界の守護者を跳ね返した訳では無いのだから。
訓練所は簡易的な広場のようだった。ただし高さや広さに魔力による結界があるようで、そこが実質戦えるスペースと思って良いだろう。横には結界の外から他の生徒と先生が見守っている。
そして中には双子の姉妹と自分が対になるように立っていた。
「……私たちは二人で一つ。だから先に仕掛けると貴方はそのまま押されるかもしれない」
「というわけで先手はあげるよ!どーぞ!」
何やら慈悲をもらったが、そこまで落ちぶれた自分ではない。いいや、と首を振って自分の意見を言う。
「先生に合図をしてもらって同時に戦い始めましょう。それが公平です」
そう言い終わると先生を見る。うむ、と頷いてくれたのでこれで良いのだろう。
「自分からもらった先手を無くすなんて!」
「……私たち、遠慮はしない」
そう言って二人の位置が入れ替わる。姉のファレスが前に、妹のフォレスが後ろに。これが戦闘態勢なのだろう。
「それでは……始めっ!」
そう言った瞬間にファレスが距離を詰め、蹴りを繰り出してくる。
(なるほど。自身の身体に風を纏わせたか。付与系統って事だな)
それを土の壁を出して視界を遮ると、横に飛んで回避する。
するとその後ろから鋭い岩の弾丸が無数にこちらへ飛んでくる。
(こちらは収縮系統ってところか、きちんと相殺しないとまずいね)
手を振ると風が吹き荒れる。それだけで岩の弾丸はどこかへ吹き飛び、姿を消した。
「へぇーっ!驚いた!先制攻撃を防ぐんだ!結構自信あったんだけどなぁ」
「……その威力、広域化系統?」
驚く姉と冷静な妹。どうやらバランスは取れているようだ。
だからこそ、力を示す必要がある。
「いや。自分が得意なのは顕現系統。今のはただの風を吹かせただけだよ」
「……!」
「収縮系統の岩を……ただ手を振っただけの風で……!?」
驚愕する姉妹に対して、次はこちらから仕掛ける。顕現系統の使い方は本の知識でも、実戦……主にアグラタムに犠牲になってもらったお陰でよく分かる。こそこそ学園の前にアグラタムの所へ通っていた成果を見せよう。
「嘘でしょ!?フォレス!」
走る度に。ファレスに近づく度に。
その走った跡地に様々な属性の魔法の玉が顕現し、次々に後方のフォレスへと向かう。
「近接戦が出来るのはファレス、君だけじゃないんだよ。妹さんの心配よりも自分の心配をした方がいい」
「……ッ!」
ファレスとの距離を詰め終わると、右手に風の剣を顕現させて振るう。間一髪でファレスはフォレスが作った壁の後ろに飛び込む。
が、それは最悪の手に過ぎない。
「砂嵐」
土と風の混合魔法にて、二人が隠れている部分だけ砂嵐が襲う。しかし一瞬にして覆われた彼女たちはすぐさま全方位蓋をするように土属性魔法で囲ってしまう。これで視界は何も映さない。
あえて正面から、ファレスと同じように風を足に纏わせると近づいて、そのまま風の剣を顕現させて正面を切り裂き、空洞となった壁の中に風の剣を突きつける。さらに自分の後ろに炎の玉を二個待機させて言う。
「投降する?しないならちょっとそこをサウナにしちゃうけど」
「……投降しましょう」
「うへえ、君規格外すぎるよー!」
二人が降参したので魔法を全て解く。そして双子は互いに手を取りながら立ち上がると、先生に降参をする。
「勝者!レテ君!」
ふぅ、と双子を見る。既にヘトヘトのようだったので、大丈夫かと思いながら他の子達と合流する姿を見届ける。
「それで、まだ挑戦者がいるなら受け付けます」
「……待ってくれ、レテ」
クロウが冷や汗をかきながら、恐る恐る質問してくる。
「どうしたの?クロウ」
「あれだけの戦闘をして、まだ戦えるというのか……?」
「まぁ、あのぐらいの魔法しか使わなかったら全然行けるかな」
その言葉でブルりとクロウが身を震わせた。他の子もゴクリと息を呑む。
そりゃ確かにそうだ。一戦してまだ余裕です。なんて普通ではない。
「……オレはレテを押そう。二人を相手にしてなおこの余裕。魔力が空になるような魔法を使われたら流石に二つ上とはいえ、勝てる未来が見えない」
そう言ったのは物静かなレンターという男子だった。それに続いてうんうん、と肯定の声が上がる。
「決まりかなぁ!それじゃ、Sクラスの代表者はレテ君で決まりだぁ!」
こうして、自分は対抗戦の権利をもぎ取ったのであった。
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