嫉妬
アステスに光の玉の魔法を教え始めてから数時間。何故か皆揃って空中に得意な属性の爆弾を置こうと奮闘していた。
「これさ~……風、難しくない?」
「いや……多分土の方が難しいぞ。ほら、俺なんて収縮系統が逆に土固めすぎて爆弾になってないぞ」
ダイナの言葉にクロウが返す。無論、その二人も爆弾を作り出そうと頑張っているのだが、如何せん上手くいかない。
(まぁこれ、体温込めるのが大変だしな……)
爆弾は何かしらトリガーが無いと爆発しない。
今回であれば、触れるという条件下で体温で爆発させる為、体温かそれに代わるものを込めなければタダの玉である。
「む、むむ……」
アステスも苦戦していた。そもそも彼女は武術学院の生徒だ。いきなりこんな、即興で考えついた魔術を習得させるのは無茶だっただろうか。
いや、仕方がない。光と闇に関しては本当に文献が無いのだ。ならオリジナルで生み出すしかない。
そう思っていると、フワフワと爆弾を周りに浮かばせたシアがこちらにやってきた。
「……多くないか、シア」
「えへへ。ほら、私は得意なのが水だからさ。体温の込め方さえ分かれば爆弾作りやすくて沢山作っちゃった!」
そう言って笑いながら爆弾を消すと、自分は苦笑するしかない。
「……シア、習得が早い」
「ホント!すごいよ!」
ファレスとフォレスの双子が褒めると、彼女が照れる。
そんな時ふと、何か気配を感じた。興味がある、というより見られてて気持ちが良くない嫉妬の感情が強い。
「すみません、先生。お手洗いに」
「おう!気をつけてな!」
先生が見てくれているからこそ、ここではその気配の主は手が出せないのだろう。他の……それこそ武術学院で学ぶであろうアステスにそんな感情をこんな形で察知させたくない。
(……やっぱり視線を感じる)
標的は自分で間違いなさそうだ。少し離れた所で光魔法を使い、風景と同化するように自身に迷彩を施す。
近くでガサッと音がした。場所が分かったら後は簡単だ。そちらに驚かしにいけばいい。
草むらに隠れていた人達に迷彩を解いて後ろから声をかける。
「すみません、自分に何か用事ですか?」
「っ!!」
いきなりお化けのように現れた自分に対して三人が尻もちをつく。自分よりも少しだけ大きい。先輩だろうか。
「お、お前……どこから……」
「どこからって、今後ろから回ってきましたけど」
「う、嘘だ!お前さっき、消えて……」
「消えるところ見たってことは、ずっと見てたんですか?」
「!!」
「図星ですか」
それにしても何なのだ。今になって嫉妬の視線など向けて。
慌てて立ち上がった三人組が言う。
「お、お前……どうやって光のあの玉を生み出した!」
「……はて、どういう事でしょう」
これは本当に意味がわからない。質問の意図が分からない、というべきか。
実際に手を握って先程の光の玉を空中に浮べる。それを見て、先輩が叫ぶ。
「そ、それだ!それは学院の文献にも載っていないはずだ!俺は光魔法の事をよく調べたから分かるぞ!」
「ラクザの図書館で知りましたからね」
適当な嘘をつく。何だか、チンピラに絡まれているような感覚になる。
「ぐ……!でもそれは顕現系統の技だ!お前、後輩が分からないのをいい事に広域化って言ったな!」
「いいえ。正真正銘、広域化系統の技です。顕現ならもっと光で何かすればいいので、そちらを教えた方が効率も良いですし」
そう答えると、妬みの視線が自分に突き刺さる。早く皆の元に帰りたい。そう思った矢先に先輩の一人が言った。
「こ、ここで勝負しろ!」
「……え?」
結界も無い、ただの草むらでどう戦うというのか。呆然としていると先輩の手から火の気配がした。
顕現系統で水を頭から被せると、びっくりしたのか火が霧散する。それを見ながら言う。
「わかりましたよ、勝負はします。ただ草むらを火で燃やさないでもらえますか?責任押し付けられても嫌なので」
「〜っ!!」
悔しそうな顔からしてこれも図星とみた。自分の才能やら何やらが羨ましいのか何なのか、と思うがそれはそれで少しカチンとくる。
(……こっちだって、努力した結果なんでね)
場所を広い所へと移動すると、改めて先輩と向き合う。
「せやぁっ!」
勢い良い言葉と共に炎が一つから分けられて降り注ぐ。なるほど、広域化系統の技だろう。
しかし今の自分は少し努力をバカにされたようで怒っている。手加減はするが、大人しく帰ってもらおう。
炎の騎士を顕現させると、その火の玉を全て吸い込み、代わりに、それを口からストレートに吐き出す。
「う、うわぁぁっ!」
先輩が避けるのを見て、後ろから二つの魔法の気配がしたので風の騎士を突撃させる。
「……避けるのが大袈裟過ぎます。まるでこっちを見てください、と言っているようなものです。後一対一と言ってないからと言って後ろから二人が攻撃を仕掛けようとするのは少し卑怯ではないですか?」
風の騎士が風圧で先輩を飛ばす。それを見て、自分は元の道に戻りながら言う。
「……一つ上の先輩だとお見受けしますが、ついこの間まで第二学年の人がいきなりこういう事をすると事故が起きた時対処が出来なくて大変ですよ。……それでは」
慌てて立ち上がった音を聞きながら、一言だけ面倒くさそうな単語が聞こえた。
「……覚えてろよ……!」