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異界の師、弟子の世界に転生する  作者: 猫狐
四章 黄昏のステラ
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イシュリアの孤児院

対抗戦から一日が経った。この日は土曜日、休日であったが教室は開いている。

前日の対抗戦の後、シアから皆に対してお願いがあった。翌日、話したい事があるから教室に来てくれと。

自分はあえて何も言わなかった。皆も、頷くだけだった。スイロウ先生は用事があれば呼んでくれぇ!とだけ言っていた。内容を察しているのだろう。


「皆、来てくれてありがとう」


そして教室に十人全員が集まったところ……それも、シアが黒板の前に立って皆が近づく形になっている。


「シアちゃん、昨日レテ君が言った事って……」


ニアの問いに彼女が頷く。そして、唐突な質問が来た。


「……そう、私は孤児院出身。でも、孤児院ってどういうふうに活動しているか知ってる?」


どういうふうに、と考えているとファレスとフォレスが口を開いた。


「確か、孤児院って種類があるんだよね。

一つ目はタルタロスの災厄や自然災害、それこそ両親が急死してしまったとかで子供が急にひとりぼっちになったのを助ける場所。

二つ目はそれ以外……つまり、捨て子や予め育てられないと判断して孤児院に多少の養育費を払って引き取ってもらう方。でも両方に共通しているのは、イシュリア様の認可が必要ってところ」


次にフォレスが口を開く。


「……孤児院に拾われた子は、孤児院で育つ。中でも大きくなった子で独り立ちした子は孤児院にお金を送ってる。けれど、それでも足りないから院長は勿論、子供もお駄賃を稼いで食いつなぐ事がある。イシュリア様の認可があっても、災害で孤児院の建物自体が壊れた……なんて事が無ければ、イシュリア様から手助けはない」


その通り、とばかりにシアが頷くとショウが不思議そうに聞いてくる。


「なぁ、イシュリア様の認可が必要なのに手助けしないのはなんでだ?」


それに対してはミトロが答えた。


「……イシュリア様は確かに優しいお方ですが、孤児院は一つではなくこの国沢山にあります。しかしそれを一つ一つ支えると国の資金が尽きてしまう。

何よりも、孤児院だけにお金を配るという、どうしようもない『格差』が生まれてしまいます。貧乏な中生活している家庭もあるのですから無理もありません。

けれど、認知しているのは先程の通り、不測の事態で子供達が暮らせる場所が無くなった……そもそもの前提が崩れた時に対処するからだと、本で読んだことがあります」


そうそう、とばかりにシアが頷いて再び話し出す。


「三人ともありがとう。……それでね。私とネイビアは後者……捨て子の方なんだ。

私のいる孤児院はいつもギリギリで、でもネイビアやもっと大きい子達が見てくれて笑顔が絶えなかった。

そんな中、私は耐えきれなかった」


「……耐えきれなかった、とは」


レンターが問いかける。俯いたシアは、そのまま話し出す。


「笑顔が沢山ある一方で、子供の私にも分かるぐらいお金はなかった。だから私は必死に学んで、ここに来た……ううん、飛び出してきたの。

首都の魔術学院を出て職に着ければ孤児院を楽にさせてあげられる。だってお金が沢山入るから。

ネイビアは出ていった私にも居場所があるって言ってた。それは、タルタロスでの功績で得たお金をほぼほぼ孤児院に送ったからだと思う」


いつの間に、とは思ったが自分は寝ていたし他の皆もそれどころでは無かったから頼み込んだのかもしれない。

そこでクロウが口を開く。


「……ん?って事は、シアは長期休みココにいたのか?」


「……言ってくれれば、私達の家に招いたのに」


フォレスの後悔混じりの言葉に申し訳なさそうにしながらチラリとシアがこちらを見た。

自分は無言で頷くと、シアが口を開いた。


「ううん。実はレテ君の家にお世話になったんだ」


「レテの家!?……って、あー……確かに、レテの家はファレスとフォレスの規格外と比べなければかなり裕福だからな……」


ショウが自己解決する。自分の父はそもそも軍人の中でもかなり高位である事がタルタロスの一件でバレた為に、納得出来る。何よりも前の覗きで自分と仲が良いのを知っていたからかもしれない。


「そうだね〜。レテの家なら納得納得。お互い寮生活の延長みたいなものだろうし〜」


「まぁ、そんな感じだったよ実際」


ダイナに対して大嘘をつく。寮生活の延長線にあるならば二人で風呂に入ってお湯の掛け合いなどしない。


そんな中、ポツリと呟く。シアが、なんで、というように。


「皆……なんで、差別しないの?孤児は割と差別されるんだよ?悲しいけど、ロクに育てられてないってイメージがついてて……」


それに対しては自分が答える。皆もそう思っているだろうから。


「シアが一生懸命で、努力家で、何より……この一年間、共に過ごしてきた仲間だからじゃないか?」


それを口切りに皆が言う。


孤児だからなんだ、と。同じSクラスで過ごして切磋琢磨して、育ちの環境だけで差別するのかと。

そんな事を言ったら私達なんて真っ先に差別されているとファレスとフォレスが笑っていた。


それを聞いてシアが両手を顔に当てて泣き出す。それを皆で包み込むようにそっと近づく。


「確かに生まれの差、育ちの差は大きい。それこそファレスとフォレスと比べれば天と地の差ほどある。

……けれど、それをものともせずシアも二人も同じSクラスに入った。

それで全て説明出来るんだよ。孤児だなんだって、ここでは関係ない。ここは皆で学ぶ場所で、皆が集まる居場所だ」


自分がそう言って、ニアが彼女を抱きしめる。他のクラスメイトもそっと彼女に優しい言葉を投げかけていた。


「ありがとう、ありがとう……皆……」


シアの嬉しそうな泣き声を聞いて、自分の手をそっと見つめた。


この手で何が出来るだろう。アイツなら……アグラタムならどう考えたのだろう。


護る人として彼女は変わらない。けれど、夢を持った自分は、何が出来るだろう。


そう思いながら、そのまま彼女の片手を握りしめた。

おそらく今年最後の投稿!皆様良いお年を!

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