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異界の師、弟子の世界に転生する  作者: 猫狐
四章 黄昏のステラ
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学年対抗戦 魔術学院1

学年対抗戦より数日前。去年と同じく授業をひとつ使ってスイロウ先生が切り出した。


「さて、ここで学年対抗戦の人を選ぼうと思う!去年はレテ君が予想だにしない方法で先輩に勝ったが、あれは本来一年生と二年生、学べば学ぶほど実力差が出るという事を体感してもらうためだぁ!

簡単に言ってしまうと、レテ君が規格外なだけで本来は勝てる実力差じゃないという事だ!魔力の扱い方、魔法の基礎知識、それ以外の事だって知らなければいけないからなぁ!

という訳で今年は誰が出るか、皆で決めてくれぇ!」


やはり、揉まれるためのものだったかと思いつつ皆で席が立って端っこであるはずの自分とシアの所に来る。


「いやなんで自分のところに来るのさ、みんな揃って」

「それは前年覇者だからね~。期待しているんだよ」


ダイナが相変わらずふんわり言うと皆が頷く。

確かに自分が出れば勝つだろうという自信はある。この世界に来てから研鑽を怠ってはいないし、何よりもタルタロスの一件で死地……病死ではない、本当の戦場を味わったことでより一層磨かれた気がする。

だがそれ以上に心配なのは横にいるシアだ。


(……確か、あのネイビアって子はシアと同じ孤児院出身だ。恐らく彼が言う先輩も、シアの事だろう。そんな彼を自分が相手していいのか?)


孤児院出身だからといって差別する訳でもない。むしろ尊敬の念まで抱く。

シアもネイビアも、武術学院首席のアステスだって孤児だ。いくら首都魔術学院と武術学院の教育費はタダだからと言っても、各地のもっと良い家に生まれて勉強に励んだ子を抜いて首席になったのである。

シアは孤児という事を皆に今でも隠している。それを大衆の前でバラされるぐらいなら自分が相手をした方がいいのだろう。

そう思った矢先、シアが唐突に声を上げた。


「……今回の学年対抗戦、私が出たい」

「えっ」


自分が素っ頓狂な声を上げるのに対して、皆が不思議そうに自分の方を見る。


「えっ、て何だよ。えって。まさか自分がもう出る気でいたのか?確かにお前は強いけど、別に俺らだって負ける気は無いし、シアなら問題ないだろ」

「あ、いや、ショウそうじゃなくて……」

「じゃあどういう問題なんだよ」


痛い所を突かれてしまった。喧嘩腰になっているショウをクロウとニアが机から引き剥がして代わりにファレスとフォレスがシアに聞く。


「どうして今年は出ようと思ったの?」

「うーん、やっぱりほら。レテ君だと圧倒的過ぎるじゃない?孤児で努力してSクラスに入った子にこう……レテ君をぶつけるのは色々……」

「「「「あぁー……」」」」


酷い言われようであるが、それは考えていたことでもあったから助かる。けれどそれならばシア以外でも良いはずだ。

例えば魔法の使い方で言えば同じ顕現であるショウであっても近接戦にも持ち込めるし、シアの他にも収縮系統を得意としているクロウ、ニア、フォレスなんかは小細工無しに打ち出すだけで勝てるだろう。

光と闇を扱うミトロとレンターが技を使うとどう騒ぎになるか分からない上、恐らくダイナと二人はそもそも出る気がないだろう。三人とも対抗戦に出るよりも自己研鑽に励むタイプだ。


「って事でレテ君、良い?」

「シア、本当に良いのか?」


これは任せてもいいのか、という問い掛けでは無い。

出会って本当にいいのか。そういう問いなのである。


「やだなぁ、私が負けると思ってるの?」

「いや、思ってない。孤児院で育った努力の結晶の後輩に、学院で学べる広さを教えてあげればいいんじゃないかな?」


そう言うと、皆頷く。ショウも納得したようで、未だに両腕を引っ張られながら頷いている。


「よおし!それじゃあ今年はシア君でいいかな!」

「……先生、もしもシアが不調とかで出られなかったら自分が出ていいですか?」


その言葉に皆もシアも振り向く。


「んん?それはどういう事かな?」

「シアと同室だから分かるんですけど、シアって体調がすこぶる良い時とすこぶる悪い時があるんですよ。もしもの話ですけど、前日とかに体調を崩してしまったら自分が代わりに出てもいいですか?という事です」


少しスイロウ先生が考えて、深く頷く。

スイロウ先生はシアが孤児院で育った事を知っている。ネイビアが言っていた先輩がシアだとは断定していないが、大体同じことを考えているだろう。


「まぁ確かに直前で風邪を引かれては困るしなぁ!シア君が簡単に風邪を引くとは到底思えないが、その時はレテ君。任せてもいいかね?」

「はい」


何だ、そういうことかと皆は座る。そのまま次の授業に移った。


ご飯もお風呂も入った後。シアと二人きりの部屋でシアがぽつりと話しかけてくる。


「……心配してくれているんだね」

「当然でしょ?去年は同室の自分にまで孤児を隠そうとしていたんだから、大衆の前でシアと出会ってバラされたらと思ってさ」

「ふふっ、そんな事あったね~。ありがとう、心配してくれて」


そう言って一度口を止めると、まだベッドに入らず外を見ているシアの横に並ぶ。

そっと、いつものお香を付けるとシアは俯く。


「……ネイビアはね、賢い子だよ」


そっと語り始める。微かに震えている手をそっと握ってあげると、次々に言葉が聞こえてくる。


「私の事を慕っていたけれど、周りの皆に読み聞かせとか、私達より小さい、本当に小さい子供の相手とかもしてた。

だから分からないの。確かに私は孤児の中では話しかけやすい年齢差だったと思う。……ほら、私以上に大きな孤児っているからさ。でも、そんなネイビアが周りを護るためじゃなくて、私を追って魔術学院まで来るなんて」


確かに分からない。だが、一つだけ勘違いをしているようだ。


「ネイビア……彼は、周りを護るために入ったんだと思うよ。特にシア、君を」

「わ、私?」


狼狽えるシアに対して頷くと、そのまま言葉を流す。


「彼の言葉によれば、シアを誇りに思っている。だからこそ、なんじゃないかな。シアは孤児院から出てきて、タルタロスの事もあって……慕っていたシアを守りたいと思っているんじゃないかなって」

「……そうなのかな」


正直、彼がそこまでシアに固執する理由はイマイチ分からない。本当に偶然なのかもしれないが、それならば孤児である事を明かしてまで先輩を追ってきた理由にはならない。

しかし、この年頃で異性で、急に飛び出したシアを追いかけてきた理由の一つには心当たりがあった。


(……恋慕、か)

誤字報告助かります!ありがとうございます!

幼いからこそ、無意識に慕っている人を恋と勘違いしちゃうって多いと思うんです

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