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異界の師、弟子の世界に転生する  作者: 猫狐
四章 黄昏のステラ
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学年対抗戦 武術学院

武術学院の学年対抗戦は、少しだけ特殊だ。

魔術学院のように魔法を使って攻撃することは許されないが、魔法による自己強化や妨害は認められている。

例えば風を扱ったとして、風の刃を飛ばすのはルール違反となるが自身に風を纏わせて素早さを上げるのは認められている。

また、お互い年齢や経験、危険度からして武器を携帯することは認められていない。つまり肉体勝負だ。


ナイダは控え室で深呼吸する。相手は今年の首席、アステス。彼女が得意とするのは恐らく光。しかし光魔法は火、風、水、土の四属性と違って闇と同じく他の補助に長けている。

しかもアステスがどの系統を得意としているのか分からない。顕現ならばともかく、広域化、収束。最悪なのは付与系統だ。自身に光を付与することにより、純粋な肉弾戦は勿論、撹乱することも可能だ。

唯一ルールに助けられたとすれば、魔法による攻撃が禁止なことだろう。これが出来るかは別として、もしも光による攻撃が可能であれば勝ち目がないことをナイダは彼との戦闘によって知っている。

次の番だと呼ばれ、ナイダは席を立つ。


(……負ける訳には、いかない)


ナイダが入場すると、場が湧き上がる。そしてアステスが入れば、更に声は大きくなった。


その直前、アステスも控え室で考え事をしていた。


(武器の携帯は不可、でも魔法の妨害はあり……)


座ったまま自分の右手を見つめる。得意なのは広域化系統。だが、光魔法の広域化で何が出来るか。

自分を助けてくれたあの人ならどうするか。それを思考する。


(きっとあの人なら周りに光をばらまいて撹乱する。その隙に攻撃する。魔法による攻撃は出来ないけど、その分お互い距離の近い肉弾戦なら有利を取れるはず)


顔も何も分からず、声すら発しなかったけれど何故かあの人を思うと勇気が出る。それは命の恩人であり、同じ光を使う人だからだろう。


「アステスさん。そろそろ準備をお願いします」

「あ……はい、先生」


不意に呼びかけられて席を立つ。自分に出来るのは全力でぶつかって、先輩の強さを吸収する事だけ。


特設闘技場の中に入ると歓声が上がった。目の前には既にナイダ先輩が銀髪を揺らして立っていた。


「ナイダ先輩。今日は胸をお借りします」

「……ええ、アステスさん。お互いに悔いのない戦いをしましょう」


そう言って先輩がお辞儀をするのに合わせて自分もお辞儀をする。

そして十分に距離を取った後。先生による掛け声が入る。


『それでは武術学院、Sクラスの学院対抗戦を行います。……始めっ!』


その合図と共にナイダ先輩が小手調べとばかりに突っ込んでくる。

既に疾風を纏っている。彼女は風が得意なようだ。

一瞬にして詰められた距離の中、自分は屈んで繰り出されたアッパーを避けて背中に周り、握り拳の横の部分で叩こうとする。

それをあっさりと足を片足だけ回転させて距離を取ることで回避されると、反撃とばかりに拳が正面から飛んでくる。


(風の力だけじゃない!純粋にこの人が速い!これが……Sクラスの先輩。でも私だって!)


その拳を顔を逸らす事だけでいなすが、それはフェイクであった。

二撃目のもう片手の手が腹の部分に当たり、思わず仰け反る。

このままでは猛攻が続いてしまう。そう思った時に私は光を撒いた。


「っ!」


驚愕の声と共に一瞬視界を奪われた隙に体勢を立て直す。そのまま踏み込み、拳を目の前に突き出す。


「まだ甘い」


しかし拳は捕まれる。ならばとこれ幸いに身体を前のめりにさせて頭突きをする。

先輩は一瞬よろめいたが、拳を離して自分に足払いをかけて後ろに下がる。


「くっ!」


自分は転ぶと、再度光を広域化で展開して直ぐに場所を移動する。

そもそも風で速くなっている先輩相手に正面からやり合うのはまだ技量的に無理だ。しかし、一矢報いる事ぐらいは出来る。


光をとにかく四方八方に広域化で展開させ、先輩の周りを駆け回る。

魔力の消費が激しいが、今は気にしている場合ではない。しかし、それまでだった。


「なるほど」


そう言った先輩が、突如見えていないはずなのに自分の方向に回し蹴りを繰り出した。

予想外の攻撃をもろにくらってしまい、吹き飛ぶ。そして風を切るような音と共にこちらに向かってくるのがわかる。

回し蹴りの当たった位置で、どこに吹き飛ばされたのかを予測したのだろう。そして、あろう事か自分は突如後ろから風に押された。


(しまっ……!)


先輩は今まで自己強化しかしてこなかった。だから、風で強引にこちらを詰めさせる妨害方法など、頭から外れていた。


「ふっ!」


そのまま胸元を捕まれ、背負い投げをされる。

地面に叩きつけられる。そして、ここで試合終了の笛が鳴った。

そうだろう。このまま追撃されれば酷い怪我になりかねない。


(……まだまだ私は弱い)


四属性のように沢山の文献があれば、どんなに楽だったことか。光魔法を教えてくれる人なんて、武術学院にはおろか、魔術学院にも居ないと聞いた。それだけ光と闇という二属性が極端に少ないのだ。


叩きつけたナイダ先輩が手を差し伸べてくれたので、その手を取って立ち上がる。すると、予想外の一言が飛んできた。


「光の使い方。上手だった。見るからに広域化系統だと思うけれど、上手く撹乱するやり方を知っていた」

「でも……先輩はそれを見なくても回し蹴りを……」

「それは貴方が疲労していた吐息が聴こえたから。もしも足音だけなら詰められて私が攻撃を受けていた」


そう言って褒められる。規格外だ。この先輩は。

多くの事を学べる、そう思った矢先に衝撃の言葉を耳元で囁かれた。


「……光属性。確かに文献は少なくて、教えられる人だっていないと思う。けど、一人だけ魔術学院で光を教えられる人がいる」

「……っ!?そ、その先生の名前は!私は光を扱う力が欲しいんです!」


教えられる人がいる。そんな凄い先生がいたのか。それに食いつくように服に縋り付くと、頭に雷が落ちたかのような言葉が出てきた。


「先生じゃない。私と同じ二学年のSクラスの生徒。……落ち着いたら頼ってみるといい。名前で探すより、先輩を見つけてこの言葉で聞くといい。……『顕現の神童』の先輩を知りませんか、って」


「顕現の……神童……」


その言葉を脳裏に刻んで、お互いにお辞儀をして回復の手当を受ける。


もしも、本当にその人が光の扱い方が分かるとしたら。

何がなんでも力にしたい。これ以上、無力な自分にならない為に。

こうして書くとアステスは勿論、ナイダは化け物だなって思います

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