入学式を見る側として
いよいよ入学式が始まる日だ。天気は快晴、発表にはもってこいの空模様だ。
今年は一体どんな逸材が入ってきたのか、楽しみでならない。
(いかん、先生目線だ……皆に魔術を教えたりシアと特訓していたからかな)
今の自分は幼い学院生。そうして今日は、やはり上のベッドが良いと元気よく言ったシアより先に下のベッドから抜け出して顔を洗うのであった。
シアより先に起きたのは気分だ。まだ鐘が鳴っていないが楽しみで仕方ないとワクワクしている自分がいる。
数分してゴーン、ゴーンと寝起きの音が鳴ると上の方から声が漏れてくる。
「……あとごふん……」
「シア、入学式の日だぞ。それにもう家じゃないんだから寝坊はダメだ寝坊は」
まだまだ寝足りなさそうなシアに対してジリリリリ!と腕時計型の魔法具を鳴らす。これは父に買ってもらったものの一つで、本来防犯用グッズらしいのだが専ら扱い方はシアか自分への目覚まし時計になっている。
「わう!起きる!起きるからちょっと外向いてて!」
慌てて毛布を取るとシアが降りてくる。言われた通り外を向きながら、新しい入学生との交流、新しい授業、友人達とのやり取りを考えて微笑む。
(生きているって、楽しいな)
「……くーん、レーテーくーん?食堂行こうー?」
「ん?あ、着替え終わった?行こう」
物思いに耽っていたらいつの間にかシアが準備を整えていた。二人してそのまま部屋を出ると、食堂に向かう。
食堂には既にほぼ皆集まっていた。やはり楽しみなのだろう。
「なあレテ!」
「どうした、ショウ」
朝ごはんのパンを飲み込んで問いかけに答える。当の本人は既に食事を終えている。早すぎる。
「俺らが先輩になるんだよな!?」
「そうだね」
「でもレテは年齢的には一学年なんだよな?」
「……そうだね」
「もう一回入学式に入学する側で出ないか?……あいたっ!?」
「アホか!そもそも一年飛び級してるんだから出たらマズイだろ!」
「だからってよぉ……そんな叩くことないじゃんか……」
スパァン!と手で頭を叩いて冗談に正論で返す。しくしくと頭を撫でているショウにクラスの皆は笑いを堪えながら黙祷している。
自分はさっさと朝ごはんを食べるべく、食べかけのパンを口に含んだ。
皆が食べ終わり、先に入学式の場所へとスイロウ先生に案内されていく。
皆談笑しながら歩いている。そんな中、シアが小声で話しかけてきた。
「今年はレテ君みたいにすごく飛び抜けた子っているかな?」
「……自分で言うのもアレだけど、流石に自分が異質だっただけで普通だと思う」
「だよねぇ」
後にこのコソコソ話の様子を見たニアがまたもや恋人だ!と言い始め、結局式が始まるまで二人して弄られ続けられる事になった。
時間となり、静かになった中入学式が行われていく。
今年の一年生も見た限りでは去年と同じ数だ。やはり、首都の最高峰の学院だけあってそこはシビアなのだろう。
入学式が始まり、まずはジェンス総長の言葉を貰う。
「つい数ヶ月前の事だ。皆、噂でも新聞でも、タルタロスについての侵攻は知っていると思う。一学年の皆に限らず、恐怖することは当たり前なのだ。しかし、その中で手を取り合えば逃げられる命がある。
さて、入学した一学年の皆。おめでとう。しかし君達は未だに始まりの門に立ったに過ぎない。先輩、先生、色んな人を見て、聞いて。本を読み、実践し、武術、魔術双方の腕を磨くことを期待する。そして年月が経つ度に、強くなる君達を期待している。……総学院長、ジェンスより」
拍手が送られる。ここからは一学年の首席の言葉だ。
さて、どんな言葉が来るのか。楽しみである。
まずは壇上に武術学院首席が上る。緑色のロングヘアーの子だが、どこか強い気迫を感じさせる。
いや、先程までは無かった。ジェンス総長の話を聞いてからだ。その理由は、彼女によって明かされることになった。
「……私はラクザから来ました。ラクザ、分かりますか?南の首都、ラクザです。今ラクザの戦火と呼ばれているあの事件で、私は両親を亡くしました。それからは孤児として、ラクザの孤児院で育ちました。
私は力が欲しい。沢山の人が救われてもなお、救われなかった両親。私を送り出す為に命を張った両親。そして、私を保護してくれた光のローブの人のように、光を強く扱う力が。
学院で多くの事を学びましょう。学べるものは学び尽くしましょう。そして、二度と私のような孤児が生まれないように奮戦するのです。……武術学院首席、アステス」
その言葉の後の一礼に、皆沈黙した。
ラクザの戦火。つまり、タルタロスの襲撃で彼女は両親を亡くしたことになる。
それならば気迫があるのも納得だ。先程総長からタルタロスの話が出た直後だったのだから。
それにしても、光のローブの人。それはおそらく自分だ。多くの人を救いすぎて分からないが、おそらく彼女も救われた一人なのだろう。
(……分かっていた。全ての人を救うなんて)
そう悔やんでいると、次は魔術学院首席の言葉だ。壇上に上がると、横から「えっ?」という声が小さく上がる。シアの驚愕の声だ。
「タルタロスの襲撃は多くの人に絶望を齎したと思う。かく言う俺も、前のアステスさんとは違うが前から孤児だった。だからこそ本当に思う。争いによる孤児を亡くしてはいけないと。
さて、去年孤児院の一つ上の人がこの魔術学院に入学したと聞いた。俺はその人を追ってきた。その人は孤児院の中でも気配りが出来、賢い人だから俺も誇りに思う。
そして、俺もそんな誇りに思われる人になりたいと、成長したいと思っている。……魔術学院首席、ネイビア」
今度は明るい雰囲気で締めたため、拍手が送られる。アステスさんも大きな拍手をしているところを見ると、自分の所で拍手させられない話をしたのを少し悔やんでいるのかもしれない。
しかし、大事だ。強くなるためには理由が必要なのだから。
「……ネイビア、何でここに」
「知り合いか?……なんて聞く必要もないな」
ポツリと呟いたシアに対して問いかけると、無言で頷かれる。
あのネイビアという子は、シアと同じ孤児院の出身だ。
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