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異界の師、弟子の世界に転生する  作者: 猫狐
四章 黄昏のステラ
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レテの意思

夏休みも中盤になってきた。魔道具で部屋を冷やしてはいるが、暑いものは暑い。

そんな中、部屋を放棄して自分とシアは庭で魔法の撃ち合いをしていた。特訓である。


「そこっ!」

「まだまだ甘い!」


シアが横から広域化で両脇に滝を流してくる。しかし土の顕現により壁を作って水を挟み込み、逆にそれを倒すようにシアの方に向ける。


「ほいっと」

「あわわわ!?」


すると滝の水はシアへとどんどん流れていく。その隙に自分は風の槍を作成し、後ろや横、シアが逃げるであろう場所を予測して先に打つことで逃げ場を塞ぐ。


「あばばば!降参!降参ー!」

「分かった」


そう言って自分は火属性の魔法を応用して壁を顕現させて、水を蒸発させていく。


「うわー!今日も勝てなかったよ……」


「簡単に勝たれても困るけど……。最後のは良かったよ。左右から水を流すのは逃げ場を塞ぐのに効果的だと思う。その一段階前に何か……そうだね、水を正面から受けさせてその隙に左右から襲わせる二段構えならその辺の先輩には早々遅れを取らないよ」


「ほんと!?やったー!!」


素直に喜ぶシアに、微笑みながら考える。

シアは強くなっている。まだまだ年齢……と言ってはあれだけれど、生半可に学んでいる先輩に負けることは無いだろう。


(……何で、シアはそこまで強さに貪欲なんだろう?)


そう、夏休みに入ってからデート……ではなく夕飯の買い出しや料理。宿題など色んな事をしてきたが一番長いのはこの特訓の時間だ。

何故彼女は、そこまでして自分に教えを乞うのだろう。今日の宿題の時間に聞いてみよう。


「……暑いよー」

「……暑いね」


虫の鳴き声が騒ぐ中、二人で家の中に入る。

何かを言う前に母さんに『着替えは準備してあるわよ~』と言われ、問答無用で風呂に放り込まれてしまった。

流石に二人で入るのは恥ずかしいと最初は抗議したのだが、母は『身体が育ったら二人で入る事なんて出来ないわよ?』という言葉にシアが屈して結局、特訓終わりの時は二人で入っている。


「えい」

「んぶっ!?」


そんな事を考えているとシアに直接水をかけられる。魔法ではなく、湯船の水だ。しかも桶いっぱいのやつを、顔面に。


「何!?」

「んー、気分?」

「腹いせは良くないぞ……!」

「腹いせじゃないもん!やり返したっていいよ!」

「言ったな!?」


そう言って二人してバシャバシャと桶と顕現の桶でバシャバシャかけ合う。

結論から言うと、湯船の水が少なくなったのを二人してマズいと思ってシアが水を入れて、自分が急いで湯沸かしの魔道具を入れて事なきを得た、はずだ。

ただし上がった後やけに母さんが笑顔だったのは忘れては行けない。


夜。晩御飯も食べ終わって宿題をやり終わった時に、思っていた事をシアに聞く。


「ねぇシア。シアはどうして自分にこんなに鍛錬を頼んでくるの?」


するとシアは不思議そうな顔をして、少し考えてから答えた。


「んーと、まずレテ君って強いからそういう人に鍛えてもらいたい……っていうのもあるけど。一番は隣にいたいから、かな」


「隣にいたい?」


うん、と頷いたシアはそっと近づいて抱きついてくる。


「……レテ君は、人に言えない秘密を持ってる。だから強いけど、それって逆に考えれば孤独なんじゃないかなって思って」


「……孤独……」


そうだ、自分は前世は孤独だった。アイツが乱入してくるまでは。

今は確かに家族と友人、コネに恵まれて孤独ではないだろう。しかし、自分の持っている秘密はそれこそ他人を孤独にしかねない、特大のものだ。


「……私はね、好きな人を孤独にしたくない。一人強いからって、無茶をさせたくない。足を引っ張りたくない。何より、君がたとえ一人になったとしてもずっと味方でいたい。だから、私は強くなりたい」


「……そっか、ありがとう」


そのまま自分も手を回すと、シアが今度は聞いてくる。


「……レテ君はさ、何かやりたいこととかないの?」


「……やりたい事?」


どういう意味だろう。彼女が言っていることはそういう行為ではないし、本当に図れない。


「うん。例えば、イシュリアの魔法も取り入れて新しい魔法を作ったり、魔道具を作ったり。別に魔法だけじゃなくて、武器を持っても強いんだから武術を極めて先生に打ち勝つ……とかさ」


「……うーん」


確かに、自分の持っている知識はイシュリアの知識と似ている。しかし地理や歴史など異なる部分も多い。

けれど、やりたい事と聞かれると悩んでしまう。そう思っているとシアが再び口を開く。


「……どういう経緯でレテ君がその姿になったのか分からない。でも、私はレテ君が空っぽだって思うんだ。

イシュリアを助けるためなら命も厭わない。ラクザの時だって、一人だけ他の場所で戦ってた。だから思うんだ。

正直な話、君は命をかけすぎなんじゃないかなって。それは、自分が生き残るよりこの世界を……『イシュリア』を守ろうとしているからじゃないか、って」


「……!」


確かに、言われてみればそうだ。

どんな時でも自分は実力で捩じ伏せた。けれど、自分の命を想った事はなかった。

それがシアに……皆にどれだけの迷惑をかけたのか。そんなの、この前の出来事で分かりきっている。


「……孤児院の絵本にはね、新しい命の話やイシュリアへ異界から転生?してきたお話とかあるんだ。でも、皆健やかに育っていって、何か夢を持って、最後にはそれを叶えるって話が多いんだ。

でも、レテ君はその夢がないみたいに思えるの。ただ、他の人を失いたくないから守る。それこそ、守護者の義務みたいに。

でも、レテ君は守護者でもなんでもない、私たちと同じ子供だから。……何か一つ、夢を持って欲しいなって」


「……夢」


そういえば、イシュリア王は迷っていた。自分達を作戦に加えることを。

あれは確かに他の皆を失いたくないから……というのもあっただろう。

しかし、そこにアグラタムが……弟子が、今度こそは健やかに育って欲しいと願っていたら?

前世が寝たきりで動けなかった分、伸び伸びと育って欲しいと思っていたのなら。


「……長く、生きたいな。シアと一緒に」


そうだ。歳若くして亡くなった自分にこれ以上の夢はない。


「そっか。それが夢なら……うん、叶えよう。私は最期まで一緒にいるよ」


そう言って一層力強く抱きつかれる。


(……自分の、意思)


考えたことなんて無かった。夢なんてなかった。ただ、偶然この世界に生まれたのだと思っていた。

けれど、偶然でも健やかに育って欲しいと思う人がいれば。

悩み、話し、解決し。長く生きる。それが何よりの孝行ではないか。

そう思いながら、そっと耳元で呟いた。


「……ありがとう、シア」

「……大好きだよ、レテ君」

いつも読んでくださりありがとうございます!

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