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異界の師、弟子の世界に転生する  作者: 猫狐
四章 黄昏のステラ
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夏休み ダイナの場合

どこの家庭も順風満帆。そうであるならばどれだけイシュリアは幸せな事であったか。

ダイナは帰りの列車の中、窓の外を見ながらそう思った。


ダイナの家庭は、両親の仲があまり良くなかった。

正確にはダイナや兄の前では仲良く見せているものの、夜になれば喧嘩することなんて日常茶飯事だ。そんな空気の中でダイナは過ごしてきた。


ダイナが友人と過ごす時も飄々として一歩引いてしまうのも、それが原因だろう。どうしても親の顔色を伺う癖がもう着いてしまった為に、踏み込めない。


(……帰りたくないなあ)


はぁ、と溜息をつくと対面に座っている兄が言う。


「気持ちは分かる。けれど今年は兄ちゃんもダイナも学院に入って初めての侵攻……ってもんがあった。だから一度帰らないと……」


「うん、わかってるよ〜お兄ちゃん」


「……そうか」


ダイナの兄は同じ魔術学院に通う四年生。今度五年生になる。

兄だけは自分が顔色を伺うのを知っていて、話をキチンと聞いてくれる。理解者と言ってもいいだろう。


「そうだ、それよりもダイナの事を聞かせてくれ。今年の一年生は何やら豊作って聞いたからな」


こうして暗い雰囲気も、さり気ない話題で変えてくれる。ダイナはそんな兄に感謝しながら苦笑しながら頷く。


「豊作って……作物じゃないんだから〜」


「はは、すまん。でも今年のSクラスは飛び抜けて評価が高いってウチのSクラスでも話題になってるんだ。どうなんだ?友達と良くやれているか?」


「そうだね〜。皆良い友達だよ〜」


ダイナも、兄もSクラスであった。それは家から出たいという気持ちから勉強と実技を頑張った結果である。

兄だって本当は帰りたくないのだろう。けれど、帰らざるを得ない。去年までは一人残されていた自分の為に、今年はタルタロス侵攻があった為に。


(……じゃあ、来年は?)


ふと、そんなことを考えていると兄がソワソワしているのが見えた。あぁ、そうだったと思いながら話し出す。


「皆凄いけど〜、権力的に凄いのはファレスさんとフォレスさんかな〜!あのラクザ当主のお子さんなんだって〜」


「ほう!……いや、でもラクザと言えば襲撃が起こったと聞いたが……」


やはり兄も知っていたか。だが自分が参加したとも言えず、嘘だけは交えないように誤魔化す。


「うん〜。ラクザの襲撃の後、担任の先生から話を聞いて……あ、なんか怪我した人は少なかったらしくて。安心してたよ〜」


「そうか!ウチのクラスにもラクザの近くから来たって友達もいるからそれは安心だ。他にはどうだ?権力的に、って言うからには……」


ニヤッと笑う兄。それに釣られて敵わないなあと笑いながら自分は続ける。


「うん。頭のいい友達、それに実力も凄い友達。皆が皆、凄いんだ。……でも一番凄いのは……」


「『顕現の神童』……レテ君、だったか」


そうだ、レテだけは実力が飛び抜けている。

自分だって学んだ。魔法についても、勉強についても、いざとなった時の戦闘の知識も。


けれど、それでも届かない。同じ風が得意なはずなのに自分よりも圧倒的な制御力を持ち、他の属性や系統も使い倒すその実力は自分や兄、そこら辺の兵士では到底では無いが勝てない。


「その子とね〜?別れる前に皆で……うん、九対一で戦ったんだ〜。でも……負けた。僕も努力してたけど、レテはそれを超えているよ。多分兄さんのクラスがかかっても勝てないよ〜」


「ははっ、比喩もそこまで行くと凄いな!一年生には負けてられないぞ!」


……いや。勝てない。これはダイナの確信であった。


そもそもイシュリア王の洗脳という魔力を自身の魔力で打ち消し、ラクザではおろか、タルタロス侵攻の時にもほぼ大将……あのアグラタム様と共に戦った。


そんな超人めいた彼が学生に遅れをとるか?否。そもそも最後に使われた特異能力を解放されれば一瞬で決着がつく。


(……考えれば考えるほど不思議だな〜。まるで、使い方を知って産まれてきたみたい)


ダイナが読んだどの本にも、光と闇の魔法に関する明確な記述はなかった。

なのにレンターとミトロの二人に魔法を教えていた。

確かに全ての本や文献を読んだ訳では無い。けれど、それは彼とて同じはずだ。


自身が使えるからといって、教えられるのはイコールにならない。魔法の使い方、魔力の練り方、原理を理解して初めて教えられるものだと思っている。

なのに、教えた。魔力の練り方だって、誰も知らないものだった。そんな事があると言っても信じないだろうが、そうなのだ。

レテという友人だけは、Sクラスの中でも異質だと思っていた。


(でも、傍にいて居心地が良いんだよね〜。それにシアちゃんとも仲がいいし)


そう、何故か同部屋になった彼と彼女は仲が良かった。その様子に何度両親を重ねたか。

もしもあの二人みたいに無邪気に、仲が良く、力のある優しい家庭だったら。

自分も兄も、帰りたがるだろう。


「……そろそろ駅だ。降りるぞ」


「え?……あ、ほんとだ〜降りる〜」


異質だけれど、嫌ではない。そう思いながらこれから帰る家へと向けて溜息をもう一度吐いた。


いつも読んでくださりありがとうございます!

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