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異界の師、弟子の世界に転生する  作者: 猫狐
四章 黄昏のステラ
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夏休み ショウの場合

ショウの出身は首都からはかなり離れている。方角で言うと東、ノボリビの都の方になるがノボリビに近いという訳でもない。


一言で表現するなら、田舎だ。だが決してタダの田舎という訳では無い。

キチンと街は整備されているし、周辺の魔物も掃除されている。ショウの街にも学院や学び所はあるが、それでも首都の魔術学院に行ったのはひとえにその体質のせい、いや、お陰かもしれない。


「ただいま父ちゃん、母ちゃん!」


列車から降りて借り馬車を使って数十分。家に着くと元気に声を上げる。


「ショウ!おかえりなさい!アンタ七日間休みに帰ってこなかったから心配だったのよ!」


「そうだな。ついこの間まで戦闘もあった事だし、連絡の一つぐらい寄越せば良いものを」


扉を開けると、待っていたかのように駆け出してくる両親に対して苦笑いする。


「い、いやぁ。ほら学院もそれどころじゃなくてさ……。首都まで行くと遠いしさ」


苦し紛れの言い訳に、無事なら良いと言わんばかりに母親が抱擁を交わす。ギュッと抱きしめられる感覚の横で父が優しく聞いてくる。


「それで、どうだ。ショウ。首都の学院は」


「……強い!皆つえーし、その中でも突出してつえー友達がいる!」


顕現系統は他の三系統……収縮、広域化、付与と比べて絶対数が少ないと言われている。

それが何故なのかは不明だ。しかし、力関係で言って極めればほぼ互角になる四系統でも、子供の頃……ひいては強くなりやすいのは『顕現』だ。


己の魔力と引き換えに何かを顕現させ、操る。特異能力にも似たその関係は街の子供では相手にならなかった。


ショウは地頭がお世辞にも良いとは言えない。だがまだまだ子供であり、覚えて経験を積むことにより強くなれると両親は踏み、ショウ本人も強くなりたいと望んだ。だから首都の魔術学院に必死に入ったのだ。


「ほう!お前が強いと言うのか……どのぐらい強いんだ?」


聞かせてくれ、と父が聞いてくる。その前に母に手を洗いに洗面台に連れていかれたが、ショウの興奮は止まらない。


-俺より圧倒的に強い-

-どうしたら顕現という系統を上手く使えるのか。それを知っている-

-魔法や体術にも精通している。同じ学年だとは思えないほどに-


そんな話したい事を溢れさせながら、ショウはテンションを上げて話す。


「とにかく、すっげぇとしか言いようが無いんだ!俺、入学した時に同じ顕現って言われて仲間がいたんだって思った。でも、ソイツは格が違うんだ!

俺が使うような得意な火だけじゃない。アイツは風が得意だって言ってたけど、土の壁を顕現させたり、炎の玉を作り出したり、挙句には騎士を顕現させてその騎士にそれまた自分で顕現させた剣を持たせて戦わせちまうんだ!」


その言葉に両親も唸る。ショウが得意としていたのは火属性の剣を権限させ、近接戦闘すること。しかし話を聞けば聞くほどその友人は同じ一学年とは思えない実力だ。


ふと気づいたように母が問いかけてくる。


「そういえば、異界タルタロスの侵攻が学院にあったって聞いたわ。平気だった?」


それを問いかけられるとショウは首をブンブンと取れそうなぐらい横に振る。


「いや、その時丁度先生と友達と訓練してたんだけどさ……真っ最中に来たんだよ。一緒にいた友達や先輩達とも協力したんだけどさ、ぜんっぜん倒れる気配がなかった……っていうか数が減らなかった!先生も訓練の休憩中で全力は出せなくてさ……。

でもそんな時、アイツが不意に現れたんだよ。アイツ、『部屋にいたはず』なのに気づいたら外の訓練してたグラウンドに立ってた!

そこからは先生顔負けの指示をしてさ。結果的にアイツが大元見つけ出してその時は助かった!」


もう興奮が止まらない。何せそれぐらい強い。……両親には話せないが、ラクザでの攻防に加わった事もタルタロスへの侵攻に関わったのも、アイツが居たからだ。


その時ふと思った。ラクザは兎も角、タルタロス侵攻……つまりその計画を立てるべき王と守護者、その関係者とどうやって関わりを持ったのだろうと。


ラクザの時だってそうだ。アイツは本当の姿を見せずに『フード』という名前で活動していた。それも顕現でわざわざ自分の姿を大人に見せかけて。その時だろうか?でも、アグラタム様もイシュリア様も目覚めたレテには会っていないはずだ。


(……そういえば、不思議なやつだよな。レテって。今思えば学院の先生が張った結界を利用したんだもんな。そんな事って顕現を超えた何かじゃねえか……?)


そんな物思いに耽っていると、母が心配そうに問いかけてくる。


「そんな……それは怖かったでしょう?母ちゃんに甘えていいわよ?」


「……うん、怖かった……」


正直本当に怖かった。スイロウ先生や先輩でも対処しきれない量に潰されていく絶望感。ラクザでもそうだ。あれは感覚が麻痺していたし友人も同じだったから感じなかったが、一歩間違えたら瓦礫の下だったのだ。


そう思うと急に涙が出てくる。

怖くて。怖くて。ただただ、恐怖だけが後から来て。


母の胸に顔を埋めて嗚咽を出し始めると、そっと頭を撫でてくれた。


「夏休みは始まったばかりだもの。ショウが話したい事、経験した事。ゆっくり聞かせて頂戴な」


「うむ。まずは無事に帰ってきてくれて良かったぞ、ショウ。今日は母さんが手によりをかけて料理を作ってくれることだろう」


うわぁぁぁん、と泣く中で思った。


この家に生まれて、友人に恵まれて。苦難や怖い事もあったが、楽しい事に溢れた首都の魔術学院に行けてよかったと。

いつも読んでくださりありがとうございます!

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