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異界の師、弟子の世界に転生する  作者: 猫狐
三章 破滅のタルタロス
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教師陣の憂い

「ふむぅ……」


授業が終わり、スイロウは職員室にて憂い気な声を吐き出して今日の実技を振り返る。


元々担当しているSクラスの生徒たちは優秀な子ばかりだ。それは間違いない。

座学、実技に差はあれど他のクラスより圧倒的に劣る、という事は無い。そのような教育をしている訳では無いのだから。寧ろその逆だ。


「どうかしましたか?元気が取り柄な貴方が悩み顔など珍しいですね」


横から声をかけてきたのはAクラスを担当、兼同期のメタという女性だ。

品行方正、容姿端麗。そんな彼女を相手にして恋情が沸かなかった事も無かったが、そもそもスイロウ自身は恋愛に発展することは無いと思って普通の仲の良い友人として接している。


「お?スイロウ先生ところも問題児が出てきたか?ウチは沢山だから大変だぜ。特に夏休み近いとな」


そう声をかけてきたのはBクラス担当のレストという男性だ。細身で眼鏡をかけて如何にも魔術一辺倒に見える彼は、俗に言う細マッチョという奴でありその見た目に惑わされると痛い目を合う。


「おや。スイロウ先生。本当に珍しい表情をなされていますね。夏休みの課題でも考えているのですか?」


最後に話しかけてきたのはCクラス担当のデルタという女性。教鞭を執っている時は冷たい印象を与えると生徒からは少し怖がられているが、その実力と奥に潜めた優しさは隠しきれない。その為教師陣の中では彼女を尊敬の念で慕う人も多い。


この人達なら大丈夫だろうと、椅子の背もたれの状態から背筋を伸ばして話し始める。


「いや、曲がりにもSクラス担当を受けているのだ。課題や座学には特に目立った支障は見られないのだが……」


そこまで言ってまた溜息をつく。そこにメタが言葉を次ぐ。


「という事は実技ですか?タルタロスの襲撃で一学年で活躍した話は聞いたので大丈夫だと思いますが……」


「……実力は疑っていない。ただ……怖いのだ。教師たる俺が、これまで長く教鞭を執った中でも、今年のSクラスの生徒は飛び抜けている」


「ふむ……?どういうことですかね?」


デルタが首を傾げて聞いてくる。ほかの二人も首を傾げている。


「……今日、Sクラスが臨時の教師を招いて模擬戦したのは知っているか?」


「ええ、知っていますよ。なんと先生方を魔法で完封した……とか」


「それはそれは……。とてもでは無いですがウチの生徒では出来そうにありません。誇って良いのでは?」


レストとデルタが次々に褒めてくる。

違う。問題はそこじゃないのだ。首を横に振ると本題に入る。


「確かに先生方は手加減していた。けれど……ウチの、Sクラスの生徒は手加減など要らなかったのかもしらない」


「……どういうことですか」


メタがすかさず尋ねてくる。それに一つ頷くと吐き出すように話し始める。


「……おかしいのだ」


「おかしい?どこがですか?勝利する事もあるでしょう」


レストが最もな事を言う。しかし、スイロウが危惧しているのはそこではない。


「確かにSクラスは才能や努力で成り上がるクラスだろう。だが戦闘前……昔のことを思い出したのだ」


「スイロウ先生の昔……というと、魔物を相手に賞金稼ぎしていた頃ですか」


メタがよくそんな事を覚えているとは、と若干感心しながら話し続ける。


「先生方も知っているだろうが、彼らはタルタロスの影に対抗する力があった。けれど、それ以上に……表情が怖かったのだ」


「表情?」


メタがよくわからない、というようにオウム返しをする。


「ああ。仮にも先生方……つまりは熟練の魔術師の人だ。二人組とはいえ、怯えがあって当然のはずなのだ。……なのに。

彼らは、彼女たちはその顔が鋭くなった。

勝ってやる。そういう表情ではない。負ける訳にはいかない……そんな表情だった。

実際、同室の子でペアを組んだのだが、実力は抜きん出ていたよ。一年生のペアとは言え、先生方が手加減していても容易く負けるくらいには」


「……」


それを聞いて先生方はふむ、と顎に手を当てる。コツコツと爪で机を叩く音もする。


「それって……タルタロス襲撃以前からもありましたか?」


デルタが聞いてくる。その問いにふるふる、と首を横に振る。


「不思議なのはそこなのだ。彼らはタルタロスが襲撃してくる前までは本当に今までのSクラスの一年生とほぼ変わらないはずだった。……学年対抗戦で結界に干渉した彼は除くとしても、だ。しかしタルタロスの襲撃が終わった後……どこか戦う事を怖がる様子を見せたのだ」


「それは仕方がないのでは?あんな出来事、一年生にとっては……ん?」


レストが言っていてふと気づく。


「……いや、Sクラスでタルタロスの影と戦った時はまだ普通だったはずなのに、今は戦うことを……恐れている?逆ではないか?今こそ力をつけようと奮起する時期では無いのか、学生は……」


「そうだ。まるで自分達が誰かを傷つけてしまうような……そんな状態が続いた。

そして今日はそれが吹っ切れたのか、今度は獰猛な獣の目だ。幼いとはいえ、何がその心に、実力に変化を齎したのか全く分からないのだ……」


スイロウの憂いの言葉が空に溶けていった。

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