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異界の師、弟子の世界に転生する  作者: 猫狐
三章 破滅のタルタロス
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戦場の名残

ティラミスを皆で食してから二日後。イシュリア王はタルタロスを滅ぼした事を声明として発表した。


何故二日後なのか?という疑問には幾つか理由がある。


まず一つ。イシュリア王の体調、及びアグラタムや他の兵士に異常が起きてないかを確認する事。タルタロスに行った事により、精神操作までは行かずとも精神のケアが必要な人が居てからでは遅い。


次に自分達の事。Sクラスとは言ってもそもそもは一学年で少し優れた生徒、と言うだけ。無論自分が魔術を教えた分は他の生徒よりも上だがそれでも疲れは簡単に取れないし、無力を感じて自分にまた教えを乞ってくる友人もいた。

休んでくれ、と丁重にお断りしたが。


最後にして三つ目の理由。ごく自然なもので、各地にまた異変が無いかを隠密部隊や偵察部隊を使って探っていたのだ。

即座に宣言して、また何かありました。では遅いのだ。国……ひいてはイシュリア王の威信にも関わる。


そんなこんなで延期されたが、無事にタルタロスに打ち勝ったことを届け、Sクラスの自分達は普通の……ごく在り来りな生活に戻った。



「さぁて!皆やつれていたのが元気になってきたなぁ!夏休みが近づいてきたからかぁ!?」


それから時間は経ち、今は七月の半ば。

最初はタルタロスの衝撃もあって隠しながらも子供が先生相手に隠しきれるはずもなく、ただ怖かったという説明だけで乗りきっていた。しかしそれも薄れてきたようだ。

ちなみに自分の脚はというと、今は完治している。最初は同室のシアに車椅子で運んでもらって皆に心配されたが、脚をグルグルに巻いていたお陰で慌ててベッドから落ちて軽く骨折した……という理由でゴリ押した。友人は苦笑いしていたが。


それはそうと。魔術、武術学院共に八月は一月丸々夏休みとなる。そして、九月には第二学年となるのだ。


「今回はタルタロスの事があったから多少は考慮されるがぁ!座学、実技共に励まないとSから落とされるかもしれないぞぉ!皆は実技は大丈夫だと思っていても下から上り詰めてくる子もいるから油断はしないようになぁ!

という事で今日は実技をやるぞぉ!いつものグラウンドを取ってあるから出発だぁ!」


スイロウ先生は元気だ。やはり元気は良い。そう思いながら席を立って、ふと横のクラスメイトを見る。


(……そりゃ、まぁ、そうか……)


皆、やはり少し震えている。個々の実力は高い。しかしタルタロスでの戦がどうしても魔力と魔法を使う枷となってしまうのだ。


実際これまで数回実技はやったが、スイロウ先生から心配される程に皆実技を怖がっていた。皆が全力で戦ったからこそ、それぞれの力不足に嘆いてしまったのだ。


勿論、自分から見ればそれでもA以下どころか二学年にも引けを取らせない教え方をしたのだから大丈夫だ。しかし各々の気持ちは違う。それはそれ、これはこれというやつだ。


スイロウ先生が出ていった後、皆をほぐす為に一瞬だけ『慈愛の盾』を顕現させる。


(大丈夫、ここは戦場じゃない。皆が怖がるのもわかる。でも、その経験を活かして、強い魔法を練り込むんだ。ここは平和なのだから……)


慈愛の盾は言葉を込めるだけでなく、それ自体に癒しの効果もおそらく含まれている。


それで皆一瞬ボーッとしたが、自分の言葉を理解したのか代表としてクロウが礼を言ってきた。


「……そうだな、戦いは終わったんだ。いつも通りやればいいんだよな。気を遣わせてごめん」


「友達、だろ?」


悲しい顔をするクロウに肩に手を置いてニカッと笑う。すると釣られたようにクロウが笑って言う。


「あぁ、そうだな。……お前を見てると、お前だけもう大人に見えるよ」


「……!そりゃ気の所為だ!」


勘が鋭い。確かに自分の前世も合わせれば大人だ。しかし今は子供。気の所為でしかない。


皆が少し納得しかけた所を手を大きく振って誤魔化すと、スイロウ先生の後に着いていった。



「今日の実技は少し変わったものだぁ!」

そう言うと複数の先生が前に出てくる。

大体皆、顔が察したものになるが言葉を待つ。


「それぞれの先生に複数の生徒で挑んでもらう!特異能力はお互い無し!体技は……先生方はなし、君たちは使えれば使ってもオッケーだ!」


なるほど。武術も嗜んでいるかの確認もしているようだ。


「では各々ペアを決めてくれ!二人一組だぞ!」


その言葉で即座に決まった。同室だ。寮でお互いの事を知っている……事以上に連携が取れる。


「お!無難になったなぁ!じゃあ……ニア君とミトロ君!君たちから頼むぞ!」


呼ばれて二人が前に出ると、先生が優しく声をかける。


「大丈夫。君たちは出来る子だから。全力で来なさい」


その言葉でスっとミトロとニアの目が変わった。いや、雰囲気が変わったというべきか。

あの戦いを追憶するかのように。


「……ニア、私後ろに行くわ」

「りょーかい!じゃあアレ、よろしくね!」


その言葉に先生も何かを感じたのだろう。少し警戒体勢に入り、スイロウ先生が合図をだす。


「それでは……始めっ!」


「ふっ!」


そのコールの瞬間にミトロの闇が周りを包み込む。魔力を練ることにより、洗練された魔法で広範囲に暗闇を齎す。


それでも先生の方は即座に風を起こす。どうやら風が得意な先生のようだ。だが……。


(……二人とも、実戦じゃないからな)


ニアが炎をポツポツ、と収縮させて先生の方に向かわせていく。先生はそれを振り払いながら暗闇が晴れた瞬間に目を見開く。


「……居ないっ!?」


そう、ミトロもニアもいない。ミトロの闇は気配すら隠す領域まで引き上がっていた。先程のニアの炎はまだ二人が前方にいると思わせるためのフェイクだ。


「これで!」

「……終わりです」


先生の真後ろに収縮した火の玉にミトロが闇を付与している。もしもこれを押し当てられたらタダでは済まないだろう。


「……なるほど。今年のSクラスは一味違うようだね」


ギブアップのポーズをとると、スイロウ先生が叫ぶ。


「二人とも大丈夫そうだなぁ!それじゃあ次行こうかぁ!」


その後も同じように、戦場に立った時の皆になったのは覚えている。


これは後でどうにかしないといけないのか、それともこのままにして向上心を保つべきなのか。


得意な風魔法で先生を囲み、シアが上から水を流そうとしている間にそう考えていた。

いつも読んでくださりありがとうございます!

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