幕間 幼き兵士の傷
レテのお父さんの名前や一部の子供たちの髪色を出しました。いつまでも名前無しや容姿が分からないのはまずいな、と思ってここで出させていただきました。
気がつけば、真っ白な天井を見ていた。
(……ここ、どこだろう……)
朧気で曖昧な記憶を引っ張りだそうとすると、そこに割り込むようにとある光景が頭の中に映る。
壊した建物の数々
燃やした街の光景
そして、ゲンブの足により潰された影の血。
「っ!ああぁああぁあああああ!」
ばっと起き上がる。そして頭を抱えて絶叫する。この光景は嘘偽りではない。私が、私自身がやった事だ。
「大丈夫ですか!」
慌てて白衣の女の人が駆けつけてくるのも、それを気にする余裕などなかった。
(影を……人を……ころ、し……)
ただただ叫ぶ。意味のある言葉ではない。苦しみ、もがいている声。それに釣られたように他の兵士が起きて声が飛び交う。
「お、おい……あの子大丈夫か……?」
「……大丈夫じゃないだろうよ、俺たちだって辛い事を、幼子に任せちまったんだから」
(違う、違う!任されたんじゃない!私が……私の意思で……!)
まだ声を上げ続ける私の背中をそっと白衣の女の人が摩ってくれる。そして優しく、透き通る声で話しかけてくる。
「ここには撹乱の兵士さんが……そう、お友達も、大人の人も一緒に休んでいますよ。私たちで良ければ、その苦しみを吐いて……背負ったものを分けてくれませんか?」
そう言われて、私の中の何かが弾けた。頭を抱えながら周りを鑑みる事無く、大声で叫んだ。
「わ、たし……は……ああああぁぁああ!殺した!影を!人を!忘れられない!あの影は人だった!それを私が……私の身勝手で命を奪った!イヤだ!イヤだ!イヤだぁぁぁ!」
その声に一人、起きて寄る俺が居た。幸い他の子はまだ寝ている。余程魔力と精神力を使ったのだろう。この子が真っ先に起きてしまったようだ。
白衣の女性の傍まで行くと、その姿にビックリされる。
「だ、ダメですよラファ隊長!その姿では……!」
「……いいや、その子はウチの子も同然なんだ。少し話させてもらっていいか?」
正直俺の姿はボロッボロだ。どこもかしこもテープだらけ。腕や足が折れていないのが奇跡のようなものだ。
白衣の女性もそういうことなら……と代わりに椅子を持ってきて譲ってくれる。泣き叫ぶ彼女の横に座ると、まだ痛みが残る腕を伸ばして抱きしめた。
「ぁ……おとう……さん……」
「……シアちゃん、君まで戦場に巻き込んでしまって済まない。ウチの息子のワガママで、傷を負わせてしまって済まない」
そう言うとガバッと顔を上げて俺の顔を見る。その目は一点の曇りもなく、これだけは言いたいといった顔であった。
「違う!彼は悪くない!彼は私達を待たせることも出来た!私達が!私が!自分の意思で戦場に立った!……でも、辛いよ!苦しいよ!……お父さん!レテ君は!レテ君は無事なの!?」
(……イシュリア様の魔力を解いたのはウチの息子でも、尚着いてくるといったのは自分の意思、ってところか?)
そう思いながら、少し力を強めて……それでも温もりを感じさせるように全身で包み込む。
「ぁ……」
「……正直、レテの安否は分からない。だがイシュリア様が、アグラタム様が。他にも人がついている。だからきっと……大丈夫だ」
そう言うと今度は一転して、泣き出してしまった。悲嘆にくれる中、彼女の友達であろう子供達も起き始める。
「ど、どうした……シア……?」
「シアちゃん……?」
黒髪の男の子と赤紫色の髪の女の子が目覚めて心配してくれる。確か名前はクロウ君、ニアちゃんだったはずだ。
「レテ君は!レテ君は無事なの!?」
その言葉には彼らも顔を伏せるしかない。彼らも分からないのだから。
正直なところ俺だって不安でしかない。唯一の血の繋がった息子が一番危ない場所に赴いたのだ。心配にならないわけが無い。
少し時間が経つと、他の子も起き上がってきた。まだ彼女は自分の中で泣いている。涙が枯れ果て、鼻水すら出なくなっても。
しかし他の子も同じような事態になった。
「そう、だ……俺は……顕現で……燃やして……」
「影を……人を……!」
マズいと直感的に感じた。直ぐに近くにいる白衣の女性に小声で声をかける。
「彼らは戦場で『影を殺した』幼き兵士たちだ。この子は自分が見る。他の子の対処のために後……六人、六人は呼んできてくれ」
静かに頷くと別の女性に指示を出して行かせる。白衣の女性は号哭する少年少女達の所へ向かう。
「心配だよ……お願い……生きて……生きていて……レテ君……」
「……そうだな、生きていてくれ。アイツは約束を破らない。だから……生きて帰ってくるさ」
そう言ってまた抱きしめる。直後に急いで他の所からやってきた白衣の男女が子供たちの対応に当たる。
「俺が……俺が殺したんだ!」
赤髪の少年が白衣を強く掴んで泣き叫ぶ。
「僕が……!僕がもっと強ければ気絶させられるだけで済んだかもしれないのに!」
薄緑色の髪の少年が無力を悔いて抱きついている。
「私が無理に……皆を先導したから……!」
黒髪のロングの女の子が自分の顔に爪を立てて後悔している。
他の子供も皆起きてフラッシュバックしたらしい。トラウマになるだろう。この年齢で影を……人を殺したのだ。大人の兵士ですら人を殺した経験など、ほぼないだろう。
(……これは、俺たちの責任でもあるんだ……!撹乱に誰か、兵士をつけておくべきだったんだ!子供たちが傷を……こんな深い傷を負わないように……!)
腕の中で泣き続ける彼女と同時に、自分も歯噛みしながらそう考えた。
一層手に力がこもってしまった。後悔とは、終わってからやってくるものなのだ。
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