幕間 王の部屋の双子
「……ん、んぅ……?」
大きく欠伸をしながら横になったまま目を覚ます。正面にはフォレスがまだスヤスヤと眠っている。余程疲れているのだろう。私もまだまだ正直疲れている。
「お目覚めですか?」
「ひゃいっ!?」
その時優しそうな女の人の声が近くで聞こえて思わず変な声を出す。思えばここはどこなのだろう。
実家よりもフカフカなベッド。絢爛豪華、ではないが整えられた調度品。そして何よりも広い部屋。そして謎の女の人。
「こ、ここ……ここはどこですか……?」
もしかしてどこか変な場所に捕らえられてしまったのか。一抹の不安を抱えながら女の人に問いかけてみる。
「ここは主、イシュリア様の私室にございます」
「…………えっ……」
数秒間無言になり、考える。確か連絡役として務めを果たした後、疲れ果ててフォレスと眠ってしまったのだ。その時は玉座の間の端っこを借りていたのだが、何故か王の部屋にいる。
なんでだろう、でもそれを考える前にふぁぁ、と欠伸が出てしまう。まだ疲れっぱなしだ。
「まだお疲れのようです。もう一眠りしてもらって大丈夫ですよ」
いや待った、その言葉はちょっと待って欲しい。仮にも何故かイシュリア王の部屋に運ばれて。しかも私室という事はこのベッドはイシュリア様の物だろう。そんな場所で二度寝するなど少し気が引ける。
「そ、そんな。大丈夫で……ふぁぁ……」
「大丈夫ですよ。貴女方をこの部屋に寝かせて良いと言ったのはイシュリア様ですから」
そう言われると何となく寝ない方が申し訳なくなってくる。また目を閉じると、すぐに睡魔がやって来た。
そっと毛布が掛け直されるのを感じると、すぐさま睡眠に入ってしまった。
「ん、……ここ、は?」
暗いが明るさが全く無いわけではなく、むしろ眠りやすいように光度が調整されているように感じる。
そして目の前で眠るファレスと、私自身が感じている感触に違和感を覚える。
(……玉座の間って、こんなフカフカな場所じゃなかったよね……?)
「お目覚めですか?」
「ふぇっ!?」
素っ頓狂な声を出しながら声の主の方を見ると、如何にもメイド様といった格好の女性を見つける。家にもメイド様がいるが、この人は高貴さもあって執事長のような感じが近い。そんな感じがする。
「先程ファレス様も同じような声を上げてもう一度眠りに入られましたよ。ここはイシュリア様の私室にございます」
「……ファレス、先に起きたんだ……って、え、イシュリア様の……私室?」
ふんわりとしたいい匂いのするベッド。枕からも安心するような、花の匂いがする。なるほど、イシュリア様の私室……。
「……疲れすぎて夢でもまだ見ているのかな」
「お疲れのようですね。ファレス様と同じように、フォレス様ももう一眠りしても大丈夫ですよ」
優しく視線を合わせてくれるメイドさんを見ながら朧気ながら確信する。
(あ、これ……夢じゃない……)と。
「で、でも良いのですか?このベッドはイシュリア様のものでは……!」
「貴女方をこの部屋に寝かせて良いと言ったのはイシュリア様ですから。聞けば御二方共に戦場で特殊な役割を担っていたご様子。幼いのに良く戦ったと尊敬致します」
その返礼なのか、もしくはイシュリア様の気まぐれなのか。よく分からないけれど、ふぁぁ……と欠伸をしてしまう。
「……すみません、もう一度眠りに……」
「はい、おやすみなさいませ」
そう言うともう一度目を閉じる。
緊張もあって直ぐに寝られそうではない、と思っていたが思っていた以上に疲れていたのか数分も経たないだろううちに眠りについてしまった。
「……ん!よく寝たー……ってあわわ、ここイシュリア様の私室なんだった……」
私はもう一度目を覚ます。光が丁度窓から入ってきており、昼時から少しすぎたぐらいなのだと感じる。が、それ以上に緊張してしまう。
とりあえずフォレスを起こそう。起き上がると目の前でスヤスヤと寝ているフォレスの身体を揺さぶる。
「フォレス!フォーレース!起きてっ!」
「……なぁに……?」
「なぁに、じゃないよ!ここ……!」
「……イシュリア様の……私室……あっ!?」
そう言うとフォレスもガバッと起きる。どうやらフォレスも一度起きたようだ。
しかしその反応を見るにお互い同じことを考えているに違いない。
何せこの部屋は恐らく一生入ることの出来ない部屋であり、多くの人達はおろか、お偉い様だって立ち入ることは出来ないだろう部屋。そんなところでグースカピーと寝ていた私たちはどうなるのだろう。
「御二方様。お目覚めのようですね、おはようございます」
「お、おはようございます……!」
「おはよう、ございます……!」
二人揃って抱き合いながら、カタカタと震えている。これからどんな事をされるのだろうと。
「そんな警戒しなくても大丈夫ですよ。私はイシュリア様のお付きの……そう、メイドさんですよ。貴女方はイシュリア様の命令でここに休ませるように、と申しつかりました」
「イ、イシュリア様が……?」
「……命令、で……?」
なんと怖い。これ程善意に溢れた恐怖があるだろうか。改めて凄いお人なのだとイシュリア様の事を再実感させられた。
「それはそうと既にお昼過ぎ。御二方は何も口にしておられません。宜しければご飯は如何でしょうか?」
そう言われると同時に、二人揃って腹の音が鳴る。
「……」
「……」
二人揃って無言の赤面である。確かにお腹が空いた。
「今お食事をお持ちしますね。御手数ですがベッドから起き上がって貰えると助かります」
ぺこりと一礼して外に出ていったメイドさんを見ると、二人揃って急いでベッドから出た。
「……ど、どこに座ればいいんだろう!?」
「あ、あわわ……どこだろう……」
結局二人してイシュリア様の椅子に座らせてもらい、ご飯を食べた。
絶品だった。
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