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異界の師、弟子の世界に転生する  作者: 猫狐
三章 破滅のタルタロス
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破滅のタルタロス

光が空から地まで降りる。光無き地は、光溢れる地に戻ったのだ。


「そういえばアグラタム……っておい!大丈夫か!?」


王の事を聞こうと思ったのだが既に身動きが取れないアグラタムが苦しげにしているのを見て慌てて近寄る。


「い、一応生きています……師よ……」

「……一応って、ギリギリかよ」


ツッコミを入れつつ、ほっとする。イシュリア王もやってくると、兵士に声をかける。


「貴方達、大丈夫かしら?」


そう言われて操られていた兵は次々に声を出す。


「……イシュリア、王……」

「自分は……」


どこか呆然とした兵を見て、これはもう大丈夫かと思って支援として飛ばした騎士を消す。それを見るとハッとした様子で頭を下げる。


「申し訳ありません!敵の罠にかかるなど……!」

「いいのよ……私は、ここまで一緒に戦い、生き残れた貴方達に感謝しているの」


皆がアグラタムの近くに寄ってくると、アグラタムはぐったりしたまま手を挙げる。


「う、動けません……」

「解放を使ったのだもの……。誰か、アグラタムを運べるかしら?」


その言葉に一人の兵士がおんぶの形になると、複数人でそこにアグラタムを引っ張りあげる。


「守護者とは思えないな、これは」

「なっ!……いえ、その通りです……」

「だが時間を稼いでくれたこと、感謝するよ。流石自分の弟子だ」


その褒め言葉にじわっと来てしまったのか、アグラタムは涙する。


「ありがとう、ございます……!」

「あらあら、それ秘密事項にしていたのに……」

「……」


黙って周りを見ると兵士の皆さんがそっぽを向いていた。聞いていません、見ていませんという意思表示だろう。

そこに一つの声が響く。


「ありがとう、善き人々よ」

「!」


慌てて臨戦態勢に入ると、そこには自分と同じか少し大きいぐらいの子供がテラスに立っていた。


「ああ、警戒しなくて良いよ。僕は新しいタルタロスの王。コキュートス王に生み出された王だよ」


「そうでしたか……しかし、善き人々とは私たちは言えません」


イシュリア王がぐっと下を向く。自分達が殺した人達の影を思い出しているのだろう。


「……これは戦争だったんだ。どちらかが勝ち、どちらかは負ける。そしてそれには犠牲はつきものなんだ。大事なのはこうして犠牲を弔ってくれる、その善き心なのだよ」


「……そう、ですか。ならば私は……私達は祈りましょう。影に満ちた世界で犠牲になった全ての人々へ……」


そう言って皆で両手を合わせ、目を瞑って下を向く。そう、願わくばその魂がまた人として産まれますように、と。


「……さて、これから僕はこの世界を統治していく。崩れた国を建て直すのは楽じゃない。死んだ人も戻ってこない。……けれど、王が……王妃が望んだ平和なタルタロスを、僕はもう一度作り上げる」


その言葉で皆が顔を上げる。頷くと、タルタロスの王は満足そうに頷く。


「僕はその名を継ごう。この世界の象徴、『タルタロス』。平和で、光に満ちた地にするために」


「……イシュリアから、支援は要りますか?」


「必要ないよ。けれど……」


「けれど?」


イシュリア王が聞き返すと、決意を固めた目でタルタロスは言った。


「もし、父さんと母さんがそっちの世界に転生したら……なんとしても、護ってあげてほしい」


その言葉に皆が頷く。


「イシュリア王の名にかけて誓いましょう。この世界を愛した王と王妃……コキュートスとティネモシリが転生した際には普通の幸せを約束すると」


「うん。そう、普通でいいんだ。笑って、泣いて……時に苦しんで。それでも乗り越えるのが父さんと母さんだから」


頷くと、アグラタムが門を開く。


「それでは我々は帰ります。……タルタロスが、今度は破滅に向かわないことを祈っています」


「破滅には向かわせない。犠牲になったこの世界の、他の世界の人々のためにも」


そう言って門を通り抜ける。門を閉めるために自分が最後に残ると、あぁ、と声をかけられる。


「何か?」


聞き返すと、タルタロスは少しふふっと笑う。


「君も見たところ……イシュリアへ転生したんだね?『パパ』と『ママ』が産まれたら……よろしく頼むよ。あの二人はああ見えてお転婆な王と王妃だったんだ」


「……君、もしかして」


「おおっと。それ以上は詮索無用。……僕はただ『一人』の王の子供、だからね」


その言葉に微笑むと、手を振る。


振り返された手を見ると、門に入って門を閉じた。


「さて、と」


新しい名を得た子供は荒れ果てた庭から玉座の間、そして街を見る。


「これから忙しくなるね。でも僕は諦めないよ。……あの人達が、希望を齎してくれたからね」


魔力を通すと街が再生されていく。倒れた建物が元に。光がある街へ。


生き残った人々に食べ物を、僅かに生きている人に治癒を。


濁りきっていた水はバッサリと浄化して。


そうして一通り整えてミヤコへ人を集めると、失った光のティネモシリの記憶を返す。


その上で宣言する。


「この世界は……タルタロスは一度『破滅』した!だからと言って憂う必要は無い!破滅したタルタロスは僕が……『タルタロス』の名を持って再生へと導くのだから!」


おおぉーっ!と、大歓声が上がる。

残った人は僅かなれど、残された希望は僅かではない。

さぁ、明日へと踏み出すときだ。

これにて『破滅のタルタロス』編終了となります!(なお物語や後日談的な感じでもう少し続きます)

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