入学式
入学式前日。式の前日とだけあって父も帰ってきて三人で食卓を囲んでいた。
「明日から学院か。また寂しくさせてしまうな、母さん」
「ううん。私は大丈夫よ……それよりもレテは不安だったりしない?明日からは寮で生活するのよ」
愛のこもった問いかけを聞きながら食べていたご飯を飲み込んで笑顔を作りながら言った。
「大丈夫だよ。寮生活でも隣には誰かいるはずだし、長い休みは帰って来れるんだから。永遠の別れじゃないから大丈夫!」
「はは、レテは何処か達観しているな……そうだな、また会えるんだから大丈夫か」
「ふふ、立派すぎてこの十四年間が早く感じたわ。こんなに早くも親の手を去ってしまうの?って」
自分の言葉に父も母も笑って返してくれる。それは前世の布団にいた頃とは全く違う送られ方だった。
「それにしても荷物はあれだけで良かったの?もっとお小遣いとか、ウチにある本を持っていっても良かったのよ?」
「うん。お小遣いは多すぎても使う機会ないと思うし、本は内容覚えちゃったから……」
そう答えると、まぁ!なんて驚きながらくすくす笑いながら母が口元を隠す。
荷物は昼の間に学院に届ける物を纏めて父に馬車を引いてもらって持っていった。中々の旅路だが疲れを見せないのは流石父と言ったところか。
「それじゃあ今日は皆で一緒に寝ましょうか」
「そうだな、レテ。明日から頑張れよ」
応援を貰いながらうん、と元気よく頷く。
「明日からいっぱい頑張るね!」
そしてご飯が終わると、父の少しだけ広いベッドに三人で転がって寝た。狭かったが、幸せだった。
翌日。列車に乗って学院に向かう。他の学院生もいるようで、様々な親が窓に向けて声をかけている。うちの親もその一組だ。
学院に着いて入学式が始まる。まずは校長からの言葉だった。
「前途有望……我が国を守る為、大事な何かを守りたい、力が欲しいと思う入学生達よ。そんな君たちを私たちは歓迎する。しかしここはまだ初めの門に過ぎない。ここでは君たちは赤子同然だと思ってもらって構わない。六年かけて、赤子を立派な子供へと成長し、送り出すのが使命であり、君たちが目指す目標である。日々を有意義に過ごし、君たちが大いなる正しい力を身につける事を望む。総学院長、ジェンスより」
そう締められると、今度は首席の言葉のようだ。武術学院からのようで、スラリと細い銀髪の女の子が歩いて壇上へ上がった。
「私達が立ったのは武術、魔術を問わない出発点。何時かはゴールがあるかと見えるかと言われると、それは違う。あの守護者アグラタム様、イシュリア王でさえ国のために日々力をつけている。ならば私たちにゴールなど無く、光の続く方へ走り続けるだけ。願わくば、両学院がいつまでも走り続けられるように。武術学院代表、ナイダ」
パチパチパチと様々な所から拍手が起きる。ここには全生徒が揃っているため、なかなかな人数だった。
次は自分の番だ。壇上に変わるように上ると、考えていたセリフを言う。
「両の学院にはお互いに努力し、高みへ上れるように祈る。そこには得意不得意、特異能力の有り無しは関係ない。力が欲しい人は皆何かしら努力をして上り詰めた。それを才能と一言で切って捨てるのは可能だが、上り詰めたいなら努力し続け、この国を取るまで諦めるな。守護者を、王を超える力を得る努力をし続けよう。魔術学院代表、レテ」
一瞬シーンとした後、パチパチパチと拍手が起きる。やはり名前を出したのがデカかったかと思いつつ降りる。
これで終わりか、一安心だ。そう思っていた。
「それでは今年の入学式に特別に来ていただいたアグラタム様からお言葉をいただく。」
(何しにきたアイツ!?)
プログラムに書かれていなかったモノに驚愕しつつ、アグラタムの言葉を待つ。
「私は確かに守護者である。君たちに目標とされるのも自覚はある。だがそこで止まってはいけない。私にも勝てず、技を授けてくださった師がいたように。両学院の首席の子の言葉のとおり、ゴールなどは存在しない。何故ならその師ですら成長し続けるのだから。私が成長するなら私ではなく、その先を。果てを目指しなさい。イシュリア皇国守護者、アグラタム」
一際大きな拍手が起きたり、感動のあまり席を立つもの、泣き出すもの。そして驚愕したもの。様々だった。
こうして少し予定外の事があった入学式は終わった。
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