vsコキュートス
「……そうか。ふふ、そういうことか……!」
不意にコキュートスが笑い出す。私は抜いた剣を構えながら睨む。
「何がおかしい?」
「……合点がいったよ。何故あんな子供が我が生み出した案内屋を足止めできる?どこでそんな技術を、魔力を、力を会得した?……くく、そういうことか。つまりあの子供は──」
そこまで言ったところでイシュリア王が熱線をコキュートスの横に飛ばす。
「悪いわね。これ以上はイシュリアでも機密事項なのよ」
「ははは!なるほど、そうであろう。下手をすれば国が崩れかけないからな。……さて。話はもうおしまいだな。ここからは純粋な戦いだ。勝者が相手の全てを奪い、負けた方が奪われる。実にシンプルな決戦だ。……ゆくぞ」
その言葉と同時に私はコキュートスの前まで加速し、光を剣に付与して素早く一閃した。
それをコキュートスはひらりと後ろに舞うと氷の柱を大量に生み出して私と後方に飛ばしてくる。
「各自結界を展開!そのままコキュートスを囲んで四方八方から叩きなさい!」
イシュリア王が号令を発すると即座に兵が動く。そのまま私は距離を詰めると、上から思い切り体重をかけて剣を振るう。
「ふむ。それでは埋まるのではないかな?」
囲まれながらも余裕で影の守りにて攻撃を通さないコキュートスはまた後ろに引き、地面に突き刺さった剣を見て私の上に氷塊を出現させる。
「ええ、埋まりますね。……ですが、それで十分です」
片手を上にあげて炎を放つと氷塊を溶かし、剣から魔法を発動させた。
「むっ!?」
発動させたのはただの目くらまし。しかし自分の方を向いていたコキュートスはそれに一瞬気を取られる。
その隙に私は剣を引き抜き、イシュリア王が側面に回り込む。そして光の砲台とも言えるモノを設置した。
「逝きなさい!」
その膨大な光にコキュートスは吹き飛ぶ。
はずであったのだが、コキュートスは無傷であった。
「……まさか早々に使わされるとは思わなかったよ。いやはや。護衛が強ければ王も強いということか」
「……空間侵食……!」
コキュートスの周りには周りが見えなくなる程の暗闇が広がっていた。それを見てイシュリア王は直ちに号令を発する。
「全兵あの暗闇から離れなさい!魔法にて牽制を!」
「「了解!」」
離れながら光魔法を打ち続ける兵。しかし、光魔法はその手前で打ち消されているように見える。
(もしも、この世界から全ての光を奪ったのがあの空間侵食なら……)
そう考えて私は叫ぶ。
「気をつけてください!恐らくあの空間侵食に光魔法は効きません!他の属性による攻撃を!」
「やれやれ、頭の回転も早いのだね」
そう言ってコキュートスは斬りかかってくる。それを正面から受けようとしたところで……。
「なっ!?」
周りが一切見えなくなった。光魔法も使えない、照らす手段も敵味方を判断する方法もない。
「さて。我が光喰いの餌食になってもらおう……」
そう言うと背後から激痛が走る。
「くっ……!」
光魔法が使えない以上、治癒も出来ない。即時回復できるような薬なんてあるわけも無い。このままではジリ貧だ。
「ふっ!」
その時イシュリア王が声を出して何処かへ行くのが分かった。だが何処に行くのかも分からない。何が目的なのかも。
「おや、そんな簡単な罠にはかからないよ。さて、他の兵もどこまで持つかな?」
周りからは悲鳴が聞こえる。何か、何か出来ないものか。
(空間侵食……それを潰せれば……)
ふと師の技を思い出す。それと同時にイシュリア王が上空で魔力の糸で兵士を持ち上げるのがわかった。
「アグラタム!貴方にはあるでしょう!」
「……ええ、ありますとも!」
コキュートスが何処にいるのかは分からない。しかし、この身を失っても勝利に繋げてみせる。
「……風流」
暴風が吹く。その暴風の一部分だけ動く場所を感知するとその方向へと刃を向ける。
「……雅」
僅かに、コキュートスの光喰いが破れた。光喰いと雅の言霊が拮抗し合っているのだ。
「舞うは桜の花吹雪ッ!」
光はない。ただ周りに桜が出現し、花弁を散らしている。
「ふっ!」
コキュートスも脅威だと感じたのだろう。まだ膨大な面積を維持している光喰いの中で魔力を感知した。結界を貼ったのだろう。
「一刀!千本桜ッ!」
そう言って手に持った剣にて暗闇の中へ桜の刃を飛ばす。
「一時凌ぎに過ぎません!今のうちに回復魔法を!」
そう叫ぶと、兵たちが飛び回りながら回復魔法をかけていく。しかし酷くやられたものだ。
「ふむ……。これはもう出し惜しみなどしていられないね?」
その言葉にゾワッとする。即座に同じ感覚を覚えたのかイシュリア王が命令する。
「スグに距離を取って!」
「……ふ」
上空に散開したはずの兵の一人に一瞬にして近づくと、その頭を掴む。
「なん……!」
「我が兵となってもらおう」
そう言った直後、兵が一瞬がくりと力を失ったかと思うと、こちらに魔法を放ってくる。
それを避けると、頭を掴まれた兵を見る。
その目は虚ろで、何を見ているのかわからなかった。
「さて。これで一対多数ではなくなったな?このまま攻めさせてもらおう」
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