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異界の師、弟子の世界に転生する  作者: 猫狐
三章 破滅のタルタロス
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タルタロス侵攻 2

光の昇らない中、ティネモシリの街を兵が進む。


「せいっ!」


影が無抵抗……いや、抵抗される間もなく剣で切り裂かれ、光に焼かれ、弓矢に射られる。

相手はようやく敵がこちらに来たのだと気づき、魔法を打って応戦してくる。形が不確定で不気味な剣を持った兵士も出てきた。


「応戦しろッ!そして討ち果たせ!」


部隊長による号令により、軍はティネモシリを混乱状態に陥れる。

そのティネモシリの中、一人の諜報員が路地裏を駆ける。

そして息も切らさず影の姿のまま、とある店の前に辿り着くと静かに扉を開ける。


「……コレハコレハ」


そして影を解除すると目的の人……影に話しかける。


「……約束通り。我らが王は決断なされた。『タルタロスを滅ぼす……』。その為にこうして混乱を起こしている」


表からは未だ剣が撃ち合う音。魔法が着弾して爆発する音。互いの兵が負けんと上げる声。……そして、討たれていく影の兵士の悲鳴。

それを聞いてなお、目の前の影はゆっくりと頷くとお礼を言ってくる。


「ソノユウキニケイイヲ。ワタシハイマミヤコマデ、レンラクヲオコナウ。……アリガトウ。モウダイジョウブ。サイゴニ、コノウツシミニモ……ヒカリヲ、ミセテオクレ」


来たのは今まで協力してくれた案内屋の影の店。

待ったのは一瞬だった。言葉の最中に目を瞑って開いて。それだけだった。

そして両手を開くと、静かに何かを待っているかに見えた。


「……いいのだな。未練は、ないのか?」

「ミヤコノホンタイガ、ソウハンダンシタノダカラ。ワタシニミレンハナイ。コノセカイニハ、モウ……」

「一つだけ聞かせてほしい。貴方の知っている王妃ティネモシリ……。その好物はなんだった?」


不思議そうにその質問を聞いていた。首を傾げながら答えてくれる。


「……ティラミス、ッテイウ、オカシカナ。ホロニガクテ、ケレドアマイ。ソノオカシヲ、タミカラウケトッテハウレシソウニシテイタトキオクニアルヨ」


その答えに頷くと、私は静かに答えた。


「……ティラミス。帰った暁には弔いの菓子はティラミスにすると提言する。貴方の、正にこの世界を想った命懸けの行為とこの世界を愛し、去ってしまった王妃の為に」

「……ソウカ。トムラッテクレルノカ。……アリガトウ。アァ、ホントウニ……ミレンハナイ。サァ。ヒカリヲミセテオクレ」


ふっと柔和に微笑んだように見えた。影の分身である案内屋が、初めて心から微笑みを見せたように感じた。

言われるままに光の弾を生み出すと、静かに案内屋にぶつけた。

光が店内いっぱいに満ちた後。案内屋の影は、その姿を消していた。

その感傷に耽る間もなく、店を飛び出して急いで連絡役の少女の元へと戻って行った。


「ティネモシリ側から連絡。案内屋の影、消失。ティネモシリは完全な混乱状態に陥った模様」


ミヤコに連絡が来ると、その瞬間に何者かの声が轟く。


『親愛なるタルタロスの民よ……!何者かが我が世界を脅かしに来た!最前線、ティネモシリが……あろう事か!王妃の街を蹂躙している!しかしこの機会は我々にとっても僥倖と捉えるべき!我が魔法にて道を作ろう!敵を討ち、タルタロスに光を!』


そう言葉が伝わった瞬間に広域感知の魔術師から連絡が来る。


「ミヤコ入口付近に膨大な魔力を検知。恐らく門と同じような魔法を展開したものと予想。また、影にも動きあり。その門に我先にと向かっている模様」


よし、と静かに部隊の皆が頷く。とりあえず第一のティネモシリを囮にした作戦は成功だ。


「少女よ。連絡を頼んだ」

「任された」

そう言うとまた『私』は人格を入れ替えた。



「ミヤコから連絡。王の声明により門と同じ要領のような魔法が展開。兵がティネモシリに向かってくる模様」

「作戦第一陣は無事成功だ!敵をもっと引き付けよ!」


部隊長が周りに待機している兵士に声をかける。私は周りで戦いにいく兵士達を見て、ふと皆が駆けるような感覚に襲われる。


(……ダメ。私は動いちゃダメ……!)


ファレスとして元に戻った私は思う。けれど走り出したい。それを察したのか、部隊長が私の頭をゆっくりと撫でる。


「見るとわかる。小さき兵士よ。戦いたいのだろう。戦線に加わりたいのだろう。……だが、そなたは十分に戦っているのだ。連絡役というのは戦場において『特別な戦い』を強いられる」

「……特別な、戦い」


その言葉をオウムのように繰り返すと、部隊長が頷く。


「連絡役は守られている。何故かわかるか?……それは正確に味方に情報を伝えられる者が居るといないとでは『戦況そのものが変わる』からだ。特にこういった長距離を挟む作戦となるとそれは顕著だ。相手がどう動いたか?どんな状況にいるか?……それを正確に伝える事が出来れば味方は攻められる。引くことが出来る。的確な判断が、味方に出来る。そう。味方の士気、考えを握っていると言っても過言ではない。故に君達の魔力を感知されない特別な方法は貴重だ。敵に魔力を検知させず情報を相互に伝え、二つの戦場を同時に動かすのだから。だから君達は戦っているのだよ」

(そっか……皆のために……)


そう考えるとより一層気合いが入る。


「私、頑張ります。もっと。情報を伝えるために」

「そうだ。君たちは情報戦という、最も大事な戦を……二人で戦い抜いているのだ。誇っていい」

いつも読んでくださりありがとうございます!

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