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異界の師、弟子の世界に転生する  作者: 猫狐
三章 破滅のタルタロス
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背負いすぎたもの

「よし、俺は鍛錬に行ってくるわ」

「僕はやり過ぎないように監視しについて行くよ〜」


ショウが気合十分と言った顔で言って部屋を出るとダイナがそれに笑顔でついて行く。


(……結局、ダイナの特異能力って何だ?)


それを聞くことは出来ず、代わりに手を振る。


「……では俺は本を読もう。まだ何か俺達に出来る事があるかもしれない。撹乱となれば、殺す必要はないからな」


レンターのその言葉に同調するようにミトロとニアが頷く。


「そうですね。殺害ではなく荒らすだけならやりようはあると思います」

「それ、私も読む!殲滅者だって万能なわけじゃないからね」


ニアの言葉にクロウがえっ?と突飛な声を上げてから反応する。


「……ニア」

「なに?クロウ」

「殲滅者……万能か……?」

「尖ってるね!」


あはは!と大声で笑う彼女にクロウはガックシとするとヤレヤレといったように立ち上がってこちらを見る。


「……ニアについて行くよ。なんか怖い」

「クロウ酷くない?」


ぷくっと頬を膨らませる彼女を無視してレンターとミトロが出ていく。それを二人が慌てて追いかけて行った。


「私達は特異能力の練習だね!」

「……作戦の要。距離を出来るだけとってやろう」


ファレスとフォレスが静かに気合を入れて出ていく。頼むから寮からは出ないでくれ、と思いながら。



その日の夜。食堂に集まった皆を見ながら大丈夫だと確信する。


(皆無茶はしてないな。元気もあるし……後は……侵攻の時間か)


軍議では侵攻開始は夜明け前としていた。恐らく四時辺りだろう。その時間に皆起きられるのか少し心配になるが、いざとなったら門を開いて叩き起こしに行く予定だ。男子部屋だろうが女子部屋だろうが今は知ったことではない。……今だけは。


「んー!美味いな……鍛錬の後のメシは美味い……」

「本当に美味しそうに食うな、お前。いや美味いけどさ」


ショウがやけにガッツリ食べている。寝過ごし確定が一人かと若干思いながらカツを一口分口の中に入れる。


(……前日にカツか。験担ぎにもなっていいな)


そう思いながら自分も黙々と食べていた。が、途中で思い出して聞く。


「……ファレス、フォレス。大丈夫そうか?」


重要な部分は省いたが伝わっただろう。二人ともフォークを置くと同時に頷く。


「バッチリだね!」

「……一回も暴走しなかった」

「そうか。なら安心した」


二人はこの中でも自分以上に重要な役割を担っている。だが二人が大丈夫だと言うなら大丈夫なのだろう。安心しながらふっと心が緩んだ。


(……あれ)


瞼が少し重い。意識していなければ開けていられないような。


「……レテ?大丈夫か?」


レンターが心配してくれる。慌てて手で瞼を擦るがそれは取れない。


(……眠、い……)


抗いようのない眠気。魔法を使うわけでもなく、使われた訳でもない。純粋で強烈な眠気が襲ってくる。


「大丈夫ですか?」

「おいおい、上半身がフラフラしてんぞ?」


皆がナイフとフォークを置いて心配してくる。だが眠気は取れない。


(……このままだと、迷惑を……)


そう思ってフラリと立ち上がると、風と足が覚えている道筋で自室へと戻る。



その様子を私は見ていた。彼が珍しく残したままのご飯を見ながら。


「お、おい!……レテ、食べ終わってないのにどうしたんだ」

「もしかしたら昼間のあの魔力……打ち消すのにかなり使った?」


そうかもしれない。元々イシュリア王が声だけで洗脳のようなものを仕掛け、それを強引に解除した。そのようなことを言っていた。相手が王ならばその分魔力をゴッソリ取られていても不思議ではない。


「私、先に帰ってる!ごめん!」

「ううん!レテ君の事頼んだよ!」

「……レテ君がいないと、明日が不安だから」


立ち上がって追いかけると後ろからファレスとフォレスが声をかけてくれる。食堂の人が不思議そうに彼と私を見ながらカツを食べていた。

部屋に戻ると、彼は電気もつけず、床に力尽きたように倒れていた。


「レテ君ッ!?」

慌てて駆け寄って彼を確認する。すると彼はただ意識を失っただけだということが分かった。スヤスヤと寝息を立てている。


(……そっか。疲れたんだ。無意識に何処かで自分が引っ張らないとって思っていたのかな。彼はそういう人だから)


しかしこのまま床に寝せておく訳にもいかない。仕方が無いのでお姫様抱っこの形で彼を持ち上げる。


(……軽い。そうだよね。私たちより一つ下の子なんだから)


なのに背負った物は大きかった。いざとなれば彼がどうにかするつもりだったのだろう。協力者がいなくとも。


「……大丈夫、私達は君について行く」


そう呟いて下のベッドにそっと置くと、毛布をかける。お香の魔道具に魔力を込めようとすると、彼が私の手をぎゅっと握ってきた。


「……?」

「すぅ……すぅ……」


無意識の行動なのだろう。でもわかる。

孤児院でもあった。小さい子が疲れすぎて、でも寂しくて。寝ている時に誰か傍にいて欲しい時。そんな時無意識に掴むのだ。


「……背負わせすぎてごめんね」


それが少しでも軽くなるのなら。そう思って部屋の鍵がきっちり掛かっている事を確認すると、彼に抱き合うようにベッドに入る。


(……死なない保証はないけれど。君に辛い思いを既にさせているけれど。それでも……)


私達は生きて帰る。そう願って彼を包み込むようにベッドに転がった。

いつも読んでくださりありがとうございます!

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