不退転の覚悟
翌日。自分はどうにも朝を食べる気にはなれなかった。お腹が空いていないわけではない。後悔が胸を占めていてそれどころでは無いと言った感じだ。
それを察したのか、シアが言う。
「朝ご飯、ここまで持ってくるよ。夜言ったみたいに私が説明するからさ。……ご飯でも食べながらゆっくり皆の言葉を聞いて欲しいな」
そう言って部屋の外に出ていった。自分はベッドの枕に顔を突っ伏して、ただ思った。
(何が転生前だ、青年だ。そんなの、何の役にも立たないじゃないか……)
暫くすると、帰ってきたのかガチャりと扉が開いて複数の足音が聞こえてくる。自分は依然として突っ伏したままだ。
「……ご飯、置いておくね。防音結界だけ貼れるかな?」
シアが優しげな声で語りかけると、その体勢のまま防音結界を展開する。それを確認したのか、シアがゆっくりと話し出す。
「皆、私は昨日聞いたから私から説明する。……レテ君は今凄く後悔してるからね。きっと嘘ついちゃう」
(……そうだな、嘘、つくかもしれないな)
そう思いつつ、皆が座る音を聞きながらそっと顔を横に向ける。
「……昨日、レテ君はイシュリア王の所で決定的な事を聞いた。
それは『異界タルタロスの殲滅』。……でもその作戦にはファレスとフォレス、それに皆がラクザでやったような戦闘が必要になる。それを聞いても話してくれたよ。命を落とさせたくない、だから私達は待っていて欲しいって。いざとなったら私達は待機って嘘もつく予定だったんだろうね」
そこで一区切り付けると、まずはファレスとフォレスが声を出す。
「私達が名指しって事はさ、もしかして……」
「……特異能力で、何かしようとしてる?」
それに黙って布団から頷くと、二人は嫌な顔をしなかった。次にクロウが声を出した。
「……命、落とすかもしれないんだな?」
それに関しては自分から説明するしかない。起き上がると、人差し指と中指を立てて説明する。
「……一つ、まずは普通に戦闘して命を落とす場合だ。これが一番確率としては高い。
二つ目。クロウやレンター……ファレスとフォレス。それに他の皆が異界から逃げ遅れた場合だ。間違いなく、生贄にされる」
そう説明する。頼む、断ってくれと祈りながら。
「なぁ、レテよ。俺たちそんなに頼りないか?」
不意にショウが発する。少し怒ったような、そんな声で。
「確かによ。レテ、お前は強いよ。あぁ、強い。ラクザの時も、模擬戦の時も、特異能力もお前は飛び抜けているよ。間違いないさ。その点では俺らは確かに頼りなく見えるだろうよ。
……けどよ?俺らは一人じゃない。レンター、ダイナ。それにニアの殲滅者も使えば固まってそれなりには戦える。それを証明したのはラクザに連れていってくれたお前のお陰じゃねえか。
……頼りないか?味方と団体行動でしか動けない俺らが」
「そんな訳ないだろうッ!?」
叫ぶ。防音結界が無ければ上から苦情が来そうな声で。
「味方で連携を取るから軍は強い!一騎当千なんてもんは、アグラタム様のような人だけだ!」
「なら同じじゃねえかよ!お前の手解きを受けた俺らはよ!」
「……っ!」
ショウの言葉に連なるように、黙った瞬間レンターが声を出す。
「……確かに、俺らは不甲斐ないかもしれない。だが皆が皆、無力という訳では無い。個々の力を合わせれば……まぁ、軍人一人ぐらいの活躍ぐらいはできるだろう。ニアの殲滅者に俺の光の付与をすれば、な」
「それにさ〜色んな系統の使い手がいればそれだけ戦略の幅が広がるしさ。……いざとなったら僕も暴走覚悟で特異能力を使うけど、異界だし大丈夫だよ」
(……異界だと、大丈夫?いやそれよりも!)
ダイナの特異能力は後で聞くとして、もう一度問いかける。
「……命を、落とすかもしれないんだぞ。怖くないのか!」
「怖いに決まってるじゃん」
シアが即答する。ならば……と言おうとした所でシアが続ける。
「怖いけど、皆に質問するよ。レテ君は私達が行こうが残ろうが、タルタロスの殲滅に向かう。友達が行ってる中、ただ指を咥えて待ってるのと、協力して……たとえ怪我をしようと、生還すれば勝ちの戦で勝率を上げるの。どっちがいい?」
(それは自分が前に話した意識の同調……ッ!?)
自分の得た知恵を使われてしまった。そして、それに真っ先に答えたのはクロウだった。
「俺は特異能力もない。ただのSクラスメイトだ。……でもな、レテ。お前のその悲しそうな顔を見ていて黙って、はいそうですか……なんて言う友人にはなりたくない。俺は行く」
そこで口を開かなかったミトロが初めて口を開く。
「今の話を聞く限り、本当に危険な場所なのでしょう。ですが……それはラクザの時とて同じこと。私達は命を軽く見るつもりはありません。あの時からそれは強くなりました。だから誓いましょう。皆、必ず戻ると」
「はは〜。皆必ず戻るって……。まあ、そのつもりだけどね。僕も行くよ?行かなくてレテ君だけ戻ってこなかったらきっと……絶対。一生後悔するからね。そんな後悔を抱えた生活は僕はゴメンだよ」
ダイナも続く。涙が出そうになる中、最後を押したのは双子だった。
「作戦に私達の力が必要なんだね。イシュリア皇国のために」
「……なら、私達は協力する。イシュリア皇国の為に。でも……それ以上に、イシュリアを想い、私達を想ってくれたレテ君のために」
皆の覚悟は決まったのか。ここで決まってしまったのか。微かな嗚咽と涙が出る中シアが言う。
「皆覚悟は出来てる。……さぁ、最後に一言言うだけだよ。レテ君。問いかけて」
そう言われる中、ぐちゃぐちゃになったであろう顔を上げて、口を開いて問いかける。
「……命を失うと、知っても尚、イシュリアのために……自分のためについてきてくれるか?」
「応よ!」
「当然だね〜」
「……それ以外の選択肢はない」
「行くしかないよね?」
「……うん。行くしかない」
「私たちに出来る事をするだけです」
「……皆こう言ってる。行くよ。君を独りにさせないために」
その言葉に止めていた涙が溢れ出した。断って欲しいと、留まって欲しいと願っていたはずなのに。
何故こうも皆、力強く自分を鼓舞してくれるのか。
自分を、強く立たせてくれるのか。
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