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異界の師、弟子の世界に転生する  作者: 猫狐
三章 破滅のタルタロス
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信じる人の道

少しばかり無言の時間が漂う。私室の空気が重くなってきた中、自分が口を開く。


「……それでは一旦帰ります。夜も遅いので」

「……そうね。いい子は寝る時間よね。協力してくれてありがとう。……そして、ごめんね。また頼んで。貴方の協力者に戦力……タルタロスで戦う兵になってくれないか聞いてみてくれないかしら?」


今にも涙が出そうなのではないかというぐらい悲しそうな声でイシュリア王が声を発する。こくり、と頷くと門を開く。その間際にアグラタムがボソリと言う。


「……イシュリア王、良いのですか」

「今までは正規兵でも対応出来た。けれど異界を滅ぼすなんて体験はイシュリア皇国の誰もが経験したことない。……今は、もう戦力と捉えるしかないの。王として」


戦場では女子供を真っ先に逃がせ、という言葉もある。だが今回は所謂総力戦だ。


(……子供でも戦えれば戦うしかない、か。やはり協力者にするべきではなかった……!)


確実な後悔が自分を遅いながら、門を通って部屋に帰った。



部屋に帰ると、電気が付いていた。確かにまだ消灯時間ではないが……シアは寝ていたはずだと思っていた。


「レーテー君?今度はどこ行ってたの?」

「どぅわ!?」


上からひょっこりとお化けのように顔を出したシアに驚くと、そのままシアが言う。


「寝ようかなって思って電気消すよ?って言ったのに反応無いから下見たらいつの間にか居ないんだもの。……って、何でそんな悲しそうな顔してるの?ちょっと待ってて」


そう言うと顔を引っ込めると軽やかに飛び降りて、リラックス効果のある魔道具に魔力を通すと自分の横に座る。


「なんかすっごい辛そうな顔してるよ。例えるなら……うん。前にラクザで嫌な夢を見たって時と同じ」

「……ッ!」


くっ、と口に力が入る。その様子をじっと見た後、シアが不意に自分の頭を引っ張る。


「ちょ、ちょ!?」

「まぁまぁ、とりあえず無抵抗でお願い!」


いきなりの事だったので最初は抵抗しつつも、最終的に自分が無抵抗になった。すると、頭がシアの膝にポスリと収まる。


「……」

「どうして?って顔してるね。孤児院に居た時はね。悲しくなったり寂しくなった子は良く、孤児院の先生に膝枕してもらったんだよ。それで、話を聞いてもらうの。……だから、私に話せることなら言って?そんな悲しそうな顔をして、何があったの?」


シアの膝は柔らかい。しかしそれ以上にその笑みが温かく、不器用でも自分の心配をしてくれて。


「……うっ……」


思わず泣いてしまう。涙が出る。自分はこの子を、自分の将来を約束した相手を死地に送り込むのか。

送り込みたくない。そう、話さなければ良いだけだ。皆はイシュリアで待機してもらって、イシュリア王にはやはり子供を送り込むのは危険性が高すぎると進言すればいいだけ。なのに……。


「その顔はきっと私達の事を想っている顔。抱え込まないで欲しいな。もう、タルタロスの問題は君だけの問題じゃないから」

「ーーッ!シアは、優しすぎる……」

「私だけじゃないよ。きっと、どんな事があってもクラスの皆は懸命に頑張って……君の協力者となった時点で『戦う』事も覚悟してたんじゃないかな。ラクザの時みたいに」

「ぁ……あぁ……」


全てお見通しなのか、と思うような段階で言葉が投げかけられる。防音結界を展開。部屋から声が漏れないようにする。


「……イシュリア様の私室で、今日の報告をしてきた」

「うん」

「イシュリア皇国の方針は『タルタロスの殲滅』。その為の作戦に……連絡係としてファレスとフォレス。その他の皆……シアも含めて、影の撹乱をしてもらう事になる。けれどそれは他の方法だって探せばある。今回は帰って来れるかすら分からない戦いなんだ。だからーー」

「私達はイシュリアで待っていて、って事?……レテ君は行くのに?」


少し悲しそうな声が降りかかる。そうだ、自分は行くしかない。イシュリア皇国の戦力として。


「……自分の正体が分かっているシアなら分かるはずだ。自分は出なければならない。イシュリア皇国の為に」

「分かりたくない。レテ君がいくら強くて、アグラタム様の師匠でも私たちと同じ同年代……ううん。年下の……未来を約束した人だけを戦場に送り出して私は待っているだけなんて、出来ない」


その言葉を聞いて、起き上がってシアの身体を抱きしめる。懇願するように、防音結界が張ってあるのをいい事に大声で言う。


「分かってくれ!自分は皆を死なせたくないんだ!ラクザの時だって!今回だって!皆を守るために鍛えた!でも命を落とさない保証なんでどこにもないんだッ!」


それに対してシアも反論してくる。


「それを言うなら私だってレテ君に一人で行って欲しくない!私一人の能力で作戦の成功率が上がるならそれで構わない!私はついていく!他の皆が何と言おうと、私は私が信じた人についていくのっ!」


シアも両手で自分を抱きしめながら大声で訴える。

少しの静寂の後、シアがそのまま語りかける。


「……明日。皆を呼んでくる。私が呼ぶ。レテ君は待っていて。私が説明するから。それで皆がどう思うかを、見ていて。それが皆の考えだから」

「……分かった」


そう言うとシアはそのまま両手を離すと電気を消し、下のベッドにやってくる。


「一緒に寝よう?……私が居た方が気が紛れるでしょ?」


そう言われて横になるシアに釣られて横になると、少しばかり自分も落ち着いてくる。


「……うん。お香も入れてくれてありがとう。シア」

「大丈夫だよ。……ありがとう、私たちの事を考えてくれて。でも、聞いてしまった以上これは私達の問題でもあるの。レテ君だけの問題じゃない……それだけは分かって」


そう言って自分を優しく抱きしめてくれる。きっとこれも孤児院の時にしてくれたのだろう。

それに今日は甘えるように、自分も抱き締め返して意識を落とした。

いつも読んでくださりありがとうございます!

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