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異界の師、弟子の世界に転生する  作者: 猫狐
三章 破滅のタルタロス
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対抗策の手掛かり その4

「執事長さんってどこにいるんだ?」


迷いなく屋敷の中を進むファレスに聞くと、フォレスから代わりに返事が来る。


「……わからない」

「えっ」

「でも大抵新人の指揮や育成してる事が多いから、そのための部屋に今向かってる!いなかったら……うん!わからない!」

「えっえー……」


この巨大な屋敷の中から執事長一人を見つけるのは困難だ。きっと従者さんに聞いても分からないから二人は進んでいるのだろうと思いつつその後を追った。

とある部屋の前。そこからは優しい声が聞こえてきた。


「ほっほ。皆様今日も良い感じです。では来客用の礼をもう一度……」


老齢だが力強さを感じる。そんな声だ。おそらくこの人が執事長だろう。


「うん、いたいた!」

「……というわけで、レテ君ちょっと下がってて」

「え?あ、ああ。うん」


何故下がっているように言われたか分からないけれど廊下の影になるように下がると、二人はコンコン、と息の合ったノックをする。


「……おや?これは……皆様。扉を開けたら最上級の礼の実践ですよ。良いですね?」

「「かしこまりました」」


なるほど、二人は双子ということを利用して同時にノックをする事で自分達だと分かるようにしているのだな、と思いつつ音を聞く。


「では……。お待たせ致しました。お帰りなさいませ、ファレスお嬢様、フォレスお嬢様」


ガチャりと扉を開くと同時に声が聞こえる。そして多数の服が少しだけ擦れる音。礼をしたのだろう。


「ただいま帰りました。皆様、ありがとうございます」

「……見事な礼でした。歓迎、誠にありがとうございます」


そう言ってまた服の擦れる音。今度は二人が礼をしたのだろう。さすがはお嬢様。いつもとは違い、礼儀正しい。


(……いや、フォレスはともかくファレスが礼儀正しいって何か失礼だな。うん。お嬢様なんだから当然だ)


うんうん、と頷きつつ中から声が聞こえる。


「訓練中の従者に付き合っていただきありがとうございます、お嬢様。……それで、私に用件でしょうか?」

「はい。ですがその前に私たちの大切な友を紹介させてください。……レテ君。こちらに」


呼ばれたので影から出ると、扉の前に立ち、見様見真似の礼をする。


「お呼ばれされました、レテと申します。よろしくお願いします」

「「ようこそいらっしゃいました」」


礼には礼を、と返される。執事長さんはどこか感動している様子だが……。


(……そういえば、フレッドさんから聞いたな。二人は特異能力の件で色々あったんだっけ。多分大切な友っていうのはそれを伝えられるほど、大事な人を見つけられたって意味なんだろうな)

「ようこそいらっしゃいました、レテ殿。お嬢様の大切なご友人とあっては最早我がラクザ家の家族も同義でございます」

(え!?そんなに!?)


チラッと礼を終えて二人を見ると、笑顔でウンウン、と頷かれた。来賓超えて家族。そんな立場になってしまった。


「して、家族揃って私に何か御用ですかな?」

「……地下の蔵書室に行くための鍵を借りたい。だ、大丈夫。今回はレテ君もいるし、お父様からの許可もとってある。お父様に確認してもいい」

「なるほど。蔵書室の鍵ですね」


そう言うと胸のどこからか鍵を取り出して、フォレスの身長まで屈んで渡す。


「……ありがとう。蔵書室までは私が案内するから」

「わかりました。……皆の者、この方々を礼で送りましょう」


そう言うと一斉に礼をされる。こちらも軽く礼で返すと部屋の扉をそっと閉じる。


「……フォレス、やっぱり」

「は、早く行こう……?今は時間が惜しいから……!」

(……無許可で入り浸ってたんだな……)


珍しく慌てる彼女を見ながら先行する彼女を追いかけた。



「この屋敷にはね、普通に皆が見られる本の部屋と特別に設置された蔵書室があるんだ。蔵書室はそれこそ……あ、見てもらった方が早いかも」

(……普通の本の部屋に案内しないのは、時間が無いのと関係しているのか)


何やら普通に見える一角に辿り着くと、フォレスが鍵を差して回す。

カチリ、と音がして錠が外れた。そのまま中に入る。

そしてフォレスが光であろうスイッチを押すと、その全容が見えた。


「……なるほど」


本棚と、その奥には机と多数の椅子。これは閲覧用というよりも作戦会議をするための場所だ。つまりは……。


「戦術……攻めたり攻められたりした時の参考資料があるのか」

「……そういう事。私はファレスを助けるために普通の本よりも、実戦向けのこっちに通ってた。でも内容は難しい」


それは当然だろう。子供が兵法の本を読んでも理解など到底できないだろう。予備知識がないから。だが今は嘆いている暇はない。


「……探すか!」

「うん!」

「……とりあえず一冊ずつ持って奥の机に行こう」


そう言うと二人とは別の方に行く。

そこにはいつの時代に書かれたのかも分からない本や、所謂古典翻訳といった難しい基礎の本。とにかく難しいものが並んでいた。

そんな中、一つだけ気になる本があった。


「……戦場における、大多数の意識の同調?この中なら割と新しめな本だけれど……いや、待て。もしかしたら……」


洗脳の類かもしれない。ならば影をこれで意識を同調させれば敵が減るかもしれない。

そんな淡い期待を持って本を手に取ろうとして……。


「……届かん」


岩の騎士を顕現させてその手に乗せてもらうと本を取ると、今度こそ希望を持ちながら机へと向かった。

いつも読んでくださりありがとうございます!

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