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異界の師、弟子の世界に転生する  作者: 猫狐
三章 破滅のタルタロス
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クラスメイトなりの考え

そんな事があっての夜。ご飯を食べ、各自風呂を入り終わってから自分とシアの部屋に集まっていた。


「それで?話っていうのは……おっと、ちょっと待つよ」

「そうだね。ありがとうクロウ」


タルタロスの名前を出す前に防音結界を展開しておかねば何が起こるか分からない。防音結界を張って、無言でクロウに頷くとクロウは続ける。


「……タルタロス関連で、何かあったんだな?昨日体調不良って言って何かしていた時に」


自分は体調不良として自分を早めに休ませて欲しい、としか言っていない。だから皆協力はしてくれたがタルタロス関連であっても何をしに行ったかは同室のシアしか知らないだろう。


「そうだ。まずは何をしていたかを話そう。自分はアグラタム……様から連絡を受けて、イシュリア城でタルタロスについての報告会がある事を知った」


そう言ってブレスレットを見せる。その様子にファレスがツッコミを入れる。


「ちょ、ちょっと待って!?ってことは昨日城に行ってきたって事!?こんな距離があるのに……?」


そう言って手を伸ばす彼女にフォレスが答えを出す。


「……ラクザに行った時と同じ門。それを使った?」


それに頷くと自分は続けて話し出す。


「そうだ。そして、幾らフードの姿があるといえど国家機密に触れる事は王としては許されることではない。……だから自分は数時間前から姿を隠して情報を得てきた」

「あー、なんだ。もうお前が規格外なのはよく分かった。現役の軍相手に姿を隠して情報を得るなんて全くもって凄いとしか言いようがないわ……。それで、情報っていうのは?」


ショウが諦めたように言いながら問いかけてくる。確かに幾ら天才と周りから評されていてもここまで来ると化け物の域だろう。それはそうと、これが肝心なのだ。


「ああ。それが今日呼んだ理由だ。……タルタロスの軍が、この世界、イシュリアに対して総攻撃を仕掛けるつもりらしい。恐らくは七月初め……それよりも前。つまり今月中に来ることもあるって事だ」

「ちょ、ちょっと待って!?」


ニアが声を出す。ん?と振り向くと慌てたように言う。


「それって、今月中にタルタロスって異界を滅ぼすか、それに見合うぐらいの効果を与えなきゃいけないわけ!?時間、もう無いよ!?」


その慌てはよく分かる。タルタロスを生かすことを薄く考えていた彼らには寝耳に水、情報が足りない上に情報を届ける手段がない。だが。


「……その通りだ。そして、ここからがもっと重要な事だ。イシュリア軍は、タルタロスを滅ぼす術を見つけていない。生かす術も見つけていない。つまり、このまま攻められたら迎撃するしかない。けど、それだとイシュリアは少なくない被害が出る。……その前に、どうにか情報を集めるしかない。形振り構っていられない。滅ぼすか生かすか。どちらにしても情報が無いんだ」


その言葉に皆が黙り込む。暫くしてから、シアが声を出す。


「……それって、レテ君やアグラタム様、イシュリア王の力を持ってしても滅ぼせる確証はない……って事?」

「その通りだ。元々イシュリア王は異界の侵攻に対してアグラタム様という守護者をぶつけて撃退していた。だから軽い防衛ならともかく、異界一つに乗り込んでその異界を消滅させる方法なんてものがないんだ。いや、そうさせるだけの力があっても実践したことが無い……って言った方がいいかな」


それを聞いて再び皆考え出す。どうしたらいいのか、自分にも分からない。

そんな時、クロウが声を出した。


「……なぁ、レテ。今週末にラクザに行く……門?ってやつを開けるか?」

「ん?あぁ、大丈夫だ。出来るけど……」


それを聞くと、クロウはファレスとフォレス、それに皆を見ながら言う。


「もう時間が無いこと、そして手段も不明なことがわかった。だからラクザに行って、商人の店に行こうと思う。ファレスとフォレスは済まないけれど、お父さん……レインさんと連絡を取って自分達では探れないところをさぐって欲しい」

「そういう事ね!分かった!」

「……確かに、権力の使い所」


二人が納得すると、他の子は商人の店や図書館などで情報を集めるらしい。御伽噺などの中には突拍子もない事が大概起こるが、その突拍子も無いことがヒントになるのでは、というのがミトロの案だ。


「……決まりだな。そうしたら今週末、自分の部屋に来てくれ。門を開いてラクザまで送る。……今日はこの辺にしておこう」


そう言って防音結界を解除すると、自分も含めて立ち上がる。


「……それでは週末、頼む」


レンターが頭を下げてくるとあぁ、と答える。

そして皆が部屋を去った後。シアが聞いてくる。


「その寝間着、返しに行くの?」

「あぁ、今夜返しに行くって約束したんだ。ちょっと行ってくるよ」

「遅くならないでねー?」


母親か、はたまた奥さんか。そんな事を思いながら昨日借りた寝間着を持って門を開いた。



「……そうですか。ラクザへと情報収集に。では他の部隊には攻められたラクザは重点的に探っているだろうということで他の所へ行くように命令しておきます」


イシュリア様の私室にて服を返しながら先程の話をした。納得してくれたが、どこか悔しそうに見える。

そしてそれは自分にも分かる。


「……幼子にすら頼らなければいけないこの状況を作り出したことが情けない、ですか?」

「……ええ。王たるもの、そして統括者たるもの、こうした事態を予測していない訳ではなかったわ。けれど異界一つを消すとなると……私の甘さが出たわね。アグラタムを使って、先送りにして」


全身に力が入って今にでも爪がめり込みそうな手をそっと自分の両手で包む。


「王は民のため。民は国のため。……民を頼ってください。自分も努力します。だから、自身だけを責めないでください」

「……ふふ、やっぱりアグラタムの師匠様ね。貴方はいつも愛に溢れて……愛……」


そう言うと少し考えて言ってくる。


「ねぇ、確かタルタロス王の行動原理は……」


そこまで言われて気づく。


「……王妃ティネモシリへの、愛。何かに使えるかもしれませんね」

いつも読んでくださりありがとうございます!

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