いちゃもん
「おい、お前」
ぼーっとしていると何やらこちらに声をかけてくる男の子がいる。しかし面識が無い上にいきなりお前呼ばわりするやつに対応する義務も義理もない。そのままぼーっとし続ける。
「聞いてんのか!風魔法って嘘ついて特異能力使ったクソが!」
尚更自分のことでは無いな。これはスルー安定である。ああ、試験場では残りの受験生が魔法を打っている。……おお、その岩の弾は中々いい筋しているぞ。
「無視すんな!このっ!」
横から魔力の気配がしたので、仕方なく左手で指パッチンをする。そこから発生した風を収縮系統で一つに纏めてぶつける。
「ンギャッ」
それで廊下まで吹っ飛ばされた彼だが、元々ここには結界が張ってあるためダメージは喰らっていない。柔らかいクッションに当たった感じだろうか。それでも勢いがつけば痛いのだが。
「て、てめ……!」
ついにキレかけている。さて、どう対処しようかコレ。と面倒臭い人を処理する方法を考えていると立ち上がった男の子の横から声が掛かる。
「変な言いがかりをつけるのやめた方がいいよっ!レテ君が使ったのは顕現系統の魔法!それすら自分の知識不足にして特異能力って言うのはやめた方がいいよ!」
声をかけたのは一緒に弁当を食べたシアだった。どうやら自分のカバーに入ってくれているようだし、使った魔法に関しても分かっているようだ。本当に良い教育を受けている。
「はぁ?お前こそ勉強不足じゃないのか?顕現系統であんな人型が取れるかよ!それもあんなしっかりと!っ、面倒臭いな!文句言うなら先にお前から……」
シアに向かって魔力が溜まっていく。系統も何も無い、ただの火魔法のようだがこれが流石に直撃すればシアだってタダでは済まないだろう。実際彼女も動揺している。
仕方ない、席を立って魔法を使おうとする男の子の腕を掴む。
「試験会場で問題でもやらかしたら一発で落ちるんじゃないのか?」
「それを言ったらお前だろ!ズルをしやがって!喰らえ!」
そう言って火の魔法が自分に向かって放たれる。この至近距離だ。食らったら服が燃えるぐらいはするだろう。食らえば、の話だが。
「レテ君!」
「大丈夫大丈夫」
手から風の膜を出し、そのまま火の球を包み込む。驚くガキンチョに向かってそれをフワフワさせながら、大声で呼ぶ。
「先生!いきなり魔法を撃たれたのですがどうしたらいいですか!?」
このまま吹っ飛ばしてもいいが、それだと自分が落ちる可能性が高くなる。ならば第三者に判じてもらえばいい。予想通り、巡回の先生が一人、慌てて走ってくる。
「大丈夫かい?」
「はい、魔法はこの通りです」
ぷかぷか風に包まれて浮かんでいる火魔法を見せながら男の子がジリ、と後ろの壁に背をつける。
「こ、こいつズルをしたんです!」
「ズル?」
「け、顕現魔法だと嘘ついて特異能力を使って魔力測定したんです!」
ここまで来てもそれを通すとは、それはそれで清々しい程のバカだ。
「……ああ!顕現系統で風の騎士を作ったというのは君の事かな?」
こちらを見たので、こくりと頷く。
「この子はズルしていないよ。きちんと規定の範囲内で魔力測定をしている。それよりもいきなり魔法を撃った君の方が問題だね」
「ひっ……」
そう言うと、先生はガキンチョの手を引いてどこかへと行った。その後シアが近づいてくる。
「ご、ごめん。つい君の努力を否定された気がして……かっとしちゃって……迷惑だった、かな?」
元気なはずの彼女がしゅんとしている。正義感が強いのだろう。
「そんな事ないよ。助かった」
「そう?なら良かった!お互い受かってるといいね」
にへへ、と笑う彼女にやはり元気な子には笑顔が似合うな、と思いながら席に戻った。
いつも読んでくださりありがとうございます!