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異界の師、弟子の世界に転生する  作者: 猫狐
三章 破滅のタルタロス
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無自覚の枷

冷めきっても美味しい。そんなご飯を食べて歯を磨き、ベッドに入って就寝した。

翌朝、多少の夜更かしをものともすること無く朝の鐘の音で起きる。


「んーっ!おはようレテ君。昨日は……あれ?いい香りがする!それになんか肌触り良さそうな服着てる!」


シアが上のベッドから降りてくると自分の変化に興味津々と言った感じの目で言ってくる。色々言える事はあるが、とりあえずお礼からだ。


「昨日はご飯運んでくれてありがとう、シア。これは学院に帰ってきたらもう間に合わないって事でイシュリア様にお風呂を貸してもらったんだ。服も持っていくのを忘れたから一日だけ借りてきた」


あくまで貸してもらったことにする。まさか全身ゴシゴシ丁寧にされるがままに洗われていました、と言うのは気が引ける。というより恥ずかしい。


「えぇ!やっぱりお風呂や服一つでここまで変わるんだね……流石イシュリア様のお風呂だね……クンクン……」

「いや嗅がなくても……確かにいい匂いはするけど……恥ずかしいから……」


ほらほら早くしないと時間が来るぞと笑顔で嗅ぐシアを洗面所の方へ向かせるとえへっと笑って顔を洗いに行った。


(しかし期限……タイムリミットは今月中、しかも今月一杯まで待ってくれるとも分からない。今週の休みにはラクザに行ってもらう必要があるか。本なら具体名が無いと取り寄せたら数週間はかかるはずだし……)


そもそもどんな物、本を取寄せたらいいのか検討がつかない。そこら辺はクロウを信じたいところである。


「レテ君ー!交代交代っ!」

「ん?あ、顔洗い終わったか。はーい」


考え事をしている間に時間は過ぎていたようだ。自分も顔を洗うとシャッキリして頭が冴えていく感じがする。


(……とりあえずは目の前の授業を受けてから、今夜に皆を集めるか)


ふぅ、と息を着いて着替えを終わらせる。イシュリア様から借りた服を丁寧に畳むとシアに声をかける。


「シアー?」

「……ぐぅ」

「行くからな」

「まっ、待って!今日はホントに何もまだ着てない!」

「下着は!?」

「流石に着てる!」



皆に注意を促してからタルタロスに関するオンオフはキッチリ入っている。授業中は集中、帰りに昨晩考えた事を皆が軽く相談したりとバランスが取れている。


(……それを崩してしまうのかもと思うと怖いな。それに、昨日イシュリア様の報告ではタルタロスを滅ぼす為の手段は報告されていなかった。滅ぼすか、どうにか世界を生かすか……それすらまだ情報の足りないイシュリア皇国の判断に委ねられているのは……皮肉がキツイな)


そう考えているとスイロウ先生から声が飛んでくる。


「……テ君!レテ君!この問題解けるかぁ!」

「はいっ!」


今日はイシュリアについての授業だ。今大分上の空だったので答えられるか分からないが反射で返事をしてしまった。


「ではここの土地にある主要な街は何て言うのか答えてもらっていいかな!」


そう言われて前に貼られた地図を見ると、イシュリア王都よりも上……北にある場所にスイロウ先生が綺麗な指先でビシッと示している。


「王都より北、北の都セッカ……ですかね」

「うむ!その通り!凄いなぁ!いきなりだったけれど答えられるとは!特徴なども言えたりするかぁ!?」

(え、いきなりだったのか気づかなかった……やばいやばい。考え事に没頭しすぎた自分。それはそうと、北の都セッカ……)


頭の中から情報を引き出すと、言葉に出す。


「北の都セッカは寒さに覆われた土地にあります。その為防寒具を作る職人や火の扱いなどに長けた人が集まります。また、北の土地に暮らす生物の引き締まった肉が絶品です。また、寒いという土地柄、焼く料理よりも煮込み料理が発達して王都に届き、国全土に響き渡った歴史もあります。……このぐらいで大丈夫でしょうか?」


そこまで言うと、スイロウ先生は満面の笑みで親指を上に立ててサムズアップしてくる。


「そこまで勉強しているとは関心だぁ!さて!では今日からはここ、セッカについて勉強していくぞぉ!まずはーー」


その後はキッチリ授業に集中したのだが、どこかモヤモヤが取れない。やはりタルタロスが枷になっている事を再実感した。



昼休み。皆が集まってご飯を食べていると唐突にダイナが声を出す。


「そういえば今日の地理の授業〜。レテ、あんまり集中出来てなかったみたいだけど大丈夫?」


「おいおい、あんだけ俺らに注意しておいて自分一人悩むってのはナシだぞ?相談は相談。何かあるならきっちり話そうぜ!」


ショウも乗っかって心配してくれる。心配をかけたな、と思いつつもやはり避けては通れない道を皆に歩ませる事になる。

声を潜めて最低限の音量で、顔をぐっと乗り出して言う。


「とりあえず昨日は体調を気遣ってくれてありがとうな。……それで、今夜話があるから全員、夜になったら自分とシアの部屋に来てくれ」


その言葉に皆が険しい顔をしながら頷いてくれる。頼もしい協力者を得たものだと思いつつ、イバラの道を進ませることになる。

昨日体調不良として先に帰らせてもらって今日の部屋に集まっての報告。皆何かあったと確信したのだろう。その通りだ。その通りすぎるのだ。


(……それでも最後まで付き合ってもらう。イシュリアは、滅ぼさせない)

いつも読んでくださりありがとうございます!

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