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異界の師、弟子の世界に転生する  作者: 猫狐
三章 破滅のタルタロス
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身に入らぬ授業

火曜日。スイロウ先生が指で前の板に文字を書いていく。今日は国語の授業である。解説を挟みながら授業を進めているのだが……。


「……」


皆、たしかにノートには書き写しているし説明も聞いている。が、イマイチ昨日の話を聞いてから別の所に思考を飛ばしているように見える。

横のシアを見ればところどころ解説文を書き忘れていたり、普段なら自分で思いついたことを書いているのに書いていなかったりする。これはいけない。タルタロスの事を考えてくれるのは有難いことこの上ないのだが、それ以上に学院生としての本分を果たしてもらわないとイシュリア王に申し訳が立たない。


「ではここの所の考えを……うん。ニア君!君の考えを言ってもらっても良いかな?」

「……え?あっ!はい!えーっと……」


実際ニアもそんな感じみたいだ。横のミトロが心配そうに見ている限り、ミトロはきっちりその辺は分けてくれているのだろう。元々勉強熱心なミトロな事だ。同時並行で考えているのかもしれないがそれはそれで心配だ。


「えっと……その男の人は鳥の事を想って敢えて窓を開けて自分の部屋に入れるようにしたのだと……」

「うむ!そうだな!先生もそう思うぞぉ!……しかし皆どうかしたのか?まだ疲れが残っているのか?」


やはりスイロウ先生から見ても皆上の空に見えるらしい。皆がそんなことは無いですよと口々に答えると少し考えてから頷く。


「……体調が悪くなったら直ぐに先生に言うんだぞ。では続きを書くぞぉ!」


そう言って授業を続けていく。一同ホッとした雰囲気になるが、平日はタルタロスの事を大人に任せて授業に集中してほしい。


(……まぁ、うん。このぐらいなら)


スイロウ先生が板に向いている間にそっと魔力を出す。光魔法、リラックスさせる為の魔法だ。つくづく光魔法は生活に便利なものが本に沢山載っているなと思いながらクラスの皆にかける。

すると皆、何か憑き物が落ちたように授業に集中し始める。やはり、タルタロスの事が子供心に抱えてしまっていたに違いない。


「ね、レテ君今何かした?」


隣のシアもどことなく元気になった気がして思わず頬が緩む。


「少しだけ工夫をね。……ほら、先生が次を書き始めてるから」


そう言うと自分もノートを必死に書き取り始める。幾ら発音が同じでも文字が違うので覚えているとはいえノートに残しておかないと不安になるのだ。

ノートの提出もあるし。



昼休み。やはり皆で集まって食べる中、ショウが野菜炒めを飲み込んで自分に問いかけてくる。


「レテ、さっきの授業の途中何かしたか?」

「ん?……なんで自分なんだ?」


何故自分確定なのだろう。そう思っていると皆ジト目でこちらを見ている。何故だ。


「レンターからは魔力を感じなかったし、第一先生にバレずに何か魔法をかけるなんて芸当、お前以外に出来る気がしないからだよ」

「……俺もそう思う。ショウが集中し始めたタイミングで俺も何処か集中出来なくなっていたところが集中できるようになった」


その言葉に皆がウンウンと頷く。はぁ、と少し息を吐きながら防音結界を貼る。


「……防音結界?」


ミトロが不思議そうに呟くと、自分は静かに言う。


「確かに皆授業に身が入っていなかったように見えた。……大方、タルタロスについての対策を考えていたんじゃないのかって自分は思うが……」


皆全員揃って目を逸らす。わかり易すぎる反応につい苦笑しながら続ける。


「……ミトロも同時並行で考えていたんだな、その反応を見るに。確かにタルタロスの事を考えてくれるのは嬉しいよ。けど、自分達はそもそも学院生だ。学ばなければ入れてくれた人にも、他の生徒にも、スイロウ先生にも。……イシュリア王にも、申し訳が立たない。言ったろ?タルタロスの事は頭の片隅で考えてくれればいいって」

「だ、だがそれでは……」


クロウが何かを言おうとしたところに首を横に振る。


「いいや。国の人が動いているし、自分達もそもそもイシュリア王から無理矢理託された訳じゃない。……信じられる人にだけ伝える事を許可されただけなんだ。皆が皆、考えてくれようと思ってくれるだけであの人は幸せだろうからね」

「……そ、そうか」


そう言うと今度は下を向いてしまう。恐らく授業に集中出来なかったことを悔いているのだろう。


「大丈夫だよ。授業は集中、やりたい事がある時はやりたい事をする。……そして、何もやる事がないなって思った時にふと考えてくれれば、それで良いんだ。いい発想っていうのは案外そういうところから生まれるからね。……さて、ご飯食べ終わ……あああ!?」


防音結界を貼っていなかったら危なかった。時計を見ると大声で叫んでしまう。


「おいおい今度はどう……し……」


皆時計を見る。皆を説いている間に残り時間は無常に残り五分を告げている。


「ああっ!食べる食べる!」


シアの言葉を皮切りに皆慌てて食べ始める。

その後何とかご飯を間に合わせ、午後の授業を受けた。皆言われた通り集中してくれて良かった、と思いつつ一気に食べたせいで今度は眠くなってくる自分であった。

いつも読んでくださりありがとうございます!

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