表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異界の師、弟子の世界に転生する  作者: 猫狐
三章 破滅のタルタロス
102/270

悩み事はバレるもの

お昼ご飯も食べ終わり、皆で午後の授業を受け始めた。


「……という数字の問題になるわけだ。誰か答えられるかい?」


今日の午後は算数らしい。いくら魔法や武術に才能があっても基礎を疎かにしてはならない。それなのに、今日は身が入らない。


「はい!」

「おぉ、ファレス君!では解いてくれ!」


ファレスが魔法で板に答えを書き込んでいるのだろう。魔力でわかる。しかし、それしか分からなかった。


(……アグラタムから連絡が無いということは有効手段はまだ見つかっていないということ。……そりゃそうか。この何十、何百年も続いたイシュリアで異界を滅ぼす方法なんて調べてこなかったんだ。無理もない)


スイロウ先生の言葉をただ聞いて、ノートに書き写して。それからまたタルタロスへの対応を考えて。

そんな思考に没頭していた自分をクラスメイトがこっそり見ていた事に自分は気づかなかった。



午後の締め、実技である。本来ならばここで魔力の特訓を行うのだが、スイロウ先生の許可の元、自分達は模擬戦をやることを許されていた。


(……皆を、連れては……いけない。絶対に)

「おーい!レテ!」


そう考えていると至近距離からショウから声がかけられる。顔を上げて距離を若干とると、問いかける。


「ど、どうした?こんな近づいて」


「いや……何回呼んでも反応してくれなかったからよ。それよりもさ!模擬戦の許可が出たんだから手加減有りで顕現系統の戦い方を教えてくれよ!」


ああ、そういえば約束したな。手加減はしてくれと確かにお願いもされていた。苦笑しながら頷く。


「いいよ。……スイロウ先生、ほかの皆も良いですか?」

「勿論だぁ!顕現系統のぶつかり合いなんて久しぶりに見るなぁ!」


クラスメイトの皆も頷いて下がってくれる。するとショウは一層気合いを入れて頬を叩いた。


「よしっ!じゃあ先生、合図頼みます」


そう言うと先生が鈴を取り出す。互いに見つめあったまま、その時を待つ。

チリン。

その音が鳴った瞬間。ショウが炎の槍を顕現させて投げつけてくる。


(悪くない。確かに鍛錬は身を結んでいる。……けれど!皆をタルタロスに巻き込む訳には……!)


ラクザでの悪夢が、その後悔が自分に襲いかかる。

炎の槍を水を纏わせて掴んで蒸発させると、上空に土の槍を三本顕現させる。


「負けないぜ!」


そう言って炎の盾を展開する彼に向かって、思う。


(そう。確かに強くなった。……でも、まだ足りないんだ!)


その考えが、手加減の一部を失わせた。土の槍を発射すると同時に風の騎士をショウの側面に展開。一歩引いた彼の跡地には風の騎士が切り裂いた残像だけが残る。

そしてショウの顕現ではまだ自分の土の槍は全て抑えきれない。いくつか防いだが、一本刺さった土の槍に命令する。


「地面を抉れっ!」


その指示を出した時にハッと思い返した。

勿論手加減をしていたつもりだった。しかし、つもりでしかなかった。実際はどうだ。この技は手加減無しの威力……直撃すればタダでは済まない。

刺さった槍が上へと向き、思い切り地面を抉る。その範囲にいたショウは思い切り打ち上げられる。


(っ!まずい!あの姿勢じゃ受身が取れない!)


慌てて土の騎士を顕現させると、そっと空中で受け止める。


「あいや、やっぱレテお前つえーわ……!でもいつか超えてみせるからな!」

「……あぁ、頼む。超えてくれ」


その本心からの言葉に、周りの皆がこっそりと頷いた。勿論、ショウもそれに合わせたのだが背を向けて後悔している自分が知る由もなかった。

授業が終わり、夜ご飯を食べた後。クロウが話しかけてくる。


「レテ、昨日いなかったろ?ちょっと皆で話でもしようぜ。うちの部屋で」


うちの部屋、というとクロウとレンターの部屋だろう。頷くと皆揃って部屋に入った。


「お邪魔しまーー……わー!綺麗に整ってる!」

「……ニア、流石にその言葉は辛いぞ」


率直な感想がグサッとレンターに刺さった。素直も考えものである。


「さて、と。建前は作ったからな。……レテ、何を考えてる?」

「へ?」


クロウどころか皆が真剣な表情でこちらを見てくる。


「え?休日の話じゃ……」

「それは建前だ。……今日の授業、珍しくレテは身が入ってなかった。それに、実技の模擬戦の時明らかに手加減じゃない威力の顕現系統の力を使っていただろう?……何か、抱えているなら話して欲しい。俺らに協力出来ることがあるかもしれない」


少しの間黙る。自分はそんなに思い詰めていたのか、と。

しかしその機密情報を公開する訳にはいかない。万が一それがバレたとしたら……。

そう思っていると、唐突に門が窓際に開く。


「……ッ!」


敵襲か?そう思って光の槍を咄嗟に投げつけるとその人は転がり落ちてきた。


「……影と思うのは分かりますがね。流石ですよ」


その人は本来ここに現れては行けない人だった。慌てて防音結界を貼ると、皆が一斉に頭を下げる。


「ア、アグラタム様!?」

「よ、ようこそいらっしゃいました……何の変哲もない部屋ですが……!」

「あの……何か、してしまいましたでしょうか……!?」


皆脅えている。当然だろう。国の戦力のトップだ。そんな人がいきなり一つの部屋に現れれば混乱必死である。


「落ち着いていただきたい。まず、私が現れたのは……そう。レテ君。君にイシュリア王からの伝達を承ったからです」

(……イシュリア様から?何だろうか)


ひれ伏す皆の前で何故自分は立ち続けていられるのだという皆の視線を受けながら話は続く。


「伝達はこうです。『信頼のおける者。その上で協力者になりうるもの。そしてその柔軟な考えで導き出す貴方の仲間に情報を開示することを許可します』……とのことです。それでは私はこれで」


そう言ってサラリと帰る弟子を真顔で送りながら、シアが一番最初に口を開いた。


「情報の……開示?レテ君、やっぱり何かを隠して……」


ぐっと歯噛みする。これ以上、彼らを巻き込めば自分は守りきれる保証はない。

その時ファレスとフォレスが声を出した。


「どうせ私たちを守れない!とか思ってるんでしょ!」

「……危険地帯で迷うのはわかる。けど、戦うだけが力じゃない。情報ならラクザでの収集も楽なはず。……それとも、私たちは信頼できない?」


そんな訳が無いじゃないか。共に過ごし、誕生日を祝ってもらい、鍛錬をし、死線を潜り抜けた。そんな友が信頼できない訳が無い。

だから、最後に問いかける。


「……これはイシュリア王ととあるヒトから託された希望だ。とても……そう、ラクザとは比べ物にならないぐらい危険かもしれない。……それでも、この先の言葉を聞く覚悟がある人だけ残って欲しい。出ていっても自分は責めないし、皆も責めない」


その言葉を聞いて、出ていく人は誰もいなかった。防音結界を強化して、仲間を信じてそっと話し出した。

いつも読んでくださりありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ