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異界の師、弟子の世界に転生する  作者: 猫狐
三章 破滅のタルタロス
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タルタロスからの退却

その話をじっくり聞いた後、自分はイシュリア王に問いかける。


「イシュリア様、異界を滅ぼす手段は……ありますか?」


その言葉を聞いて、イシュリア様は複雑な表情をしながら首を横に振る。


「私達は撃退する力を持っていても、世界を消滅させる知恵を……力を知らない。案内屋さん。貴方にそのアテはあるの?」


視線を自然と案内屋に移す。しかし、その案内屋も首を横に振った。


「イイヤ。僕の記憶にあるのは王と奪った影の記憶と……異邦人の記憶ダケ。だから、知らナイ」

「……そう、ですか」


そう言われると皆で考え始める。そもそも知恵と力があればイシュリアはやろうと思えば撃退ではなく最初から敵の異界を消滅させられたはずだ。だから本当にその知識がないのだろう。勿論自分が知るわけもない。


「……ソレヨリも、早く帰った方がイイ。今からこの結界を解ク。その瞬間に影ヲもう一つ生み出してクレ。ソレを葬る事で……一時的にでも、王を誤魔化シテ見せよう」


確かに来てから数時間……というより夕方、下手したら夜。そろそろ帰らないとイシュリアが大混乱に陥る可能性もある。その提案に頷くと、闇の魔力を使って三人とも影をもう一人作り出す。


「ヨシ、では結界を解クヨ。……確かに託シタヨ。強きヒカリを持つ異邦人……」


その瞬間に結界が割れ、案内屋が偽の影を殺す。そして同時にアグラタムが門を開き、急いで飛び込んでイシュリアへと帰還したのであった。

最後に振り返る。案内屋は、ただただ微笑んでいた。



「……すっかり夜ね。兵を労う時間もないわ。アグラタム、私は急ぎの仕事……何て、言い訳じゃなくなったわね。タルタロスを完全に消滅……もしくは侵攻が再び起きない方法を探すわ。軍だけでなく、研究員達にもその方法を探すことを命令しなさい。……勿論機密事項で」


影の姿を解除し、外を見る。窓から見える月はタルタロスには無かった美しさだ。それだけに心が痛む。


(……この光を。美しき月も、輝く太陽も、案内屋は……記憶でしか知らなかったんだ)


そんな事を考えるがサラッと機密事項を知る同士になってしまったので、どうしたものかとポリポリ頭を掻きながら時間を確認する。


「夜八時。……ん?夜……八時?」

「ええ、師よ。夜八時です。……あ。丁度……魔術学院のご飯の時間が……」


直感的に理解した。マズいと。これはマズい。またシアに問い詰められる事になる。


「か、帰ります!自分の方でも……何か手がかりが無いか探ってみますが成果は期待しないでください!」


そう言い残して急いで門を開いて自分の部屋に戻る。その門が閉じた後、アグラタムとイシュリアはポツリと漏らす。


「……案外、そう言った子は何かしら手がかりを持って帰ってくるのよね」

「王よ……流石に期待しすぎです。まだ彼は一学年の身分なのですよ。とにかく、城の文献を漁るところから始めましょう」



「……レテ君?今度はどこに行ってきたの?」


門を開いて自室に帰ると、そこに待っていたのは満面の笑みを浮かべたシアでした。


「……あ、いや、まぁ……野暮用?」

「朝早くからこんな夜遅くまでかかる野暮用?……なーんか、怪しいなぁ。あ、ご飯は机の上ね」


じっくりと顔を見られながらご飯を食べる。


「……うん。美味しい」


久しぶり、というより数時間ぶりに美味しい物を食べた。そのままモグモグと食べ続ける。


「……」


その様子を見ながら、シアが唐突に顎を肩に乗せてきた。


「……ふぉうふぃふぁふぉ?」

「食べ終わってからでいいよ、もう……。そんなにお腹空いてたの?」


そりゃもう。軍用の食糧は腹に溜まるが味が感じられなかった。だから美味しいご飯を食べるのはとても嬉しかった。

だから、うっかり言ってしまった。


「うん。あっちの世界では食べ物の味がしなかったからね。やっぱりオバチャンの料理は美味しいよ……」

「……あっちの世界、って?」

「……あっ」

(すみませんイシュリア様。機密事項の末端が即バレしました。軍用食糧の味の改善を早めにお願いします)


どう誤魔化そうかと考えていると、さらにグイッと肩に顎の重力がかかる。


「あた、あいたたた……」

「……心配。確かにレテ君は強いよ。間違いないよ。でも……別の世界でも通用するかと言われたら私には分からないよ。ねぇ、何が……ううん。どこに行ったの?」


シアの問いにグッと歯を噛む。協力者は多い方が良い。だが……。


「……ごめん。言えない。これはイシュリア様とアグラタムとの……機密事項だから」

「余計に心配だよ。……でも、もしも。私……ううん。レテ君の為なら他の皆も協力してくれる。だから、手伝える事があったら……言って?」


そう言うと顎が離れ、代わりに背中から抱きついてくる。スキンシップなのか、それとも自分が安全な事を確認したいのか。何はともあれ、心配させた事は事実だ。


「また、心配かけたね」

「……そう思うなら心配かけないように行動してほしいかな?」


そう言ってシアはお皿下げるねーと言って自分の食べ終わった皿を下げに降りていった。その間に考える。


(タルタロスを消滅させる方法。一番簡単なのは、王と住人、その他共々消し去る方法だが……それでは何かの拍子に蘇った時に混乱が巻き起こる。……城の文献はアグラタムとイシュリア王が調べてくれる、と言っていたな。何か良い方法は無いものか……)


考え込んでいると、ガチャりと扉を開けてシアが戻ってくる。


「また明日から授業だね。ここ二日間、濃い時間を過ごしたよ」

「……そうだね。異界からの侵攻もあったからね。……あれ?シアは何をしていたんだ?」


濃い時間、というならばシアもそれなりに今日何かやっていたはずだ。疑問に思って聞くと、少し頬を染めながら笑う。


「秘密!」

「……自分も秘密を隠してるからこれ以上追求するのはやめるよ、うん」


これ以上突くとやぶ蛇になりそうだ。そう感じて風呂へと向かう準備をする。


(全てを破滅へと導くタルタロス王。そのティネモシリ様に捧げた狂愛は自分が恐らく特異能力で受け止められるが……果たして、それでいいのか?)


無限にループする考えをリセットするために、風呂へと向かうために扉を開ける。


「あ、今から女子も入るから鉢合わせしないようにね」

「……」


シアの言葉に別の苦悩も抱えながらも、とりあえずイシュリアへ帰ってきた事を実感したのだった。

祝百話!これもいつも読んで下さる皆様のお陰です。いつも読んでくださりありがとうございます!

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