師匠の死
初投稿になります。猫狐と申します。
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「……自分ももう長くないね」
右手をかざし、現れた盾にて降り注ぐ光の槍を防ぎながらそう呟く。
「師!もう長くないなどと!」
泣くようにして叫びながら、攻撃者は分身を増やしてそれぞれが違う剣線を描く。
「いいや、本当だ。長くない」
今度は左手に剣を出す。それは黒く、しかし何かを嘆くような紫色をした不思議な剣だった。
それを分身に向けて振るうと剣はおろか、分身、本体まで届く漆黒の刃を生み出す。
「そん、な……」
そう言い、傷を魔法で治しながら『空中』にふわりと漂っていたその男は師と呼ばれていた男の横に降りる。
そうして『ベッド』に横たわる師と呼ばれた彼は、にっこりと笑う。
「最初はいつだったか……いきなり異界から現れて敵対したと思ったら師にしてください、なんて言ってきたのだったかな」
「……本当に、長くないのですね」
次第に横にいる男性から、ぽたぽたと涙が流れる。
最初はただ、暇だから訓練として付き合っていただけだった。
この世界とは別の世界。または時空から来た彼は自分を敵対者と見なし、攻撃してきた。
容赦なくフルボッコにした後は、彼は自分が敵でないと分かると唐突に空中土下座でお願いしてきたのだ。「弟子にしてください」と。
彼は訓練と呼び、毎晩布団から動けない自分に必死に攻撃を仕掛けてきたものだ。そして、それを凌ぎ、或いは掴んで返し。そうやって到底弟子と師匠とは言えない特訓で強くなっていった。
次第にそれが楽しくなり、自分も技を練り、弟子を串刺しにしながらドヤ顔したものだ。
「俺は……俺は師のお陰で、国の守護者とまで呼ばれるようになりました。それでもまだ、師には到底追いついていない……まだ!まだ学ぶことがあるのです!」
「……なら、祈るのだ」
「祈る?」
泣き顔の弟子の涙を魔力の風でそっと飛ばしてあげると、その顔に微笑みかける。
「次自分が産まれることがあったなら。もう一度出会いたいと思うならば。願わくば君の世界で生まれるように、と」
その言葉にハッとしたような顔をして彼はぐっと拳を握りしめながら顔を拭う。自分は言霊……つまり、言葉に魔力を込めて顕現させた事もある。つまり、言霊に効果がある事を身で感じている。だから彼は最期になるであろう言葉に、こう言い残した。
「貴方は今度、俺の世界で産まれる。絶対に、絶対にだ」
「……ふふ、そうだね。自分もそう願おう」
そう言って彼は門を開き、自分の世界へと帰っていった。
その門が閉じられた後。布団に横たわっていた青年は静かに息を引き取った。