マフラーにうずくまるメイドの獣人少女
どうしてか、天を仰いで息をはきだした。
肌に刺すような痛みを感じながらも、空を見上げた。
灰色に染まった曇天が広がっていて、灰色の中に自分の白色が立ち上っていった。
そろそろ、隣国には雪が降る季節だろうか。降り出した知らせが飛べば、すぐにこちらも降り出すだろう。
「えへへ、寒くなってきましたね」
傍らにたたずむ低身長のリャーディ――猫の姿と人間の姿を足して2で割ったような種族――の彼女は嬉しそうにそう言って寄り添ってくる。
「どうして嬉しそうなんだ」
「だって、ご主人様にくっつけますもの」
「そうか。好きにすると言い」
「はい。好きにします。ですので、良ければ、お顔を下げて頂けますか?」
彼女の方を見ると、何かを期待したように両手にマフラー抱えて居るのが見えた。
やりたいことを把握して、彼女の前に立ち膝をする。それでもまだ高かったのか、一所懸命に背筋とかかとを伸ばしていたので、頭を下げる。それでようやく首に届いたのか、彼女の持っていたマフラーが二度三度と首に巻かれるのを感じて、動きが終わるのを見計らって、首元に手を振れる。
先ほどまで冷たかった空気は暖かくなっていた。
「ありがとうございます。ずっと夢でしたから」
「お礼を言うのはこちらだが。これが夢だったのかい?」
「はい。それが、です。メイドになって、ご主人様に温かいものを作ることを許してもらえるのがひとつ、です」
「こんなことでいいのなら、いくらでもいうと言い。昔はどうだったかは知らないが、私は禁止をしない」
「……えへへ」
嬉しそうに染まる彼女は、寒さのせいか、それとも熱っぽさか。
雪が降りだせば、分からなくなってしまうだろう。
今は、雪が降っていないことに感謝をしなければいけなかった。