たまには奢って、怒られる
それは意外なお誘いであった。いつもいつも金欠気味な奴からの、奢りのお話。
「せっかくの夏休みなんだしよ、みんなで映画に行かないか?俺、割引チケット持っててよ。あ、特典は全部俺に寄越せよ」
「舟が奢るなんて珍しいな」
「あれ?俺、今。奢るって事言ったっけ?まぁ、割引チケットには6人の頭数入れなきゃダメだから。御子柴とかも誘ってやらねぇとな」
LINEでいつもの面子に呼び掛ける。
暇な奴もいれば、暇じゃない奴もいたが。なんとか頭数の6人を揃えた舟。
「そーいや、何を見に行くんだよ。舟」
「まー、ただのアニメだよ。俺は特典目当てだから、もらった特典は必ず、俺にくれ!」
「あ!これこの間、一気読みしたー!最近、流行ってる漫画だよね!」
「女が見るもんじゃないけど…………」
「そう?私、普通にこれ持ってるよ。ま、御子柴はアニメとか好きじゃなさそうよね」
「俺もこの漫画は途中まで読んでたし、懐かしんで観るのもいいな。また、買おうかな」
相場、川中、御子柴、嶋村、四葉の5名は、暇だったり、割引だったり、みんなが来るからという理由で舟の話に乗っかった。
半々ぐらいで映画を楽しんで観ようとする奴、友達から付き合ってやる奴。なんか企んでいる奴で、やってきた映画館。わいわいやるんだったら、やっぱり映画館は良い。
「缶ビール飲みながら、映画も良いわね」
「そーだな」
「コラコラ、未成年共……」
「舟くんと御子柴らしいねー」
未成年の飲酒には気を付けよう。あと、映画館でのマナーは大切に。
ポップコーンにジュースの用意。特典で配られた色んなものを眺めつつ、夏休みだからこそ人の入りが多い会場にワクワクぶりを感じながら、映画は始まるのであった。
放映時間は2時間とちょっと。
漫画という原作もあって、原作ファンなどを始め、かなりの人数が視聴している。知名度もそれなりにあるため、映画の世界観に引き込まれるのは結構早いもの
「おーーっ」
「はははは」
無言で観ているのも辛いものだ。
新鮮に楽しめている相場と川中。意外や意外、ビールのつまみに合う熱い展開に集中して観ている、御子柴。懐かしさといちおのファンでもある四葉と嶋村は、存分に映画の内容を楽しんでいる。
舟に付き合っただけだが、結構良い映画を観れて良かった一日であった。
映画の内容だけは…………。
◇ ◇
「面白かったなー。カッコ良かったぜー」
小学生並みの感想であり、実際のところ。男達がプライドを剥き出しにして戦っている様に、興奮した事実をそのまま言葉にした相場。
「原作をしっかりと尊敬した映画だったね。設定が活かされた映画で良かったー。2時間がすっごいあっという間!」
見応えがあって、しっかりと原作と絡んだ作品の映画で満足の川中。
「思ってたより面白かったわ。でも、予備知識があった方が良かったところね。ちょっと、2時間で詰め込み過ぎ」
「それは御子柴が悪いんじゃない?ほとんど原作知ってる人が観に来てたし」
「途中でビールを飲まずに、真剣に観ていた御子柴ちゃんの反応を見るに、良作ではあったよ」
「なによ、嶋村と四葉。私がビールだけ飲みに来た女に見えるの!」
最初は付き合いのつもりであったが、映画そのものは好きだったため、多少のダメ出しができる程度には映画を観ていた御子柴。本心が四葉達にも丸分かりだった。
「私としては最高の出来という評価じゃないですけど、やっぱり原作の良さが出たね。過去のボスとの共闘が熱い。演出もやっぱり映画なだけあった」
「十分過ぎる映画だった。もう一回、原作を買い直そうかな」
そんなこんなで夏休みの映画視聴は成功であった。舟には感謝をしたいところであったが……。そう当の本人はメチャクチャ落ち込んでいた。
「う、う、嘘だろ……」
「さっきから何、落ち込んでんだ。特典がそんなにダメな奴だったのか?」
「うるせー!!どーしてこんな事が起こるんだーーー!?」
映画館から少し離れたところで、舟は激怒した。割と気を遣ったんだろう、彼なりに。そして、その怒っている理由、
「なんで特典の限定プチねんどろいどが、舟以外同じなんだよーーー!?6種類あんのに!!なんで、こんなに被るんだよーーー!?」
「偶然だろ」
「偶然で済む確率かーーー!?」
「というか、なんでそんな物欲しがるわけ?嶋村と違って、オタクってわけでもないのに」
「そーですよ。オタクはそんなことで根をあげません」
「うるさーーい!!」
確かに酷い偶然であったが、舟がマジな顔で
「この映画の特典はな!結構な値段で売れるって知ったから、もらいに来たんだよ!!マニアとかがコレクション目当てで集めるんだよ!!俺はな、それで一儲けしようと思ったんだよ!!なのになんで、こんなに被るんだよ!!1つ、2つ売れても、5つもあったら売れ残るわ!!クソ――!俺は2時間も映画館に居たんだぞ!ただの時間の無駄になっちまったじゃねぇか!!クソレビューしてやるぅっ!」
お前はそんな理由で映画館に来たのかと……。相場達はかなりの呆れ顔で舟を置き去りにする。そーいや、舟は途中で寝てたり、ビールを何本も飲んでいた。苦痛だったんだろう。
酔いを醒まさせるため、相場達は
「……じゃあ、5人でマックか……いっそ、回転寿司でお昼とするか?」
「いいねー!舟は納得の行く特典が入るまで、映画館に行ってなさいよ」
「おーい!相場、御子柴ーー!なんだその冷たい態度ーー!というか、寿司!?」
なんやかんやで映画を満足して観ていた者達だったからこそ、ちょっとだけ舟の酔った発言には気分が悪くなった。
「うーん、ちゃんと映画を観てない人が、そーいう事を言ったりするのは良くないよ。舟くん」
「うんうん、これから寿司屋で映画談義でもしようと思うのに」
「川中さんと四葉の2人まで!?」
グサグサと、仲間の心に言葉のナイフを刺していく。実際、そー言った事を舟も言っていたわけだ。
「映画目的で来た人が、映画の批判を語るのは構いませんが。特典目当てだけで来た人が、映画の事を言っちゃダメですよ。半分以上、寝てるしビール臭いわ。舟は迷惑な客そのものだったよ」
「ぐほぉーーっ」
こいつ等、今日は俺の割引チケットに釣られて映画見に来たくせに……メチャクチャ冷てぇっ!!
バタリと道端で倒れ込んでしまう、舟。そんな舟を無視して、相場達は近くに見えたやっすい回転寿司に足を運んだ。映画だけじゃなくて、寿司も楽しむことにした。
「な、なんて奴等だ……」
「!おや、どーしたんだい。君。こんなところで倒れて……」
「お、お巡りさん」
「!むっ。酒臭いな、君」
未成年の飲酒で、署までご同行願います。