第6話 バッドエンド
ひととおり膨大な情報量のノートを読み、今分かっている大まかな内容を整理するとこうだ。
この世界は、ヒロインが恋愛をし、ー年後の春に告白されるのを目指す恋愛仮想体験ゲームの中。ゲームの主人公であるヒロインは、〝ニーア〟という可憐な少女で、この世界を救う姫巫女の力を持っている。お兄様は、ヒロインが恋愛することができる恋愛対象キャラクターのうちの一人で、この世界の地図の北端に位置する雪深い寒冷の地、フォウルグ領の領主の子息だ。
ヒロインが恋愛をするにあたっては、各対象キャラクター毎に恋の邪魔をするライバルが存在しており、シェト様を攻略しようとした場合に立ちはだかるのが、現在のわたし、シェルルカ・フォウルグである。シェルルカはお兄様を溺愛するあまり主人公に妬きもちをこれでもかと焼き、わがままや嘘の情報、その他あらゆる画策によって主人公をお兄様から引き離そうとする、幼さの有り余る十一歳の少女である。彼女の行き過ぎた独占欲の原因には秘密があるそうなのだけれど、その詳細はノートでは伏せられていた。昨日私が出会ったハウゼルは、わたし達の家来で、お兄様の護衛を担当している人物のようだ。
隅から隅まで何度も読み直したが、なぜわたしが彼女になってしまったのか、シェルルカを元に戻す方法といったことに繋がるような記載は一切無く、そのことについては何も分からなかった。
シェルルカの今後の未来に関しては、ヒロインをどのように邪魔するか、それをヒロイン側が回避するためのヒントなどが書いてあったが、邪魔が失敗したところで、シェルルカ自身がどうにかなるということもなさそうであった。
わたし自身の未来は何も変わらない。わたし自身の未来は平穏無事であった。しかし、わたしの行動によって、影響がでることが一つだけある。
お兄様の未来である。
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【プロフィール】
シェト・フォウルグ
・誕生日
微睡みの月二日
・魔法属性
氷
・趣味
乗馬、読書
・特記事項
その高い魔力が災いして、幼少の頃から不治の病に侵されている。
【取り返しのつかない要素】
バッドエンドフラグ(※注)が立っていた場合、エンディングにて病死。
【※注 Bad endフラグについて】
①ヒロインがシェト・フォウルグルートに入っていない。
②シェト・フォウルグからの好感度が、一定の基準に達していない。
③神降りの儀、聖柊祭でのシェト・フォウルグとのイベントを行わない。
④各領でのイベントアイテムのうち……
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そこにあったのは死への道の羅列。
この注意事項の記載は、その後も何項にもわたって続いていた。このフラグのうち、どれか一つでも立ってしまえば、その時点でお兄様の運命は確定する。
今日は芽醒めの月五日で、これはヒロインが最初の恋愛対象キャラクターと出会うおよそ一ヶ月ほど前にあたる。そして、このゲームのエンディングは、その出会いから一年後にやってくるようだった。
つまり、今から一年と一か月ののちに、お兄様は高い確率でその命を落とす運命にあった。
【この世界の暦表記】
一月:眠りの月
二月:微睡みの月
三月:芽醒めの月
四月:花霞みの月
五月:緑出づる月
六月:雨唄いの月
七月:潮聴きの月
八月:神降りの月
九月:穣り穂の月
十月:宵入りの月
十一月:星読みの月
十二月:白雪の月
──青いノートより引用