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湖上の城のシェルルカ  作者: はち
第二章
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第5話 青いノート

 目を醒ますと、まだ夜明け前であった。

 ほの暗い部屋のなかで、カーテンの奥から透ける微かな薄明が、見慣れぬ室内の調度品の輪郭を浮かび上がらせていた。目前の青い天蓋も、薄曇色の鏡台も、ガラスの脚のサイドテーブルも、今は眠ったように静かな色をしている。

 目を醒ましてもやっぱり、ここはあの見慣れた四人部屋でも、ましてや行くはずだった葵の家でもなかった。部屋にいるのは、今はわたしひとりきりだ。


 よく眠れたせいか、寝起きの頭は珍しく冴えている。周囲を見回して、横のベッドサイドチェストのあの一角獣のもとに、すぐに青いノートを確認した。なるべく音を立てないようにゆっくりと布団をはがし、そっとベッドから降りると、わたしはそのノートを抱えて部屋の奥の机に向かう。その机に置かれていた明かりを灯すと、部屋のなかはまだ大分暗かったが、なんとかノートの中身は読めそうだった。


 もしここがゲームの世界なら、葵がくれたこのノートに何らかの手掛かりがあるはずだ。そう思い、その表紙に手をかける。ページをめくってシェルルカに関する記載を探すと、ヒロインの邪魔をするライバル数名への対策ページが見つかり、そのうちのひとりがシェルルカであった。ところどころネタバレは伏せられていたものの、幼い彼女がヒロインに負けたとしても特に悲惨な目に合うことはないとわかり、一先(ひとま)ず胸を撫で下ろす。

 そのページを読み終わると、はじめに戻って順番にノートを読み進めていった。この世界の成り立ちと神話、魔法とその効力、各地方の特色と特産品、重要な登場人物は……厚みのあるノートを1ページ1ページめくるたび、世界の片鱗がわたしに姿を見せる。不思議に満ちた世界に広がるであろうその幻想的な未来に、胸は高鳴る。そうして心を弾ませながら次のページをめくったとき──


 唐突に現れた不穏な文言に、めくった指先が恐ろしく冷えていくのを感じていた。


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