思ってたのと違う!!
単刀直入に言う。――監禁された。目隠しされて後ろに手錠を掛けられている。
俺は男で青年だ。青年の俺を誘拐するなんて、身代金目当ての犯行ではないだろう。そう考えてると、人の気配を察した。その気配は俺の耳元に近付いて囁いた。
「……ふふ。やっと、一緒になれた♡」
透き通った若い女の甘い声が、鼓膜から伝わって脳を揺さぶった。
「ごめんなさい、こんな乱暴な方法をしてしまって。でも、これしか方法が無かったの。大好きなあなたと、一緒になる為には……」
「だ、大好き?」
俺はつい、そう言った。大好き? 大好きで人を拘束するのか?
「ええ。大好きだからこそ、傍にいて欲しい。他の誰にも触れて欲しくないんです。だから、だから……」
そう言って、声の主は俺の頬に手を当てた。その言葉を聞いて、俺は歓喜の余りに号泣した。
「うおおおおおおおおおお!!!」
「え!? え!?」
「そうか! 恋故に監禁を!! ――俺は嬉しい! 想いを俺にぶつけてくれるのを!!」
「え……何……思ってたのと違う……」
声の女性は狼狽えるが、俺は喋り続ける。
「俺は今迄に何人かの女性と付き合った事があって、その度に俺自身を磨き、相手にも尽くした! 相手の思いも汲み取る努力をした!! だけど!! 皆、俺の愛は重過ぎて受け止め切れないと離れて行ったんだ!! 辛かった!! 俺を思ってくれる事が嬉しかったから、お礼のつもりで精一杯に尽くしたつもりだったのに!! でも、それを皆が嫌っていった。本当に想ってくれるなら、あんまりだと!! そして気付いたんだ。俺がそれだけ尽くすのは、それに負けない位の愛を返して欲しかったんだと!! そして待ってみた、俺をそれだけ強く強く想ってくれる相手を!! ――それが君だッッッ!!!」
「えっ!?」
「思ってたのと違うが、監禁という実質犯罪行為をしてでも俺を想ってくれたのなら、まさしくそうだ!! その筈だ!! 君に問う!! 俺の事が好きか!?」
「え……あ……はい……好き……です……」
「ありがとう!! 俺の事を好きになってくれてありがとう!! ありがとう!!」
俺は全力を込めて感謝した。感謝してもし切れない。……1つ、考えが過った。
「……君の姿が見たい。目隠しを外してくれ」
「え!? ――いや、駄目です!! 私、他人に自慢出来る見た目じゃないから……」
「じゃあ自分で見る!! ふんッ!!!」
俺は意を決し、手錠を引き千切った。
「うっそ!?」
「さあ、君の姿を――」
俺は高鳴る胸の鼓動の赴くままに目隠しを外す。眩しさで目が眩むが、瞳に映し出されたのは、まんまるに肥え太った肥満体の女がいた。
「デブかよ!!! 思ってたのと違う!! ――世間では太った女が好みの人はいるけども、俺は違う!!」
――絶望した。俺は崩れ落ちて、床に拳と頭を叩き付けた――いや、違う!!
「そ、そうです……私、見た目に自信が無いから……だから」
「ダイエットだ」
「え?」
俺は顔を上げて、彼女の手を握った。
「太った身体は健康上にも良くない。それに今、君は自分の姿が嫌と言ったな? もし、君の想い本当なら、健康の為に、俺の為に、君の精神上の為にダイエットしよう! 俺も一緒に頑張るから!!」
「えっと……え……」
「返事ぃぃいイイ!!?」
「は、はい! やります!!!」
「よし、いくぞ!!!」
◇
3ヶ月後、彼女の乗った体重計の表示は、〝52kg〟を示した。俺は震えた声を出す
「最初の頃は〝84kg〟だったのに、遂に来た。ここまで来れた。――ダイエット成功だよ!!」
俺は顔を上げると、そこには、俺を監禁した肥満体系の女の面影をした抜群のスタイルをした下着姿の美女が立っていた。
「私、やったんですね!!」
「ああ! やったんだ!!」
「やりましたぁぁあああ~~!!」
女は――いや彼女は、嬉しさの余りに泣き出すが、俺は彼女を抱き締め、彼女も抱き締め返す。そして俺は、彼女に近くにあった鏡を見るように促す。
「見な、君だよ。痩せただけじゃない、綺麗になったよ。誰よりも可愛く、綺麗だ」
「これが私……信じられない」
彼女は鏡に写る自分の姿を見詰めていると、おもむろに脇腹の皮を引っ張ると、ゴムのように伸びた。
「見てください、皮が伸びてる~!」
「ああ、ダイエットした人がある奴だ」
「……私、綺麗ですか?」
「ああ、綺麗だ」
「可愛い?」
「可愛い!」
「好みですか?」
「好みだとも!!」
「じゃあ……」
そう言うと彼女は、俺の顔に手を当てて自分に向けた。俺が見た彼女のその表情は、言葉で簡潔に述べるなら発情していた。
「……愛し合いましょ。2人で、いっぱい……♡」
「ああ! これから洋服屋に行って似合う服買ってデートしよう!!」
「返事が! 思ってたのと違う!」
やる気のあるデレ。略してヤンデレ。
息抜きに書きました。読んでくれてありがとう!!