2 ダイダラボッチ
―猫又―
尾の先が2つに割けた猫の妖。
普通の猫が百年生きると成る。
妖力はそれほど高くはないが、知能が高く様々な言語を操る。
また、ヒト型に化けることが可能。
修行を積むことでさらなる力を得ることができる。
「と、まあ、これが化け猫という妖なわけだけど…」
アケは読み上げた一枚の半紙をアカメの前に置いた。
「?」
アカメは書かれた絵を見て、首を傾げる。
彼らがいるのは、スイとアケの住処だ。
藁ぶき屋根に、5畳ほどの小さな部屋と小さな土間があるだけの慎ましい家。
火のついた囲炉裏の前で、アケは広げた紙と、猫を交互に見て眉をひそめる。
「あんまし似てねえな」
「?」
墨絵で書かれた猫又は、鋭く目を細め、牙をむき出しにして今にも獲物に飛びかからんとしている。毛は逆立ち、全身からどう猛さを表現していた。
反して目の前にちょこんと座るアカメは、見るからにまだ子猫で緊張感のカケラもない顔をしている。おまけに
「様々な言語どころか、猫語すら話せないじゃないときた」
アケはふう、と息を吐く。
どういうわけか、呼び名をもらっても、アカメは声をだせないままだった。
原因も分からず、アケはお手上げ状態だ。と
「まだ成りたてかもしれないわよ」
スイが後ろから、アケに抱き付くように顔を出した。
「成り立てって、どう見ても百年生きてるようには見えねえぞ?」
「そこはほら、なにか理由があるのかもね。
現に尻尾が2つに割れているわけじゃない」
「まあ、そうだな」
ゆらゆらと左右に揺れる猫の黒いしっぽは、確かに先が2つに割れている。