1 始まり3
「猫?寝ちゃったの?」
話しは終わったのだろうか。
目を開けると、スイが不安そうにこちらを覗き込んでいた。
「まだ体が本調子じゃないのかしら?
さっきから全く喋らないし」
(猫がしゃべるもんか)
黒猫は一声鳴こうと口を開き
「………」
言葉どころか鳴き声も出ないことに気が付いた。
「もしかして、声が出ないのか?」
様子がおかしいことに気づいたアケは、猫を目の高さまで抱き上げた。
「うーん、別にのども口の中もケガをしてる様子はないけどなあ」
黒猫の体を改めて調べて、困ったなあと眉を下げた。
「どうしたもんか」
「何か、術でもかけられているんじゃないの?」
スイが言う。
「もしそうなら、あたし達には分からないわ」
「じゃあ、どうするんだよ」
「分からないけど、この様子じゃ、ここに残して行くのも不安ね…」
しょうがない、とスイは息を吐いた。
「アケ、この子も連れて行きましょう」
「まじかよ」
あからさまにアケが嫌な顔をする。
「しょうがないじゃない。
どっちにしても、あのおばさんに報告しないといけないんだし」
「あーあ、めんどくさ」
どこに行くのかは分からないが、どうやら黒猫はどこかに連れて行かれるらしい。
アケの胸に抱きかかえられ、黒猫は抵抗することもなく、家の外に連れ出された。