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正統なる叛逆者  作者: 太占@
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職分

 ◇◆ロロ視点◇◆


 砦の制圧を完了してから約1時間後、残敵掃討や死体の片付けを終えた我々第八聯隊は、陽も沈まぬ内から酒盛りを始めていた。


 …いや、この文言では大きな語弊があるな。

 『私が所属する第八聯隊が酒盛りを始めた』という意訳ならば大いに正しいのだが、この『我々』というのに、肝心の私が含まれていないのだ。


 別に、場の空気に馴染めないとか、酒が飲めないというわけではないが(あまり飲まないが)、私と同じ境遇の者、そう、中隊長という立場の者ならば皆同じように仕事に追われているのである。

 


 「ニ、三小隊を合わせて欠員6。五小隊で14に四小隊で11と継戦不能3か……。かなりの損害だな」


 120人編成で34人が脱落。

 おおよそ3割を消耗だ。

 全体の5割の脱落で全滅判定と考えると『早急の補充又は再編の必要あり』といった所だろうか。


 他国なら軽歩兵の損害などあまり考慮されないだろうが、ダンメルクは違うからな。


 これだけ聞けば解任ものの失態だが、今回は寧ろ褒賞を期待しても良いだろう。


 なにせ討ち取り60余に一番乗りの大手柄付きだ。

 損害もその気になればミラ嬢の責任にできる。


 それでもなお、私の心に残るこのやるせなさの原因を上げるとすれば、私が一人も討ち取っていないからだろう。

 私が砦に乗り込んだ時には既に周囲に敵は無かったのだ。


 指揮官という立場であるため、わざわざ危険を犯してまで最前線に出る必要は無かったのだが、初陣なのだから自分の手で首級を獲ってこそ、ということを思わなくない。


 それは平生からの『自分は騎士ではない』という自負に反するものであるが、やはり武人として武勇を誇りたいのも私の偽らざる心情なのだ。


 …それよりも、実務的な問題がこの首級だ。


 騎士のものが3つ。

 内2つは第一小隊長が一人で獲ってきたもので、これも結構な戦果かと思ったのだが、先程本陣に提出した所、残念な事にそこまで高位の首ではなかったので別口の褒賞は無しとなってしまった。


 そのため、これからこいつらを処分のために運ばなければならないのだが、重いだけでなくまだ血も乾ききっていないので見た目も臭いも悍ましい。

 適当な兵に押しつけてしまいたいが、そんなことをしては士気が下がってしまう。


 …あぁ、こういう時のための従士制なのか。

 悲しいかな。

 庶民には従者を採る宛も副官を雇う余裕も無いのだよ。

 

 早く出世したいな………
















 死臭漂う死体置き場で、下弦の月を背に作業をしていると背後に何者かの気配を感じる。 


 …生き残りがいたか?


 剣の柄に手を添え、振り返れば……







 ………そこにいたのはホープ殿であった。


 「おや、ロロ君もここですか。お互い大変ですね。どうです?本陣まで一緒しませんか」


 「…君の好きにし給え」


 場所が場所なので残党兵かと思ったぞ。

 危うく抜剣するところだった。


 「それでは付いて行きますね」



 鼻と首を片付けて、酒盛りの真っ只中な陣中をホープ殿と共に進む。


 本陣へ向かって歩く間、ホープは天気の話から始め、星がどうたら梟がどうたらと取り留めのない話を続けるので、私は適当に相槌を打っておくが、正直あまり興味はない。


 天気も星も梟も森司祭の十八番だ。

 

 「いやぁそれにしても今日の戦い、すごかったですね。初陣で一番乗りでしょう?それも騎士団と騎兵隊を抑えての」


 「あぁ………」

 

 精鋭の騎士団は聯隊本陣の直掩だし、騎兵はあの型の砦の攻略には向いていない。


 「で、どうやったんですか?僕、大隊の右端だったから見えなかったんですよ」


 貴様らか、足を引っ張ったのは。


 「どう、とは?」


 「ああ、いや、どんな指揮をしたら手柄を立てれるのかなぁって」


 …今回の砦攻略戦ではあまり指揮能力は関係ないのではないか?


 ただ、突っ込むだけなのだから犠牲を厭わなければ一番乗りは容易だ。


 で、あれば問題なのは兵の練度と統率力だろう。


 …統率は指揮に入るのか?

 まぁ、日頃の訓練の影響の方が大きいか。


 「…わからないか。我々はそれを学院で学んだはずたが?」


 教えても良いが、それで競合相手が増えても嫌だし、何より直感だが、教えない方が良い気がする。

 

 「は、はは。や、やっぱり言うことが違うなぁ、優秀な人達は。ミラ様は大隊長だしロロ君は大手柄。あっ、そういえば聞きました?ヘレナ様は諸侯軍の重役らしいですよ」


 話を逸したか。

 別に何も恥じる事はないだろう。

 それぞれの選んだ5年間なのだから。


 「ヒスティア卿にヘレナ伯、どちらの配属も家柄だ。だが、少なくとも我らがヒスティア卿は名実ともに秀でていると、私は思うよ」


 というかお前も貴族だろう。

 たしか男爵家だったか?


 平民からすれば貴族の特権は羨ましいし、税を取る側の貴族を恨めしく思う事もあるが、それに見合う実力があれば何の問題もない。


 強者が弱者を虐げる。

 大自然の摂理ではないか。


 それに最近は乱世再興の兆しが明らかだ。

 貴族といえど弱ければ滅び、平民でも強ければのし上がる。

 そんな時代もそう遠くないだろう。

 

 「…唯、強かっただけだ。…そう、私も、ヒスティア卿とヘレナ伯は家が、強いからだ」


 「…強さ、か……。ははっ…僕は弱いのかなぁ…」


 なんだ?

 さっきから元気が無いな。

 部隊が壊滅でもしたのか?


 「…我々は戦いに生きるのだ。生きていれば、いずれわかる」


 強ければ良い。

 強くなければならない。

 刃向かう者を悉く滅ぼせれば良いのだ。


 だが、それは難しい。

 戦うには金と人がいる。

 それらを行えるのが貴族であり、そして───


 「…ホープ殿。何があったかは知らんが、今の我々の仕事は勝つことだ。それを忘れてはいかんよ」

 


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