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正統なる叛逆者  作者: 太占@
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進軍・貧富の差

 ◇開戦から数日後:神聖帝国内某所(ロロ視点)◆


 東部管区に集結した我ら第二軍団はニーダーへ向かっている。


 ニーダーは神聖帝国の首都プラーガと北部諸侯との境界にあたる地域の事であり、かつその地域の中核都市の名でもあるが、今回は前者を指す。


 ニーダーはプラーガからもそう遠くはないので、この地を確保してしまえば敵を誘い出すことにもなるので、我らがニーダーに陣を敷く事ができれば、ひとまずの目標は達成である。


 第一軍団の諸作戦はすでに佳境を迎えているらしいので我々の行動が完了しだい、戦いは次の局面に動くだろう。

 

 「戦い趨勢は我らにかかっている」とはミラ孃の言だ。


 軍の中核を占めるのは第一軍団とはいえ、第二軍団の行動で情勢が変化するのであながち間違いではない。


 戦とは強いだけではいけないのだよ。









 



 ◆第二軍団野営地:ミラ大隊本部陣幕


 ニーダーに侵入して初日のことである。

 野営のため陣幕を設営していると、大隊本陣から伝令届いた。


 軍団の軍議が始まる前に意見を聞きたいとの事である。

 


 「全員そろいましたね。それでは始めます。集まってもらったのは伝えた通りこの後の軍議について相談したいからです。おそらく、軍議では牽制行為の如何や中核都市への攻撃について話し合います。これについて皆の意見を聞きたい」


 「そんなこと自分で考えなさい。それがあなたの仕事でしょう」と言いたい。


 王国軍での戦略で基幹となる戦力単位は大隊なのだから、それは中隊長の仕事じゃない。


 別途報酬をいただきたいな。



 「それでは私が」

 

 ホープ殿が口火を切る。


 「私は中核都市への攻撃を始め、全ての攻撃行動に反対です。第二軍団はここ、ニーダーにいるだけで目的を達成できるのですから、決戦に備えても、わざわざ兵を消耗すべきではありません」


 まあ、そうだろうな。


 「何を言うか!敵と戦う前に将がそのような弱気でどうする!こういう時こそ拠点を落とし、士気が上げるのではないか!」


 と、イワン殿の言。

 ふむ、こちらも一理ある。


 「ふむ、たしかに兵を損じたくないのもありますが、第二軍団は新兵が多いのですし、士気を揚げる必要があるでしょう」

 

 と、ミラ孃が言う。


 これは良くない。

 意見の優劣はともかく、部下の全員が意見を言う前に上官が意見を批評するのはダメだ。


 具体的な方針が決まっているか意見具申のできる将校相手ならともかく、右も左もわからない新任相手では、自信のある者でない限り意見を言えないだろう。


 「そ、そうですな。ちょうどそう思っていたのです」


 「いやー、実に奇遇。僕もそう言おうとしたのですよ。ははは」


 案の定、ハーシュ、ニックの両中隊長はミラ孃の意見に追随するだけのYESマンになってしまった。


 「少々お待ち下さい。ヒスティア卿、私も攻撃そのものには賛成です。士気云々もそうですが、なによりも戦果が足りません。ホープ殿の言われたように、我々がここにいるだけでも牽制の効果はありますが、何もしなければ北部諸侯の軍が突破を図る可能性もあります。それに、会戦後の事も考えれば我々にも拠点が必要でしょう」


 会戦後。

 単に講話交渉とも取れるが、実際に最も懸念するのは会戦で敗北した場合の事だ。


 立て直しを図るのであれ領外へ撤退するのであれ、拠点は必要となる。


 もしかすると第一軍団が確保しているのかもしれないが、残念なことに私はその如何を把握できる立場にない。

 ただ、私のような現場指揮官が、直接、敗北主義的な事をを言うのはよろしくない。


 ミラ孃も含意を察したのか先程からずっと睨んでいる。


 もちろん、私も目を逸らすことなくしっかりと見つめているのだが、雰囲気が悪いのであまり良い気分ではない。


 『蛇に睨まれた動物の気持ちを体験できる』と評判だった私と目を合わせたいという気持ちは存分にわかる。

 きっと彼女は今、あの可愛らしい蛇と戯れつつ、さらに小動物の気分にもなっているのだ、さぞかし幸せだろう。

 だが、上官なら雰囲気を読んでほしい。


 これからまた消極的とも取れる事を言うのだから…


 …あっ、逸した。

 

 「ですが、街を攻めるのは反対です。ニーダーにはとりわけ強固というわけではありませんが、中核都市に相応しいだけの外壁があります。守備隊と他に少々の兵しかいないであろうとはいえ、攻城戦の用意も無く練度も低い我々が強攻すれば、無視でき無い被害がでるでしょう。ですから、代わりに周辺の砦を攻めるのです。その程度なら一聯隊もあれば十分でしょう。それでも士気が不十分なら適当に村でも焼けばよろしいかと」


 「ふむ…、それは良いですね。よろしい、具申しておきましょう。それでは解散とします」


 …乗り切ったか。


 









 ――翌朝


 日の出と共に目を覚まし、身支度を整える。

 とはいえ、ここは戦場であり、身支度といっても着衣の乱れを直す程度なので放っておいても問題無いのだが、やはり教養を身に着けている人間として、文化的な習慣を忘れるべきではないだろう。


 ……ノルド人の文化ってなんだ?略奪か?



 ただ計算外であったのは、目覚めたは良いが、本当に日が昇ったばかりで未だ薄暗いのだ。

 その上起床のラッパも鳴っていないので部下を起こしに行く前に朝食を摂る事にする。


 軍の糧食は燕麦パン?と塩。

 安さを極めたブドウ酒は自前である。


 飲み物の違いの方が細かくわかりそうに思われるかもしれないが、葡萄酒の違いなど、飲んでみなければわからない。

 この、一樽銀貨数枚で買える葡萄酒も本隊の騎士団長が飲む葡萄酒も同じ色だからな。

 

 ……正直、この酸味ばかりの葡萄酒よりも水の方が飲み易いだろう。

 腹を壊さぬよう、水を浄化する手段を私は持っているのだが、それは貴重品なので緊急時でもなければ使いたくない。

 それでも十分に迷う程度には、酷い味の葡萄酒である。

 

 また、軍は最低限の栄養しか支給してくれないので、食事における干物や蘇の有無が、目に見える形で貧富の差を顕すのだ。

 

 そして、その指標となる蘇や酪なのだが、これらはたいへん高価なので上流階級でなければ食べられない。

 ゆえに、軍内部の貧富の差というのも、これらを食す高給士官と食せないそれ以外にわけられるのだが、実のところ、私は一度口にしたことがある。


 我が師、ドルイダスの癖に王都に住んでいる彼女がどこぞの貴族から贈られたというのを、よほど気に入ったのだろう、普段はケチ臭いのに、たいそう上機嫌で気前良く分けてくれたのだ。 


 ちなみに燕麦パン?とは燕麦粉─カラス麦とも呼ばれる─に魚粉や薬草を混ぜ、酒、油で練り固めた物で、見た目はビスケットにも似ている。


 これは兵糧以外にも冬期の保存食に使われるのだが、ただでさえ硬い燕麦パンをさらに硬く焼いたうえに多様な混ぜ物をしたので『地獄の食事』と広く酷評される代物だ。


 『戦の絶えぬ此岸はもはや煉獄である』などと街の宣教師が言っていたが、なるほど、燕麦パン?が普及するわけであるな。

 世も末だ。

 …入り口だから、世も始だ、か。


 地獄の始まりか。

 地獄一丁目温きものなり、と。


 地獄の温度はともかくとして、実際に不味い食事は士気に関わるとかつて問題になった事があるのだが、改善策が無く解決しなかったらしい。

 しかし、私は味に対して文句を言うつもりはない。

 無味乾燥が形を取ったような燕麦パンよりは味があるだけマシだろう。


 貴族様や南の方々から言わせると燕麦など家畜の餌だそうだが、豊穣な南と違って痩せた土地ばかりの北の民にとっては燕麦パンは貴重な食料なのだ。


 とはいえ農村部以外では黒パンを食べること方が多いのだが。


 …と、いうことは農民でもないのに燕麦パンを好んで食べる私は常在戦場の体現と言えるのではなかろうか?







 ◆◇◆◇



 食事も終えてしまい、今は手持ち無沙汰なのだが、行軍の一時停止が命じられているだけなので天幕を片付けるわけにもいかず、持参した書─教授からカードで巻き上げた─を読み、時間を潰すこと小一時間。

 大隊長からの伝令が来る。

 昨晩の軍議の結果だろう。

 はて、さて、どうなったことやら。


 



 「皆、集まりまったようですね。…さて、集めた理由は軍議の結果です。昨晩の軍議では私の提案した案を基にして行動が決められました」


 それは良い。

 私の案だがな。


 「軍団を分け、一つの聯隊が周辺の砦攻略に当たります。その間、他の聯隊はニーダーの包囲を行います」


 包囲といっても、実際は徴発という名の周辺部の焼き討ちだ。


 指揮官としては敵の追撃を命じる必要の無い乱獲りは好むところである。

 なぜなら、食料だけでなく金目の物も取り放題だからだ。

 さらに余裕があれば奴隷も持って帰れるらしい。

 しかも大規模に破壊できれば手柄にもなるのだ。


 やりたい放題して僅かだが手柄にもなるとは、なんとも胸が踊る。


 「そして!その名誉ある攻略隊に、なんと我々の聯隊が選ばれたのです!これは武勲の機会です。皆、励むのです!」


 「「オオーーー!!」」


 …?

 なんだって、攻略隊だと?


 他のやつらがお楽しみの最中に命を賭けて戦えというのか。


 皆、武勲という言葉に釣られてやる気の様だが、少し考えてほしい。

 この戦いは地方貴族の領地争いと違うのだからこの後に大軍の会戦があるのだ。


 それを前にしては砦を落とした事など大した武勲にはならないし、そもそも会戦で負けてしまえば武勲など出るはずがない。

 これはただの面倒事なのだぞ。


 ミラ孃もそうだ。

 優秀であるのは知っていたが少々見通しが甘い。


 もっと効率の良いやり方があるだろうに。


 分担は軍議で決まった事なので、私はただ粛々と命令を遂行するだけなのだが、やはり、いささか不満である。







―――――――――――――――――――――――――――――――――

 戦況:ダンメルク王国VS神聖帝国


 ・神聖帝国 帝国軍:集結中


 ・ダンメルク王国 第一軍団(24000):掠奪中

          第二軍団(24000):待機 

 

 1軍団=2師団 1師団=2聯隊 1聯隊=4歩兵大隊+3弓兵大隊+2騎兵大隊+本陣直掩+輜重隊 (1大隊600)(1騎兵大隊500)

 ※騎兵大隊は各軍団に一聯隊分(1000)しか配属されておらず、他の隊は代わりに同数の歩兵か弓兵が配属されている。


          

 ・ガリア王国 :集結完了


 ・スヴェーリエ王国 :急速行軍(再編途中)


 ・スエビ諸侯 :北進開始(飢饉地獄&財政火の車)


 

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